運命のカラオケ勝負と蟻対策
以前話していたカラオケ勝負の話です。
楽しんで頂ければ幸いです。
九月十九日、午前十一時三十分。
商店街にある荒城たちが良く通っているカラオケボックス。
開店直後の人が少ない時間を狙って入店した荒城、宮桜姫、伊藤、楠木、竹中、クリスティーナの六人はパーティ用の少し大きな部屋へ案内され、そこでドリンクなどを注文した後でルールの最終確認を行っていた。
「えっと、制限時間は昼間フリータイムの六時間、全員一曲ずつ入れた後、一周回って一番得点の高い人が一ポイント獲得。同じ人が歌う場合に限り同じ歌は二回までOK。同点の場合は二人まではお互いに一ポイント入るけど三人以上の時はポイント無し。後半三時間は七分以上の長い歌禁止」
「後は歌っている時に大きな声での妨害禁止と、五時間後に得点に十ポイント差がついていた場合勝ち抜けで、最後の一時間は最下位決定戦とするだったかな?」
「聖華は聞いてるだけでいいの?」
「はい、私は輝さん争奪戦に参加していませんので~。今回は中立な審判役としてこの勝負の見届け人になりま~す」
元々伊藤はあまり凰樹に好意を寄せていないが、一緒に作戦に参加するにしたがって「この人と一緒に生きて行くのはちょっと難しいかな~」と、ほんの少し心に生まれかけていた恋心に終止符を打って親友の楠木の応援に回っていた。
「勝負は勝負ですから、キッチリとジャッジさせて貰いま~す」
「当然ですわ!!」
「あきらの為にも負けたりしない」
「勝負は決まってるような物ですが、手加減などしませんよ?」
「当然で~す。勝負は真剣でないと意味がありませ~ん」
楠木は会話に参加するより先にデンモクを操作し、自分の持ち歌を入力し始めていた。
「一番手いっきま~す」
「ちょ…はやいよ」
「いえ、時間は有限です。出来るだけ早く一ポイントでも稼ぎませんと」
最初に一ポイント先取し、優位な状況を確保しようと全員が一番最初に一番得意な歌を入力し終り勝負は始まった。
勝負開始一周目は楠木から始まり荒城、宮桜姫、竹中と続き、その時点では九十三点の楠木が最高得点をたたき出していた。
「一周目は楠木さんで決まりそうですわ」
「四女神のソロ曲は夕菜が一番得意にしてる持ち歌だから仕方ない」
「Oh!! 夕菜もすご~く上手で~す。私も全力で行かせてもらいま~す」
クリスティーナはガンナーガールズのデビュー曲の『銃を抱いて』という歌を入力しており、イントロが始まった瞬間、いつもと違った表情に変わっていた。
「え? これ……」
「まるでガンナーガールズのメインボーカル文華=アディントンですわ」
「本物みたい……」
元々メインボーカルの文華と声質が似ている事もあったが、クリスティーナが歌っているガンナーガールズの曲は本人と間違えそうなほど殆ど同じで、しかもこのカラオケ機械の癖を完全に熟知しており減点対象になるシャウト系の演出や余韻の様な部分をキッチリと押さえて歌っていた。
「これはまずいですわ」
「うん。でも……この一曲だけなら……」
「ガンナーガールズの曲はこの機種に三十曲以上入ってる。全部このレベルだと流石に……」
クリスティーナが歌い終わると、画面には滅多に出ない百点が表示され、この一周目の勝者はクリスティーナに決まった。
呆然とする楠木達にクリスティーナは「アメリカと日本の定期便が無くなった後はあまり会えませんでしたが、それ以前はよく文華と色んな歌を歌っていました♪」と得意そうにウインクして見せた。
「これは相当まずい事態」
「こうなったら……」
「童謡は禁止だからね~。あくまでもフェアに勝負って事だし~」
このカラオケ機械の癖を熟知すると、比較的高得点を出せる曲の選択肢に童謡が入ってくる。
基本的に童謡の多くはアップダウンが少なくて得点を稼ぎ易く、子供が歌う事が考慮されてマイナスポイントがかなり甘めに設定されているからだ。
「後は子供向けのニチアサアニメか特撮系ですの?」
「アイドル系はかなり厳しくマイナスポイントが設定されてるし、そっち系に賭けてみる?」
「練習してない歌だと厳しい気がする……」
基本、歌などの上手い下手の結構な部分で、その歌をどれだけ歌って来たかの熟練度が関係する。
こういったカラオケの場合特にそれは顕著で、歌い慣れていない曲では十点以上得点に影響が出る場合が多い。
小さい頃から何度も色んな歌を本人と練習してきたクリスティーナにその熟練度で勝てる訳も無く、しかも何故かクリスティーナはこのカラオケ機械の癖まで熟知しており、今の楠木達に勝てる要素が見つかる筈も無かった。
「一位は諦めて、二位狙いに切り替える?」
「でもそれですと誰かが……、そういう事ですの?」
「勝負は非情だよね~」
勝負開始四曲目ほどで竹中達はクリスティーナに勝つことを早々に諦め、仲間のうち誰か一人を犠牲にして自分は勝ち残るという選択肢を選んでいた。
既にこれまでの三回ともクリスティーナが百点を叩き出してポイントを稼いでおり、このまま持ち歌を此処で消費する事は不利と判断してそれ以外の歌を選び続けはじめた。
「後二時間ですけど~、クリスは勝ち抜けって事でいいですか~?」
「OKで~す。と~っても楽しかったです」
「そりゃここまで大差だとね……」
ここまでの四時間でクリスティーナが殆ど一位を独占し、たまたまミスをした一回を竹中が勝ち取り残り四人の中で一ポイントだけ優位に立っていた。
「ここから先が本番ですわ」
「あきらの為にも此処からは負けない」
「私もここまで持ち歌は温存してあります!!」
「勝負は勝負、絶対に勝つんだから!!」
そして制限時間を知らせる室内の電話が鳴り、昼間のフリータイムの制限時間全てを使ったカラオケ勝負は終結した。
勝者はポイント順でクリスティーナ、荒城、竹中、楠木となり、そして唯一文化祭でのデート券を逃し敗北したのは宮桜姫だった。
◇◇◇
九月二十日、午後四時。
この日の授業も終わり、一年のクラスでも校内の状況に敏感な者がいるクラスはいち早く文化祭の準備に入り、AGE登録している者を駆り出して安全区域に移行した元危険区域の山林に出向いて無料で木材などの材料などを回収していた。
生徒会にも大量の木材が用意されているが、その半分位は後夜祭用のキャンプファイヤーで利用される物で校内の展示物用に用意されている物は実際に用意されている物の中の半分以下だった。
「こんなにあるんだから、少し位こっちに回してください!!」
「他のクラスや部は自力でそれを用意しています。学校の行事ですが全力で対応すれば今からでも十分用意出来るはずですよ」
「強奪するか?」
「馬鹿!! 見つかったら懲罰で、最悪クラスの出し物が中止させられるぞ」
「おとなしく郊外の元危険区域に木材の回収に行くか。荒れ地の整備中で大量に余ってるって話だし」
事実として長年放置されてきた荒れ地の整備で伐採した大量の木材などが発生し、その殆どは商用としてなんとか流通させるが使い物にならない木材などは臨時の資材置き場で放置されたりしている。
その資材置き場の管理人に話をすれば大体無料で提供して貰える上に、感謝して貰えるのだから言う事は無い。
◇◇◇
同時刻、 生徒会執行部では各部やクラスからの申請書類をチェックして書類に不備が無いかや、何か怪しい企画が紛れ込んでいないかを調べていた。
去年、瀬野が企画して航空力学研究部が作り出した人力飛行機が屋上から飛び立つという悪夢の様な出し物があり、警察や消防署などから当時の生徒会執行部と文化祭実行委員が揃って厳重注意を受けている。
その他にも売り上げを確保する為に風営法ギリギリの店を出店してみたり、使われていなかった教室を利用して賭場を開帳してみたり、アニメ映画と称してアダルトな映画を上映したり、後夜祭のキャンプファイヤーに炎の色を変える様々な粉を投げ込んだりと頭を抱えそうな事件は枚挙にいとまがなかった。
今年は最初から生徒会や文化祭実行委員が最初から警戒を強めており、少しでも怪しい匂いを感じたら即座にその部やクラスに調査員を送って企画自体を阻止している。
真面目に文化祭の準備をしているクラスなどはローテーションを組んで様々な飾り付けの制作や、テーマで食を選んだクラスなどは材料の確保に苦労していたりもしていた。
「どのクラスや部も準備を頑張っているみたいですね」
「麗子はAGE系の部を潰したいんじゃないの?」
生徒会長の母智月眞穂と、副会長である喜多川麗子は机の上煮で山積みとなっている文化祭関係の書類に目を通しながらそんな事を口にしていた。
「そ…そんな事ありません。誰かがこうして憎まれ役をしないと、あの人たちって際限無く暴走するじゃないですか」
AGE系の部と言っても騒動を起こす元凶は殆ど瀬野なのだが、悪乗りした他の部を焚きつけるのはゲート研究会などの部員である事は多い。
ゲート研究会などはAGE系の部としては予算が一桁以上少なく、いつも自分たちが高純度魔滅晶拾いなどで獲得したポイントを部費にあてており、その当て付けで生徒会と特に敵対してい辺りもする。
例の予測問題の拡散にも一役買っており、AGE系の部の中で生徒会からの監視が厳重になった昨今では拡散が発覚しない様々な方法を生み出したりもしていた。
「そうね……、でもGE対策部辺りが暴走したら私達ではどうしょうも無いわよ」
「それはそうですが……、でも私は凰樹君達にも楽しい学園生活を送って欲しいから、ある程度は仕方ないかなって思っちゃいますけど」
「素直じゃないわね。お母さんが戻ってきたおかげで随分心に余裕が出来たみたいだけど」
「それは感謝しています。寮を出て今はお母さんと暮らしていますが、やっぱり誰かが家にいてくれると違います」
喜多川は母親が石化から戻った後、かなり心に余裕を取り戻してたのしい学園生活を送っていた。
アルバイトもほとんどすべてやめた為に時間的にも余裕が出来、以前より生徒会活動に力を入れてもいる。
「えっと……、GE対策部は戦闘記録の編集版を上映するみたいですね。来場者対策も書かれていますのであそこは来場者が多い事を理解してくれています」
「それでも大人気でしょうね……」
偽造が出来ない様に幾重にも対策を練られて作られた入場券の偽物が既に出回っている情報を聞き付け、それを入手した所その偽入場券は本物と見分けがつかない精度である事が発覚していた。
既に普通の学校とは思えない程に警備の厳重な永遠見台高校の警備を担当している防衛軍の兵士などにもこの情報は伝えられており、瀬野の協力で偽造と転売を繰り返していた男達は即座に逮捕された。
瀬野と凰樹は警備に穴をあけるそういった勢力を蟻と呼んでおり、今は最近活動を再開させたと思われる環状石崇拝教を指す事もある。
「やあ生徒会の諸君、文化祭の裏方作業ご苦労様」
「瀬野君……、あなたがここに何の用?」
瀬野は生徒会にとって今回の文化祭でもっとも警戒している人物であり、何か仕出かすのは確実と思われているからだ。
何の考えも無しに敵中に飛び込むような行動をする筈も無く、何か裏がある事は間違いなかった。
「まだ何もしていないうちからそこまで警戒されるのは心外だな。今回は生徒会にいい話を持ってきたのだが」
「良い話ですか?」
「ああ。文化祭の入場券の話だ。既に偽造された入場券の数は百枚を超えているという話で、その殆どは転売者を探して回収してはいるが、このままでは当日までに何枚偽物の入場券が出回るかわかったモノでは無いぞ」
ネットで実験的に販売された枚数は三十枚だが、既にネットオークションでは数百枚の入場券が出品されている。
そのうちの何割かは入場券も無いのにカラでオークションに出品している詐欺だが、少なくともまだ百枚以上の偽入場券が出回っている事は間違いない。
「それは……、入場時に厳重なチェックをすれば……」
「今回はその偽造入場券が環状石崇拝教の手に渡っている可能性も高い。素人では殺してくれと言っている様なモノだ」
GE共生派もそうだが、環状石崇拝教も人の命を奪う事はもちろん自らの命を捨てて自爆する事に何の躊躇いも無い狂信者達だ。
いち高校生に過ぎない生徒会や文化祭実行委員などでは彼らの行く手を阻む障害にもならないだろう。
「ゲ…環状石崇拝教って!! そんなの文化祭を中止にしなきゃならない事態じゃないですか!!」
「いや、これは好機でもある。まず入場券を偽造の難しい新規な物に切り替え、それの交換は住所への郵送として受け取りにはリングに登録されているナンバーの申請を必要とさせる。これである程度の絞り込みが可能だ」
瀬野は紙幣と同レベルかそれ以上の技術で作られた新しいデザインの入場券を一枚差し出した。
ご丁寧にクレジットカードの様にICチップまで埋め込んである。
「これだけの技術で作られた入場券であればそう簡単に偽造は出来ん。更に、実際の文化祭には防衛軍や警察などの協力も取り付ける。環状石崇拝教はGEと並ぶ社会の敵だからな、喜んで協力してくれる事だろう」
「凄い……」
「これ相当高価じゃないの?」
「そこまででは無いさ。まあ刷る枚数次第だが、かなり安くできる」
大量に刷れば一枚数千円位までは下げられるが、既に文化祭の入場券に使われるレベルでは無い事は確かだ。
しかも予定されていた数は全部で一万枚。
数千万円以上の予算など生徒会にあろう筈も無い。
「そんな予算、生徒会からは……」
「同志凰樹が協力を申し出てくれている。資金的な心配は今回しなくていい」
「凰樹君に助けてもらう訳には……」
「ああ見えて、同志凰樹も文化祭を楽しみにしているようだ。この程度の事で中止させられては堪らないのだろうしな」
文化祭を楽しみにしているという点は否定しないが、瀬野は凰樹に対して実際に数千万円かかるとは説明していなければどの位予算が必要だという事すら話していない。
まあこの位の額なら文句は言わないだろうという予測だが、お互いに相手を完全に理解していなければこんな事をすれば大事件となる事は間違いないだろう。
「分かりました。協力に感謝します」
「うむ。他の環状石崇拝教対策もこちらで用意しておこう。防衛軍や警察との打ち合わせはあるていどは場数が必要だからな」
「何から何まで……、私瀬野君のこと誤解していました」
「たのしい祭りをこんな事で潰されてはかなわんからな」
どんな楽しい祭りなのかは情報技術部やゲート研究会などのみが知る事だが、生徒会はこの事に感動して気を許したしていた為に瀬野たちへの警戒を怠ってしまった。
毎度の騒ぎで最初に火をつける男が誰なのか、その事は十分に理解していたにも拘らず……。
読んで頂きましてありがとうございます。
誤字報告&ブクマなどありがとうございます。




