7
※エレガントローズ学院は9月入学で6月が卒業式です。ソフィは9月末あたりに編入してきたという設定になります。
୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧
「どんな小さなことでも、困ったことがあったら連絡してきなさい。週末ごとに、ビニ公爵家に帰ってくるでしょうから、今日はこれで帰りますよ」
「え? ボナデア伯母様の屋敷に伺っても良いのですか?」
「当たり前でしょう? まさか、ソフィは週末のお休みに、帰ってくるつもりがなかったのですか?」
確かにエレガントローズ学院では、5日ごとに2日の休みが設けられていた。けれど、エレガントローズ学院の近くに住む生徒しか帰らないと思うし、私には帰る家はないと思っていた。
「あなたの帰る場所はビニ公爵家よ。四大祭りや王国創立記念祭は家族で過ごすのが慣わしですからね。わかった?」
ボナデア伯母様が言う「お祭り」とは、冬至祭り(十二月二十一日)、春祭り(三月二十一日)、夏至祭り(六月二十一日)、収穫祭(九月二十一日)――王国で四季を区切る重要な祝祭のことだった。それに加えて、大祭と王国創立記念祭もあって、その前後二日間は、寄宿舎も授業が休みになるのが慣例だとおっしゃった。
まるで自分の娘を諭すような口調で、信じられない思いだった。だって、私は姪にすぎない。しかも幼い頃に一度会っただけの、ほとんど他人に近い関係性なのに……
(私に帰る家ができたの? 本当にボナデア伯母様に甘えていいの?)
「……迷惑だったら、私はこの寄宿舎でずっと過ごしても構わないです。元からそのつもりでしたから」
「迷惑だなんて思うわけがないでしょう? 帰ってきなさい、と言った私の言葉を、そのまま受け止めれば良いのです」
ボナデア伯母様は優しく微笑んでくださった。私は安心したように体の力が抜けた。
(甘えて良いんだ)
私は思わず、ボナデア伯母様にしっかりと抱きついていた。
「まぁ、まぁ。こんなことで泣くなんて、……可哀想に。お休みの日に家族で楽しく過ごすことは当たり前のことですよ。ヴィッキーはどんな育て方をしたのかしら?」
ボナデア伯母様は私を慰めるように、そっと背中を撫でていく。その当たり前のことがいろいろなかった私には、夢のような話に聞こえた。
(家族で楽しく過ごす? 想像をしてみたけれど、ココの勝ち誇ったような顔が思い浮かぶだけだわ)
楽しくおしゃべりをして心地よいひとときを過ごした後に、ボナデア伯母様は名残惜しそうに学園を後にした。想像していたよりも、ずっと心が温かい方だった。なぜ、幼い頃何度か出したお手紙に、お返事をくださらなかったのかわからない。後で、機会があったら聞いてみよう。
☆彡 ★彡
伯母様の馬車を見送って寄宿舎に戻る途中、エレガントローズ学院のメイドが話しかけてきた。
「ソフィ様、お食事はどうされますか? 通常は大食堂で皆様、召し上がりますが」
「もちろん、皆様と一緒にいただきますわ」
そう答えると特別室に戻り、ボナビア伯母様が用意してくださったワンピースに着替えた。学院長のさきほどの話では、食事はどのような格好でも良いと聞いていた。なので、なるべくゆったりと寛げるものにした。
それは、ミントグリーンの柔らかなチュール素材を使用したもので、たっぷりと広がるフレアスカートには自然なドレープがあり、着心地も柔らかかった。胸元とウエスト部分には繊細な花や葉をモチーフにしたレースが施されていて、エレガントな雰囲気だったから、夕食の際に着ていくのも良いと思った。
着脱が楽なワンピースはひとりでも着られるから嬉しい。学院ではメイドひとりが三人の生徒を担当すると聞いていたので、私はなるべくひとりで、できることはしようと思っていたのよ。
「あら、いやだ。ちゃんとしたドレスも着ないで夕食に現れるなんて。どこの貧乏貴族のご令嬢かしら?」
食堂の手前で声をかけられた。私を馬鹿にしたような口調で、明らかに悪意のこもった言葉だった。私は立ち止まり、視線だけを動かす。そこには赤茶の髪をひとつに結い上げた女の子がいた。
「学院の大食堂でドレスコードがある等とは、学院長から説明されておりませんわ」
私はなるべく感情をこめないように淡々と答えた。
「まぁ、なんて生意気なの。あなたがどこの誰だか、私は存じ上げませんけれど……あなたは、私が誰だか知っておく必要がありますわよ? ――どういうことか、おわかり?」
彼女は、これ見よがしに扇子を広げ、口元を隠した。
その仕草ひとつで、周囲の空気が彼女のものになる。
気づけば、彼女の背後に控える生徒たちが、私を値踏みするような視線で見下ろしていたのだった。




