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長耳娘と相棒と~現場監督の異世界害獣討伐記~  作者: スギタジュン
第三章 異変

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第39話 カピバラさんの活躍


 避難民の保護から三日目の昼。会敵は推定三日後。


 平衡錘投石機トレビュシェットを予備防衛線の少し手前まで移動させた。何度も実験して、飛距離を制御することに成功しているけど、万一失敗して味方に降り注いだら目も当てられない。


 やぐらの建築も始まった。カグヤちゃんが主体となっている。矢玉の生産は、道具と設備が限られているので、ローテーションを組んで人を交代させながら夜通し続けられている。


 今朝、鍛冶屋を訪ねてみたのだけれど、残念ながら、やじりは一万個くらいしか作れないそうだ。材料も時間も人も足りないらしい。もう鏃はあきらめて、鋭く尖らせた竹の矢をたくさん作ることにした。先端に油を塗って火で焙ることを繰り返せば十分に強くなるはずだ。相手は鎧を身に着けているわけではないので近距離なら問題ないと思った。


 予備防衛線となる第一段目の馬防柵は少しずつ組みあがってきた。アカリたち射手が訓練に励んでいる。遠くに置いたまとをめがけて、次々と矢を放っている。一分間に十射できるようになるのが目標らしい。


 アカリはおれを見つけたのか近づいてきた。


「ちょっとシノ、なに暢気にぞろぞろ連れて散歩しているのよ」

「えっ!?」


 後ろを振り返ると、カピバラさんたちが、いつの間にかおれに続いていた。


 今朝、ちょっと飼育小屋の方へ顔を出した。最近かまってやれないから飴玉をあげたのだけど、また欲しくてここまで来てしまったのかもしれなかった。


 頭をなでながら、ひと粒ずつあげてみる。


「ちょっと、シノ! まだ飴玉隠し持ってたの?」

「わたしにもちょうだいよ!」

「えっ、これはカピバラさん専用なので……」

「あなたね、そのモグラとわたしのどっちが大事なのよ!」

「は、はい。どうぞ……」


 おれはアカリの口にひと粒放り込んだ。アカリはもぐもぐと満足そうだ。


 カピバラと大差ない。


 おれはちょっとしたことを思いついた。このカピバラさんたちは頭がいい。もしかしたらおれたちの作業を手伝ってくれるかもしれなかった。


「カピバラさん、こっちにおいで!」


 おれは手招きしてカピバラさん一家を構築途中の柵のところに案内した。


「カピバラさん、こういうふうにできる?」


 おれは杭を打ち込むための穴をシャベルで掘った。すると、カピバラさんたちも真似して掘り出す。


「そうそう、この位置にお願い!」


 こちらの意図が通じた。感激だ。ご褒美に飴玉をあげる。要領を得たのか、カピバラさんは指示した位置に大小の穴を掘ってくれた。すごい、大人五人分の掘削力がある。


 それからは馬防柵の構築はどんどん捗った。


「シノ、あなた、また変わったことしてるわね」

「どう、カピバラさんたちすごいだろ!」

「え、えぇ、まあ、そうね……」


 アカリは半分あきれているように見えた。


「それよりシノ! 聞いたわよ」

「なにを?」

「今回の作戦のことよ」


 シナツさんは射手などに今回の作戦の内容を説明したらしい。


「最初から最後まで下がってばかりじゃない。かっこ悪いわよ」

「そんなこと言われても……」

「一度も前に出ないの? 臆病だわ!」

「そうかもしれないけど、安全第一! みんなが怪我をしないことが一番大事だと思う」


 アカリが不服そうにしていると、だれかが声をかけてきた。


「アカリ、シノ殿を困らせるものではないぞ。あんな害獣にわざわざ近づく必要はない。おれはこの作戦に賛成だ」


 トミサン村の最後の長老衆、ダイカクさんであった。


「ダイカク叔父さん、もう大丈夫なのですか?」

「ああ、随分、休ませてもらってすまなかった」

「シノ殿、トミサン村の者をいろいろ助けてくれているそうだね、礼を言わせてもらう。ありがとう」

「いえ、ダイカクさん、大したことはできていません。今も作業を手伝ってもらっていますし……」

「みんな感謝しているのだ。それに反撃の機会をつくってくれてありがとう。なんとしても皆の仇を討ちたい。おれも射手に加わらせてもらうよ」


 そういうとダイカクさんは訓練の場に戻っていった。トミサン村の撤退戦では大きな犠牲がでた。おれには想像もできないくらいの憎悪を秘めているのかもしれなかった。


 まだ、怪我も回復していないのだから、無理だけはしないでほしいと思った。




 午後


 これから、作戦区域中の「中域」と「近域」の仕上げをする。まず、拒馬きょばのような障害物を設置することにした。尖らせた丸太を鋏組はさみぐみにしたものだ。敵の流れを規制するねらいがある。


 大工寮こだくみのつかさの仲間が障害物を次々と運び込む。


「おかしらー、この辺りでいいんでやんすかね?」

「ああ、そことそこにお願いします」


 障害物は、敵の圧力を中央に仕向けるような形で配置した。左右両翼から射撃を加えるので、真ん中に集まってくれたら儲けものだ。


 それから、この範囲に罠を巡らすことになった。罠を置いて敵の侵攻を少しでも遅らせようと、以前、サギリが提案したものだった。大工寮こだくみのつかさに作らせていた物もどんどんと運ばれてくる。


「カピバラさん、ここに穴を掘ってくれる?」


 古典的だけど、まずは落し穴をたくさん作ろうと思う。


「シノ君、そんな浅くていいの?」

「ああ、サギリか。まあ、足を取られて転んでくれればそれでいいよ。あとは後続のお仲間が踏み潰してくれるでしょ」

「そ、そうなんだ……」

「心配なら、サギリの得意なククリ罠を仕掛けておこうか? 落ちた瞬間に足を拘束するようにしとけば、逃げられないよ」

「そ、そうね……」


 あとは、低い位置にロープを張ったり、草を結んで輪を作ったりと、敵を転ばせるような罠をたくさん作った。侵攻のスピードが少しでも遅れてくれれば射撃が容易になるかと思った。ついでに転ばせた先には、剣山やらスパイクやらをこれでもかというくらいに突き立てた。竹串とか尖らせた枝で村の子供たちが一生懸命に作ったものだ。


「シノ、それ刺さったら痛そうだな……」

「ああ、タダも手伝ってくれていたのか。絶対転ぶなよ」

「そ、そうだな。気を付ける……」


 おれがもう一種類別の罠を仕掛けていると、アカリが寄ってきた。


「シノ、何を作っているの?」

「『ぎったんばっこん』だよ」

「えっ、なによそれ?」


 おれが仕掛けていたのはシーソートラップだ。シーソー板は鬼猿の体高の長さに合わせてある。板の一方の端に近いところには脚部が設けてあり、これが支点だ。力点となる板の端は小さな穴の上に置き、作用点となる反対の端には釘を植え付けた。


「鬼猿がここを踏むとね、板の端は穴に落ちて、反対の端が跳ねあがるんだよ。それで、先に植えてある釘がちょうど顔面に突き刺さるという仕掛けだよ」

「うわっ、痛そう……」

「そうだね。脚部を深く土中に埋め込んで固定してあるから、何回も使える。ここを通った鬼猿は何頭も餌食になると思うよ。なかなか、いいでしょ?」

「………」


 どうしたんだろう。アカリが少し引きつっているような気がする。


「おかしらー! 集めましたぜ。これどうするんです?」

「さっき並べた障害物に括りつけてください」


 みんなに柴とか麦わらとかを燃えやすい物をかき集めてもらった。それを列状に配置した拒馬きょばに縛りつけてもらうことにした。


「シノ、そんなもの括りつけてどうするのよ?」

「うーん、風にもよるんだけど、鬼猿が障害物に誘導されて密に固まったところで、火矢を射掛けようかなと思ってる」

「…………」

「うまく行けば鬼猿は丸焦げ」

「…………」


 ――あれ、なんか周りから冷ややかな視線を感じるかな……


「あ、あの、何か?」

「シノ、これ全部あなたが考えたの? よくそんなヒドイこと思いつくわね」

「シノ君、えげつないこと考えるのね。あたし、ちょっと引いたわ」

「鬼猿は憎い害獣だけどよ……さすがにここまではな……」


 用意したのはどれも古臭い手段なのだけれど、ドン引きされてしまった。


「い、いや、別におれが考えたわけじゃなくて、どれも昔からある戦術だよ」

「シノの故郷ではそれが普通なの? ちょっとつきあいを考えなおしたい気分よ」

「ええと……」


 この世界の人たちは大きな戦争を経験していないらしい。とても卑怯な手段だと感じているようだった。おれはシナツさんに視線を送って助けを求めた。


「いやはや、恐ろしい。知識も使い方によっては暴力になるのですね。私はシノ殿の世界に生まれなくて良かった……」


 みんなに極悪非道のひとでなしのように思われた。ちょっと悲しい。


 カピバラさんが鼻を鳴らしている。飴玉をあげてみた。ちょっと癒された。


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