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長耳娘と相棒と~現場監督の異世界害獣討伐記~  作者: スギタジュン
第三章 異変

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第38話 武器と陣地構築 その二


 避難民の保護から二日目の午後。


 最終防衛線の柵が思ったよりも早く完成した。今みんなは前段の予備防衛線の構築に取りかかっている。こちらの馬防柵は新しく作るものなので、少し工夫を凝らした。作戦区域に向けて逆ハの字に開くようにする。射線を交叉させて両翼から効率よく矢を打ち込むためだ。


 予備防衛線が築けたら、村の南正面にも柵を巡らすことになっている。こちらから敵が侵攻してくる可能性は低いと見積もられていたけれど、念のためだ。


 村人の約半分は柵作り、残り半分は矢と投槍の作製に従事してもらっている。トミサン村の難民も協力を申し出てくれた。多くの人が投入され、集会場でも作業が可能になったので、生産量はいい調子で上がっている。



 先ほどの実験でこちらの飛び道具の射程距離がおおむね確認できた。おれはシナツさんに協力し、作戦の詳細を詰めることにした。


「シナツさん、こちらの用意できる武器の最大の射程はだいたい百メートルから二百メートルの範囲です。作戦区域となるこの草原をいくつかに割りましょう」

「具体的にはどうするのですか?」

「作戦区域を遠、中、近の三つの範囲に区分します。実際に歩いて目印を立てて行きましょう」


 戦場となる草原を実際に歩き、距離感を肌で覚えることが大切だと思った。おれたちは予備防衛線を開始位置として草原を北に進む。


「ここまでがだいたい百メートル、弓の平射が辛うじて届く範囲でしょうか」


 おれは目印となる旗を立てる。


「シナツさん、予備防衛線からここまでの範囲を『近域』と定めましょう」

「近域の敵は弓の直射で狙い撃つということですね?」

「はい、そうなるでしょう。まさに正念場です」


 さらに北上する。予備防衛線から二百メートルの位置に来た。


「ここが二百メートル。ここまでを『中域』とします。弓の曲射はだいたいこのあたりまで届くことが分かっています」

「この距離では正確に当てるのは無理ですよね?」

「ええ、ですから、狙撃というよりは、湾曲した弾道で矢の雨を降らせることになります」


 さきほど試した投石と投槍も合わせれば、かなり効果的に弾幕を張ることができるのではないかと考えた。


「そうですか……ただこれまで弓をそのように用いたことはありません。少し訓練が必要になりますね……」


 この中域で敵を大きく削れれば、近域での戦闘がだいぶ優位になるはずだった。


 陣地からの有効射撃が届かない二百メートル以遠は『遠域』だ。この先はおれと相棒の出番となる。クルマの荷台に短弓を備えた射手いてを配置して、草原を何度も横断しながら、射撃を加え続けるのだ。ローマ軍の戦車チャリオットを参考にしてみた。こうすれば、敵の頭を抑えながら、勢力を漸次削っていけるんじゃないかと期待した。


 だいたい作戦の構想がまとまってきた。シナツさんと細部を詰めていく。


「シナツさん、会敵予想の前々日あたりから敵の予想進路上に少数の斥候を置きましょう」


 会敵の位置と時機を特定するまではこちらが不利となる。村の北側正面のほかに、南側正面も警戒しなければならない。



「作戦の第一段階は索敵です。とにかく少しでも早く敵の位置を捉えましょう」

「敵を発見したらどうしますか?」

「あらかじめ決めておいた合図を送ってもらいます。狼煙がいいですね」


 敵が北の岳の東側の谷を下ってくることが分かれば、この作戦は半分成功だ。村の南側正面の警戒に当てた人的、物的資源を北側に再配置する。十分な迎撃準備をしている北側の正面での戦いとなる。


「第二段階として、敵が遠域に入ったら、おれが射手いてを乗せたクルマで出ます。機動力を生かして敵を狙撃、ある程度削ったら、急いで陣地まで後退です」

「昨日の救援のときのよう車上から射つのですね」

「はい。それで、クルマの荷台には櫓を作ります。射手は上段と下段で十二人程度乗せる予定です。人選をお願いしたいのですが……」

「わかりました。救援のときと同じ顔触れになるかと思います。」


 みんな狩人らしいのだけど、自身が動いている状態で矢を射る経験はないだろう。クルマで敵前を航過しながら狙撃する訓練も必要になった。


「次は、第三段階です。敵が中域に入ったら、長弓の曲射を開始します。ああ、そうだ、大事なことを聞くのを忘れていました。射手は何人くらいいるのですか?」

「第一段階の作戦に参加する射手も含めて全部で五十名程度です」

「案外少ないのですね……」


 十五歳から三十五歳くらいまでの男で弓の適正がある者がそれくらいしかいないのだそうだ。もちろんおれは適正外だ。ただの飛距離比べでさえ、アカリに負けた。


 射手が思ったよりも少ないのだけど仕方ない。他の飛び道具も併用して飽和攻撃を仕掛けることにする。


「第四段階は、決戦です。近域に進入してきた敵を一気に殲滅します。矢を射ちまくり、槍や石を投げまくります。できれば、ここで決着をつけたいです」

「シノ殿、もし殲滅に失敗したら……」

「予備防衛線が破られたら、次は、第五段階に移行します。最終防衛線まで後退し、なんとしても残りを仕留めます」


 もし、最終防衛線が破られたら……考えたくもなかったけど、村の半分を捨てて、南の湖まで後退し、水路を境にして応戦する予定だ。それすらも失敗したら……もう家に立てこもるしかない。


「シナツさん、第四段階で戦いを終結できるよう十分な訓練を積み上げていきましょう。おれの方も十分な武器を用意できるよう最善を尽くします」


 おれと団長は大きく頷き合った。


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