異空間
文化祭3日目からの続きになります。
この辺りの話で少し色々な話が出てきます。
楽しんで頂ければ幸いです。
草や木などが存在しない真っ白な空と地面だけで作りだされた広大な空間。
正式な名称は殆ど知られていないが他の世界ではこの空間の事を歪と呼び、主に魔族など異世界の住人が人間の住む世界で活動する拠点として利用している。
力の大きな魔族などが作った歪には荘園や豪華絢爛で城ほどの大きさを持つ屋敷まで存在しているが、この歪を作り出したモノの力が弱いのか、草木も生えぬ白い不毛の大地が数キロ四方に広がっているだけだった。
その殺風景な白い世界に先程姿を晦ませた環状石崇拝教教徒と大き目のポンチョの様な物を羽織った人がふたりほど立ち、そのうちひとりの男は環状石崇拝教教徒と激しい口論をしている。
「過去に貴様が行った所業は、爆発物を使った破壊活動に人攫いや殺人。やれやれ、貴様は教徒の中ではまともだったと思っていたのだがな」
「な……、なんだと!! 我々の崇高な目的の為に邪魔な存在を排除しただけだ。貴様はあの方の息子でありながら、いつから政府の狗に成り下がった?」
「勘違いも甚だしいな。我々の目的は只一つ、『人類を不用意なまま環状石に近付けない』だけだ。別に政府の狗に成り下がったつもりはない。貴様らこそいつから看板をテロリストに書き換えた? 我々の目的は破壊活動では無い」
「環状石を中心とした絶対支配区域の名称は魔族の聖域。あそこは魔族の支配区域で人間が立ち入ってはいけぬ場所の筈だろう」
魔族の聖域とは、環状石が出現した場所から最低直径一キロから、最大数キロにも及ぶ拠点晶がその周りに一つも無くても解放されない環状石の完全支配領域の事だ。
周りの拠点晶を破壊して環状石を孤立化させる作戦で一定以上レベルが上がると効果が無くなるのはこの支配領域がかなり広大なエリアに及ぶ為で、完全に孤立化させたつもりでも魔族の聖域内に一つでも拠点晶が残っていれば、その拠点晶を中継地点として他の支配区域や孤立させたエリアの外に繋がる事が原因だった。
環状石崇拝教教徒とその男はこの国の政府関係者も知らぬその秘密を、この何も無い空間でこともなげに口にし続けていた。
この事が広く知られていれば、高レベルの環状石の対してもう少し別な作戦や攻略方法があったに違いない。
「無力な人が魔族の聖域に立ち入って困ったのは昔の話だ。今は余程高レベルの環状石でもない限り問題は無い」
「低レベルの環状石は破壊されても構わないというのか!! GE共生派の奴らがGEは増長して多くの種を滅ぼしてきた我々人類の目を覚まさせる為に神が送りし使者と言っていた。その使者を生み出す聖なる棺環状石、それを貴様は!!」
「壊しても構わないな。出来るのであれば高レベルの環状石ですら破壊して貰ってもいい。もっとも、流石にレベル十を超える環状石の破壊はまだ無理だと思うが」
日本国内にもレベル十を超える環状石はいくつもある。
かなり早い時期からその支配地域は完全隔離されており、隣接区域に住んでいた人の避難も一九九九年の第二次GE大侵攻前に行われている為に人的被害も他と違ってあまり出てはいない。
その反面として周囲の広大な土地をGEに切り取られている為、高レベルの環状石に侵攻する前に周りの低レベルな環状石をかなりの数破壊する必要がある。
第一次GE大侵攻時に石にされた人は既に全員蘇生可能な年数を終えている為にこの高レベルの環状石を破壊する意義は少ないが、国土の奪還や今後の事を考えればあの広大な土地を奪われたままにする訳にはいかなかった。
「それは中にいる門番GE次第だな。流石にアメリカで倒した赤竜種型W・T・F以上の奴はそこまでいないと思いたいが」
「き…貴様は凰樹!! どうやってこの場所に……」
「偶然入口を見つけただけだ。しかし、随分と殺風景な隠れ家だな。何となくだがこの雰囲気は環状石内部の空気によく似ている気はするが」
「何度も環状石に侵入している為に歪の入り口を見抜けたって訳か」
「環状石内部と歪の構成は元が同じといわれているから、そう感じるのも無理のない事だ。さっきの話だが、レベル十あたりであればあれより強いGEなどいないだろう。しかし、それ以上の環状石になればどんな化け物が潜んでいるか想像もつかんぞ」
レベル一と二の門番GEの能力差を考えれば、レベル十以上の環状石に潜む門番GEがどの位の強さなのか想像する事すら難しい。
W・T・Fもレベルが一つ上がればその強さも桁外れになる事から、二十を超えた環状石からはどんな化け物が出てくるか知れたものではなかった。
「お前の件は置いておくとして、そこの環状石崇拝教教徒の処置だが……」
「……おい凰樹。多少GEと戦えるからといっていい気になってんじゃねえぞ。GEは相性が悪くて無理だが、もし正面から戦えればこの俺だってお前に勝てるんだ」
「ほう。なかなか面白い挑発だ。今の俺に勝てるだと?」
まともに考えればそんな事はあり得ない。
もし仮に凰樹を倒せることが出来るならば、どんなGEと戦ったとしても後れを取る事も無いだろう。
対人戦であればまさに無敵で、こそこそと破壊活動などする必要すらない。
「ああ。こう見えて俺は対人、厳密に言えば対魔族用の特殊な力を持っている。たかが氣使いのお前に遅れなんぞとらんぜ」
「なかなか面白い事を言うな。良いだろう……」
「ほう……、珍しい事もあるな」
以前の凰樹であれば男の戯言には付き合わず、即座に斬り殺すか撃ち殺していただろう。
しかし今回の凰樹は男の自信が何なのか、そしてその力がもしかしてGE討伐の役に立つのではないかと考えてあえてその挑発に乗ることにした。
「ここなら周りに迷惑がかかる事も無い。その自信の技がなんなのかは知らんが、試してみるがいい」
「自分の力を過信すると死ぬぞ? 特殊な力を持つ者が自分だけだと思うなよ。変身!!」
男が目の前に指輪を掲げて叫ぶと、全身を包み込む様に濃紫色のローブが現れる。
身体からはまるで氣のような光が漂っていた。
「変身……。その身に纏ったローブが貴様の自信の元か?」
「変わったのがこのローブだけだと思うなよ!! 行くぞ」
「良いだろう」
凰樹も全身から氣を放出して戦闘態勢に入った。
身に着けていた制服や下着に至るまで氣対応型スワットモチーフ特殊BDUスーツと同じ素材で作られており、どれだけ氣の出力を揚げてもはじけ飛ぶことなど無く、凰樹の人外な力を存分に発揮する事が出来る。
この状態になった凰樹を倒す事などほぼ不可能で、現存するあらゆる兵器を投入してもおそらく傷ひとつ付けることはできない。
その凰樹に対して男は高速で移動しながら無数の光弾を打ち出し、攻撃を視認してなお一歩も動かない凰樹に容赦のない集中砲火を浴びせる。
身体に纏っている強大な氣に阻まれるために、この程度の攻撃がまるで通用しない事は男も理解しているが、それでも男は執拗に無数の光弾を放ち続けた。
「光の爪!!」
ワンパターンに放たれ続けた無数の光弾の全てがおとりで、男の手から放たれた本命といえる斬撃型の魔法、三日月型の光の刃が一瞬で凰樹を真っ二つに斬り刻むと思われた。
しかし、その光の刃は展開していたシールドに阻まれてあっけなく砕け散り、かすり傷ひとつ付けることが出来ない。
「奇襲という意味ではかなり強力な手だ。GEに通用するなら便利だったろうな」
「……事もなげに防ぎやがるな。俺はこの魔法で何人も斬り殺してきてるんだぜ」
「シールドも展開できない人間相手なら楽勝だろうな。だがGEにも通用しない時点で無用の長物に過ぎん」
光の爪を見た瞬間、凰樹はほんの少しだけ期待した。
しかし、今の技であれば使用の際に直線上に存在する味方などにもかなり気を使わなければならない為、この程度の威力であれば神聖な十の剣を使った方がはるかにましだった。
「馬鹿にしやがって!! 貴様は無残に焼け死にやがれ!! ……火炎嵐!!」
空気を赤い舌で舐めながら全てを呑み込んで焼き尽くす炎の竜巻が男の目の前に現れ、それは次第に天空まで焼き尽くすような巨大な竜の如く成長して凰樹を呑み込んだ。
「炎の竜巻か。確かに広範囲を焼き尽くすにはいいかもしれんな。GEが焼け死んでくれるならだが」
「ふははははっ、それが貴様の最後の言葉になる……、んだと」
身体を包み込んだ巨大な炎の竜巻は一瞬でその中心からかき消され、其処にはめんどくさそうに手を横に払った姿の凰樹が立っていた。
氣だけの力ではないが、周りの酸素を奪い尽くすはずの炎の竜巻ですら凰樹を殺すには至らない。
つまり、酸素など生きる為に必要な物を自分の周り……、厳密に言えば凰樹は自らの体内で無限に生み出せるようになっているという事だ。
その上周りを包んでいる熱風や超高温な状況にすら平然としている所から、激しい気温の変化などにも影響されない事が窺える。
「対人にはいいかもしれんが、やっぱりGE用には使えないな。時間の無駄だったか」
「くそっ!! 化け物が」
「ちょっと氣を使えるだけの一般人に化け物は酷い言い草だな。そっちのルールで答えてやろう。神聖な十の剣!!」
光で作りだされた十本の聖剣。
それを目にした瞬間、環状石崇拝教の男だけではなく、他の二人からも息をのむ気配がする。
「オリジナルの神聖な十の剣だと!! まさか、貴様っ!!」
「遺言はそれでいいのか?」
凰樹はそのうちの三本を男に放ち、頭部、心臓、腹部に命中させる。
GEに攻撃した時とは違い爆発せず、環状石崇拝教の男の身体は光の剣が刺さった場所から光の粒子へと変換され、その光が収まった後には床に紫水晶の小さなアクセサリーとアメジストの指輪だけが残されていた。
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