#10 訪問者
コンコン
俺はヴィーさんの部屋の前にいた。
ドキドキしながら部屋のドアをノックする。
流星団のアジト(?)は事務所的な店舗の他に、団員が共同で暮らす宿舎がある。一階の角部屋にヴィーの部屋があり、おそらく全ての部屋のなかで一番広そうに見える。今は、りんごも一緒の部屋に住まわせてもらっている。
つまり、ここは禁断の女子部屋なのだ。
「今、灯り消すから待ってな。」
と、中からヴィーの声。
ん?灯りを何故消さなければならないのだろう。
「いいよ、入ってきな。」
「あ、はい。オジャマシマス…。」
緊張しながらドアを開けると、フワッと花の香りのような空気が体をすり抜けていく。まだ目が慣れていないが、部屋の真ん中辺りに人影が見える。おそらくヴィーであろう。
「よし、来たね。話はりんごから聞いてるだろ?」
「…え?なんのことでしょう…?」
「は?あいつ、何にも話してないのかい?」
「ええ…。たぶん、忘れてるんじゃないかと…。」
ヴィーはポリポリと頭をかいた。
「まぁ、いいか。時間も無いから準備しながら話すよ。まず、上を脱ぎな。」
「…は?」
「上。上半身。とっとと、脱ぎな。」
ちょっと、なに言ってるのか分からない。準備しながらじゃなくて、先に話してから準備してほしい…。
俺は混乱した頭でシャツを脱ぎながら思った。そういえば、りんごも同室なはずだがどこに行ったのか。ちょっと文句も言ってやりたいところだ。
「そういえば、りんごはどうしたんですか?」
「あぁ、先にイカせといたよ。」
え?なにそれ、意味分かんないんですけど。なんか暗くてよく分からないけどガサゴソ音がする。ヴィーさんが何かしらの準備をしているのか?
「こっちだよ。おいで。」
そう言って奥の部屋へと入っていった。
そこは寝室ですよね…?俺の心臓は100メートル全力疾走したくらいバクバクしていた。
ま、まさか…。先にイカされたりんごがこの部屋にいたりするのだろうか…。俺は恐る恐る部屋へと足を踏み入れた。
「シャツの下にこれを着ときな。」
部屋に入ってヴィーに渡されたのは、鎖かたびらだった。よく忍者が着ている金属で編まれたチョッキみたいなやつだ。
「こ、これは?」
「一応、念のためさ。さ、こっちだよ。」
そう言って案内されたのは、地下へと続く、隠し階段だった。
狭い地下道を抜けてたどり着いた先は、魔動兵装を保管している倉庫だった。
「あ、ユーリー!こっちだよー!」
りんごが手を降っている。こいつのお陰で恥ずかしい勘違いをさせられた。あまりにも能天気な態度にちょっと腹が立つ。
「ここ最近、あたしらの回りを嗅ぎ回ってる奴らがいた。それがどうやらあんたたちに関係ありそうだってんで、罠を張ったんだよ。」
「え?どういうことですか?」
「まぁ、どうなるかはまだ分からないけどね。念のためあんた達はここに隠れてな。」
そう言って、ヴィーさんはコンテナなような箱についたドアを開ける。
コンテナの中には一機の魔動兵装が格納されていた。ボロボロで頭の部分が取れている。魔動兵装の傍らには寝袋とランプ、食べ物や水が置いてある。
「しばらくここに隠れてな。ちょっと狭いけど、死ぬよりゃマシだろ?」
「え?死ぬ可能性あるような事態なんですか…?」
それを聞いたヴィーは優しく微笑む。
「死なせないさ。」
そう言うとドアを閉めて行ってしまった。つまり、どういうことだ?とにかく隠れてりゃいいんだな。たぶん。
そういえば、りんごが先に入った筈なのだが見当たらない。どこに行ったのだろう?
部屋の中を見渡していると、上のほうから声がした。
「ユーリー?見て見てー?」
「ん?」
見上げると、魔動兵装の頭の部分からりんごが顔が出ている。
「何勝手に乗ってんだよ。怒られるぞ。」
「えー?いいじゃん。ユーリは興味ないの?」
う・・。そう言われると、確かに。壊れて使ってないみたいだし、少しくらい触っても大丈夫な気もする。
「これ、精霊から魔力を供給できる仕組みみたい。今のボクでも繋がれる。」
「え?それって、どういう…。」
魔動兵装の各部に施された印紋に光が宿る。本当に電源がはいったようだ。このシチュエーションでテンションの上がらない男子がいるだろうか?ちょっとワクワクしてきた。
「りんご、これ動かせるの?」
「それは出来ないみたい。あ、これなら出来そう…。」
そう言うと、魔動兵装のお腹の辺りが開いた。見えてきたのは、どう見ても操縦席だ。
「え?マジ?これは、乗るしかねぇ!」
俺は我を忘れて中へと乗り込んだ。椅子にはシートベルトのようなもので体を固定するらしい。
ハッチが閉まっていく。これはりんごが操作しているのだろうか。
完全に閉じると、外の景色が見えた。頭が取れてるってことは、メインカメラがやられているのでは?何故見えるのか・・。
で。これはどうやって操縦するのだろうか。テレビアニメだと大体レバーとか付いてるはずなんだが。
「なぁ、りんご聞こえる?」
〈どうしたの?〉
「これ、どうやって動かすの?」
〈うーん。こうかな?〉
ひょこっと目の前に現れたのは、なにやらコントローラーのような物体。ジョイスティックのやつ。
「マジか。俺、キーボード派なんだけど。」
〈えーと、じゃこうかな?〉
コントローラーが格納されて、キーボードとマウスが現れた。さすがにこれはギャグとしか思えない。
「どういう事だ?これ、俺の世界にあった物とほとんど同じなんだけど。ここ本当に異世界なのか!?」
〈さぁ、なんででしょう?これなら動かせる?〉
「いや、ちょっと待て。よく考えたら、動かしたらダメだろ。俺達今隠れてるんだから。」
〈あ、そっか。忘れてた。〉
普段ならばりんごが子供みたいにイタズラして俺が止めているところだが、今回ばかりは俺も興奮を押さえられなくなるところだった。あぶない、あぶない…。
「もしかしてりんご、今なら魔法使えるんじゃないの?」
〈うーん。操縦する人が許可を出さないとその系統の紋印に魔力を流せないように作られてるみたい。ボク自身が魔力で操ってるわけじゃないんだよね。〉
「うーんと?つまりお前は電池みたいなものか。」
〈電池?〉
「あ、いや。こっちの話。なんでもない。」
以前から気になっていた動力は、やっぱり魔法的なエネルギーだった。俺達の世界でいうところの電気が自分で作り出せるとかエコだな。
しかし、電気で動くパソコンのキーボードやマウスと同じものが偶然異世界でも開発されるのだろうか?蛇口くらいなら、たまたま同じ形になることも納得できるが、これはちょっと不自然な気がする。まぁ、可能性はゼロでは無いんだろうけど…。
その時、コンテナの外から話し声が聞こえてきた。
「クソッ!どうなってる!?なんで待ち伏せされてるんだ!」
「分かりません。隊長との通信も途絶えました。どうしますか?」
「隙をみて脱出する。これ以上の作戦の続行は不可能だ。」
ちょ。おいおい、なんか特殊部隊がピンチの時にするテンプレみたいな会話してる奴らがいるんですが。もしかしてこいつらのせいで俺達今隠れてんのか?
ということは、ピンチなの俺達じゃん。
あ、でもこの中にいれば安全か。いや、ダメだ。りんごの乗ってるとこは、むき出しだからりんごが危ない。
どうかここにいることがバレませんように…。
〈くしゅんっ!〉
「誰かいるぞ!」
ばかーっ!バレたじゃないか、なんでこのタイミングでくしゃみすんだよ。
「や、ヤバい。どうする!?」
〈こうなったら仕方ない!あいつらやっつけちゃおう!〉
いや、お前のせいだからな?なにが仕方ないだよ…。
コンテナを囲むように動く足音が聞こえる。人数は多くない、せいぜい三人くらいか。まさかFPSで鍛えた索敵能力が現実に活きるとは思わなかった。
「やっつけるって、どうやって?動かせるかも分かんないのに。」
ガチャ
コンテナのの扉が外から開けられる。迷ってる時間も、試してる時間も無いようだ。
扉の開くタイミングに合わせて、キーボードの[W]を押す。開きかけの扉をはねのけ、コンテナを飛び出した。
「う、動いた。」
マウスを動かすと、視点と機体が操作出来る。いつもやっていたゲームの操作と同じだ。中心にレティクルもある。銃さえあればこれなら戦えそうだ。
ダッシュはどうするんだ?[shift] 押しか?[W]二回押しか?
俺は[shift]を小指で押しつつ、[A]、[D]と交互に押してみる。さっきより動きが素早い。[shift]がスプリントか。
「あの女だ。ターゲットを発見したぞ!」
まずい、やっぱりこいつらりんご目当てか。そうだろうな、とは思ってたけど。
「りんご、さっきやっつけようって言ってたけどどうやって?こいつに武器とかあるのか?」
〈え?ほら、蹴ったり、殴ったりすればいいんじゃない?〉
「脳筋かよ!そうだった、お前はそういうタイプだった!」
〈脳筋?ねぇ、なんかわかんないけど、さっきからボクのことバカにしてない?〉
「いや、そんなことより逃げるぞ。」
だが、小回りもスピードも向こうのほうが早い。すぐに追い付かれる。
「一応、武器もってないけど左クリックでパンチすんのか。どこまで都合よくできてんだよ。まさか、ゲームみたいにウルトもあったりして。」
俺は適当にいくつかボタンを押してみる。[Q]のボタンを押したとき、機体から風のようなものが出たかと思うと、辺りが一瞬で霧に包まれた。
「こ、これはりんごと出会った時の霧か!?」
「な、なんだコレは!?」
急に視界を奪われ、敵は混乱している。それとは逆にこちらは敵のいる位置が手に取るようにわかる。
そう。あの森の中で感じたあの感覚だ。ということは?
機体の動きが更に機敏になる。早すぎて制御が難しい。だが、俺はこういうのめっちゃ得意なのだ。
敵のいる場所へ、レティクルを合わせ、パンチ!
ズドン!
敵がぶっ飛び壁にめり込む。これなら、いける。
そう確信した俺は、残りの二人を次々と殴ってめり込ませてやった。今更な気もするが、死んでないよね…?
ガラガラガラ…
倉庫の扉が開かれた。中での音を聞きつけたのだろう。そこにはヴィーやキースの姿があった。みんなも駆けつけてれたようだが、皆開いた口が塞がらない様子だ。
段々と霧が薄くなってきて壊れた壁や、床が見えてくる…。
やべ、調子に乗りすぎた…。ど、どうしよう…。めっちゃ怒られそうだ…。




