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#9 闇より暗く

今日はニケ隊が依頼を受けて出発する。


依頼内容は町の東門近郊に出現した魔獣を討伐。依頼主は領主様である。


領主は自分の魔動兵団を所有してはいるが、町の守護を優先としているので、攻撃すべき対象が町の外の場合は民間の傭兵に依頼することが多いらしい。


俺は今日、魔動兵装が動いてるところを初めて間近で見たが、やっぱり動力は魔法的なものらしく、腕や足に刻まれた文字が青白く光っている。動きも滑らかで、ロボットというより大きな生き物のようだ。


そして何よりも驚いたのが、その手に持っている武器がどう見ても『銃』だったのだ。魔法が存在する世界なのに、銃ってどういうことなんだろう…?魔法でも発射するのだろうか?


彼らを送り出し、遠ざかる姿を首を捻りながら眺めていた。


ふと、空を見上げると、遠くになにかが見える。


「あれ…?なんか空飛んでない…?」


遠くてはっきりと見えないが、あのトカゲに羽の生えたフォルムは『ドラゴン』じゃないか…?


「ユーリ、なに一人でぶつぶつ呟いてるの?気持ち悪いよ?」


いつの間にかりんごが俺のとなりに来て俺の顔を下から覗き込んでいた。にしてもコイツ、失礼極まりない。客観的に見て事実だったとしても、そういうことは口に出してはいけない。俺は今とっても傷付いた。


「あの空飛んでるのってもしかしてドラゴン…?」


りんごは俺の指差している方を見ると少し驚いた様子で答えた。


「へぇ、ユーリの世界って魔力(マナ)が無いのにドラゴンはいるんだね。」


「いや、いないけど。」


「え?じゃ、なんで知ってるの?」


「あ、いや。俺の世界じゃ空想上の生き物なんだ。」


「なにそれ、意味わかんない。」


「そんなこと俺に言われても…。てことは、やっぱりあれってドラゴンなの?」


「似てるけどあれはドラゴンじゃなくて、ワイバーンっていうんだよ。前足が無いでしょ?」


「へー、あぁ、そうなんだ…。」


聞いたことのある名前だけど、そういう違いだったのか。


あんなのが普通にその辺彷徨いてるんだな。危険すぎるだろ、異世界。だが考え方によっては、だからこそこの世界の人類は、生き残るために魔動兵装や、城壁を建造する技術が進化したとも言えるのではないだろうか。


「それよりユーリ。ヴィーが話があるから呼んできてだって。」


「え?なんだろ…。」


俺はヴィーの部屋へ行ったが、話があると聞いて行ったにもかかわらず、ヴィーからの用件はたった一言。


『今晩、私の部屋に来な。』


というものだった。今日はキースもニケも帰ってこない。流星団のメンバーも半分は不在だ。


話して済むことなら今言えばいいだけだし…。


い…、いったい、部屋に俺を呼んで、ど、どうする気なんだ…?


--------------------------


夜の戸張が落ちて、辺りは闇に包まれる。空に浮かんでいるのは二つの紅い月。二つの月明かりは煌々と闇を照らしているものの、赤く照らされた世界は闇よりもなお、人々の心に恐怖心を掻き立てる。


闇に紛れ、隠密機動型魔動兵装による一個小隊がストゥルベルクの城壁を登り、侵入している。しかし、魔獣に対して警戒をしている憲兵は、隠密行動に特化した魔動兵装部隊に気付くことは無かった。


隠密機動型の魔動兵装『ワルキューレ』


土系統の魔法を魔石で強化し、硬質化した土を鎧にして身に纏う。魔石に刻まれた印紋(ルーン)により操者の運動能力は常人の五倍ほどになる。その機動力を活かせば、偵察から強襲までこなすことが出来るが、連続稼働時間は短い。


〈作戦通り行くぞ。女は捕縛し、男は全員始末する。侮るなよ?相手も武闘派の組織だ。〉


《了解!》


隊長らしき人物は顔に大きな傷跡のある大男で、その名をガイアスといった。小隊の兵士たちは指示を確認すると散開し、夜の町へ消えていった。


彼らの向かった先…。それは、流星団の宿舎であった。


正面玄関、裏口、屋根の上。それぞれ配置に着くと、手を降って合図を出す。


合図と共に、一斉に宿舎の窓を割って侵入を開始する。隊長であるガイアスは建物の外で、付近を警戒しながら作戦の様子を監視していた。


宿舎の中は静まり返っており、灯りが灯っている部屋は一つもない。部屋に侵入した兵士たちは、次々とベッドの膨らみめがけて、無慈悲に剣を突き立てるのだった…。


それから暫くして、兵士が一人、ガイアスの元へと報告をしに戻ってきた。


「報告します!宿舎の中はもぬけの殻。目標はおろか、一人も中にはいませんでした!」


「なんだと!?どういうことだ!」


ガイアスが怒鳴った瞬間。報告をするために膝まづいていた兵士のこめかみを黒いナイフが貫いた。


ガイアスは咄嗟に兜をかぶり直し、ナイフの飛んできた方向に武器を構えた。


暗がりの中から、静かに足音もなく近づいてくる人影は、本来ならば魔獣討伐に出掛けていて、不在のはずのニケだった。


「あんたがリーダーか。」


そう言うと、ニケは両手を地面へ着けた。ニケの手の甲から両腕にかけて紋様のタトゥーが刻まれている。そのタトゥーが青白く光ったかと思うと、地面の土が液状となりニケの体を上って行く。


「くっ、ワルキューレだと!?報告に無かったぞ!?」


ガイアスは慌ててニケに攻撃を仕掛ける。だが、その剣が振り下ろされる時にはすでにニケの姿は消えていた。


「なに当たり前のこと言ってんの?バレたら隠密じゃ無いじゃん。」


後ろへと回り込んだニケは、手に持ったナイフで一閃。ガイアスのアキレス腱を切り裂く。


「ば、馬鹿な!?魔装生成が早すぎる!不可能だ!」


倒れ込んだガイアスを見下ろすニケの姿は、全身真っ黒な西洋の甲冑のようだった。兜だけが、まるでカラスの頭蓋を被らせたようなデザインをしていて、異様な雰囲気を醸し出している。


「兵装解除して投降してくれる?死にたいんなら別にそのままでもいいけど…。」


そう言い放ったニケの瞳は、深淵の闇のごとく底が知れない。


足に負傷を負った以上、おそらく逃げることは叶わないと悟ったガイアスは、数で勝っている味方の合流に一縷(いちる)の望みをかけることにした。


「なにか勘違いをしているのではないかね?」


ガイアスは体制を立て直し、ニケのほうを向き直す。


「我々が用があるのは、銀髪の小娘だけだ。取り引きしようじゃないか。我が主が、相応の金額を用意する。」


「・・・。」


ニケの沈黙する様子を見て、ガイアスは舌戦に持ち込めば勝機ありと睨んだ。だが、ふいに背後から声をかけられて背筋が凍る。


「めでてぇ野郎だな。」


背後から姿を表したのは、キースだった。


「これだけ完璧に待ち伏せされてんのに、まだ気が付かねぇのか?」


「なん…だと?」


ガイアスの額を、一滴の汗が滑り落ちる。キースの言葉に動揺を隠せない。


「あのお方の命令だ…。お前らは用済みだとよ。ここで全員死んでもらう…。」


そう言ってキースは剣を抜いた。剣に魔力(マナ)(ほとばし)ると、赤く揺らめき火花を散らす。


「ば、馬鹿な!?そんな筈はない!!私はサルバトール様より直々に『あの娘を捕まえてくれば、前回の失態は不問にする』と仰せつかったのだ!な、何かの間違いだ!!」


「サルバトール…。サルバトールだと…?」


キースはガイアスの喉元に刃を突きつける。


「てめぇら…。戦争が終わったってぇのに、またろくでもねぇこと企んでやがるのか…。」


キースの表情は鬼神のごとく怒りに満ちている。それを見たガイアスは、ハッと我に返った。


「き、貴様。まさか…。」


「ベラベラと喋ってくれてありがとうよ、大した忠誠心だな?」


それを聞いたガイアスは、全てを悟った。


ここを襲撃する計画が読まれていた事で、裏切りにあったと信じ込んでしまったが、全てはこの男の策略だったのだと…。


「くっ、卑怯な…。」


「仕掛けてきたのはそっちだろ?諦めて武装を解除しな。どうせ、帰れやしねぇんだからよ…。」


ガイアスは悔しさに体を震わせながら、魔動兵装を解除した。


『ザクッ』


鈍い音と、液体の滴る音…。


その手に握られた剣は、ガイアス自身の腹を貫いていた。


キースの精神的な揺さぶりによって、ガイアスは冷静な判断を奪われていた。作戦の失敗、情報の漏洩。度重なる失態に、彼のプライドは耐えられなかった。


「キースが途中でキレなかったら、もう少し情報聞き出せたのに…。」


「ふっ、すまねぇな。つい、カッとなっちまった…。」


キースは剣を鞘にしまって、宿舎のほうに目を向けた。


「あいつらも、まさかサルバトールと繋がりがあったとはな…。」


ニケと同じ鎧を纏った数人の兵士がキース達の元へとやってきた。宿舎のほうでも戦闘が行われていたようだ。


「キース、すまねぇ。三人ほど逃がしちまった。」


「いや、構わねぇさ。想定内だ。これで奴らも迂闊に手を出せなくなる。」


「でも、よかったのか?みんな殺しちまって?」


「大丈夫だ。どうせ大した情報は出てこねぇ。さて。朝が来る前に後始末しちまうぞ。」


「了解。」


紅き月に煌々と照らされて、ガイアスの亡骸は不気味に赤く染まっていた。




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