勲章授与と裏で暗躍するモノ
前章で出ていた勲章授与式などの話になります。
楽しんで頂ければ幸いです。
九月十八日、午前十時。
超高級ホテル山景王の隣に建っている公民館で、凰樹輝に名誉国民勲章、黄金の翼勲章、銃騎士勲章、領土奪還勲章、国民救助勲章などの勲章授与が行われようとしていた。
日本全国から一時的な取材の為の許可証の申請はこの授与式の存在が知れた時から熾烈を極め、隣に建つホテル山景王は関係者や報道陣からの予約が殺到し、一番最上階以外の部屋は全室満室という状態になっている。
ホテルの最上階の部屋には前日から凰樹が宿泊しており、当日の授与式に備えていた。
自宅から直接公民館に向かっても良いのだが、近隣の住民への配慮や道路が混雑する事を避ける為にこんな形をとっている。
◇◇◇
「警備体制に不備はないか?」
「公民館への入場は許可制にしてあり、許可証を持たない者はたとえ総理でも入場させない形になっております」
「防衛軍にも協力を求め、既に数千人の兵がこの公民館周辺の警備に当たっております。猫の子一匹入り込む事は不可能です」
公民館とホテル山景王の周辺の警備に数百人。
狙撃可能なポイントや爆発物を仕掛けられそうなポイントの巡回に千人。
その上、警察のパトカーが周囲の道路を常に巡回し、不審車両や違法駐車などを厳しく取り締まっていた。
報道関係者の車両も例外では無く、公民館の地下駐車場に中継車の駐車許可を運よく取れたTV局などは、他の局などから協力をお願いされたりもしている。
厳重な警戒態勢中とはいえ、公民会内部を警備している兵などで殆ど人通りの無い場所に配置されている者達は暇を持て余しており、時折任務中にも拘らず小声で雑談をしていたりもした。
「県知事の黒佐季基成さんや対GE民間防衛組織事務所所長の影於幾之滋さん、それに広島第二居住区域から出馬している国会議員の毛利喜一朗先生まで来てるからな」
「副総理も来る予定だったらしいぞ。首都で色々あって断念したらしいが」
「アメリカだけじゃなく、W・T・Fに襲われてる各国から援軍要請が来てるらしい。アメリカほどは出せないが、出来る限りの報酬は出すからって話だ」
アメリカへの援軍要請時に凰樹が事前に打っていた一手がここに来て功を奏している。
高レベルの環状石から出現しているW・T・F討伐に高額の報酬を求めた事により、他国からの援軍要請が来る事をある程度抑制できていた。
しかし、一国の首相や大統領がW・T・Fによる重要拠点の破壊や国民の石化など国が滅亡するかどうかの危機に指を咥えて待っているだけにはいかず、広島県の年度予算より少ない各国の国家予算から出せる限界の額を提示したうえで土下座外交を仕掛けてくる国も多く外務省の大臣と副総理辺りは凰樹がアメリカから帰国したあとの一週間ずっとその対応に追われている。
「アメリカみたいにこの状況下で超音速旅客機を保持してる国なんて殆ど無いからな。三日程度の予定じゃ往復も出来やしない」
「まあな、ん? 誰か来たぞ?」
「こんな時間にか? 式は十一時からだからあと一時間以上ある。ここには誰も通りかからない筈だ」
この場所は公民館の入り口とは反対側にある廊下の二階。
授与式開始前まで控室から誰かが出て来る事も無ければ、トイレとも反対方向なので此処を通り抜ける理由は存在しなかった。
「誰だ!!」
「おとなしくそこで立ち止まれ……、ん? 消えた?」
一瞬、人影が近付いてきていたように見えたが、そこを警備する二人の兵士の視界からその人物は一瞬で姿を消した。
「やれやれ、警備体制は今一つだな」
「な……後ろだと!!」
「いつの間に!!」
僅か一瞬。
刹那の間に侵入者は二人の警備兵の背後を取り、そんな言葉を口にしていた。
「そこまで警戒しないで貰えないだろうか? 今のはただの挨拶みたいなものだ」
「な……何者だ?」
「GE共生派は壊滅したが、もしかするとこいつは環状石崇拝教かも知れん」
「こちらがその気なら、今頃生きてはいない事位理解できんだろうか? この通り、許可証は持っている」
男はめんどくさそうにポケットから一枚のチケットを取り出し、それを警備兵に差し出した。
許可証は映画のチケット程度の大きさだが、紙幣と間違えそうなレベルで様々な偽造防止処理が施されている。
その為偽物などは考えられず、警備兵は少しチェックしただけで「……本物に見えるな」、「朱印、透かし、ホロシールまで揃っている。間違いない」と言ってそれを本物と断定した。
「間違いない訳ないだろう、それは偽物だ。こちらは本物だがな」
とこはそう言ってもう一枚チケットを取り出し、それを警備兵に差し出した。
二枚にチケットは殆ど違いなど無く、警備兵などが手にしても殆どその違いは判らなかい。
「何処が違うんだ?」
「まずは紙質、皮肉ではあるが二つのチケットのうち本物より偽物の方が紙質が優れている。第二にホロシール、シールを触ればわかるが偽物は三ミクロンも厚い。それとインク、全体によく似せて作られているが、偽物は藍が薄く黒が濃くなっている」
こうして二枚並べた上で違いをひとつひとつ説明されればわかるが、これを単独で出された場合は判別がつかないだろう。
「お前、何者だ?」
「俺の名は瀬野右三郎。永遠見台高校の生徒で凰樹輝の同志だ」
「同志?」
「同じAGEで、永遠見台高校入学前には共闘した事も多い」
これは事実で神坂、窪内を除けば一番共闘した事が多く、戦闘能力や突破力などは凰樹と組んだ時にこそその真価を発揮できるレベルで、他のAGEなどでは到底その動きについて行く事など出来なかった。
多くの戦場で共に戦ったが荒城と同じ様に基本ソロ活動をする事が多く、その戦闘能力を見込んで共闘を頼んでも断られる事が殆どだ。
「部隊名を個人名で登録してある。ソロ活動でセミランカー? まさか」
「最近は高純度魔滅晶があちこちに落ちているからな。それを拾い集めてお情けでセミランカーに上がっただけだ」
確かに瀬野も高純度魔滅晶拾いを行っていたが、それは事前に崩壊した拠点晶の位置を正確に掴んでいたからこその成果だった。
大量の高純度魔滅晶を換金した資金は情報技術部にある様々な物に姿を変えていたりもする。
「そんな事よりもだ。俺が得た情報ではその偽チケットは二十枚ほど裏で出回っているそうだ。その半分以上は報道陣が掴まされたらしいが、数枚は入手先を掴めなかった」
「その情報、ガセじゃないだろうな?」
「疑いたければそれでもいい。しかしその手元にある偽物はこの公民館内部で襲ってきた環状石崇拝教の一員から入手した物だ。そいつは自ら命を絶った為に死体を他の警備兵に引き渡したが、他にも数名紛れこんでいる可能性はある」
流石に凰樹に危害を加える事など不可能だが、シンパであり対GE民間防衛組織事務所所長の影於幾辺りを殺せれば凰樹だけでなく、この広島第二居住区域にも多大な影響が出る事は間違いない。
裏金で築き上げてきた影於幾の人脈や各業界へのパイプは太く、もし仮に誰かがその後釜に座ったとしてもここまで各方面から人材を引き抜いたり、再開発計画用に建築関係者を誘致したりは出来ないだろう。
「よし、お前を信じよう。各部隊に連絡は?」
「死体を引き渡したのはほんの数分前だ。もうじき各部隊に連絡が……、来たみたいだな」
そう話していると、丁度警備兵が装備していた端末にメッセージが届いた。
「内容は……『公民館内部に環状石崇拝教数名が侵入した形跡あり。各員は侵入者の捜索に全力を尽くされたし』か」
「環状石崇拝教は身体にこれと同じ物を持っている。身体検査で見つけるんだな」
「それをどこで?」
「先程処理した死体から拝借した。この辺りは既に情報で出回っているから知っている者も多いぞ」
環状石崇拝教は環状石を模した小さな紫水晶製のアクセサリーを身に着けている。
見つけるのは難しいが、確認の意味でそれを知っているという事は大きい。
「協力に感謝する。ここには凰樹さんに用があってでしょうか?」
「万が一の時の為の控えみたいなものだ。同志の晴れ舞台に水を差す馬鹿が鬱陶しいのでな」
「友達思いですね。我々は此処で侵入者に備えます」
「ああ、任せよう。俺は公民館内部を探る。直接的手段だけとも限らんからな」
そう言った次の瞬間、瀬野の姿は警備兵の視界から完全に消え失せていた。
煙でももう少しは其処に存在した形跡を残しそうな程に完璧な動きだ。
「流石に凰樹さんの知り合いだ。人知を超えた動きをする」
「ランカーズのメンバーも似たようなモノと聞いているし、レジェンドランカーは人を超えてるかもしれないな」
警備兵は公民館の外部に控えていた予備兵力を応援に呼び、全ての部屋やトイレ、それに天井裏までおおよそ人が隠れられそうにない場所にまで捜索に手を伸ばし、そして潜伏していた三人の環状石崇拝教徒を処理した。
一人は爆発物を持っていた為に、発見された場所の周辺を捜索した結果、授与が行われるステージの真上に当たる場所にノイマン効果を利用した構造の爆弾が用意されており、もしこれが成功していれば真下にいた者は余程の事が無ければ死亡確定で、仕掛けられていたそのほかの爆弾で天井の一部が崩れ落ちて大事に至っていた事は間違いない。
こうして爆発物によるテロは未然に防がれたが、国内では壊滅したと思われていた環状石崇拝教の存在が確認された事は様々な組織に衝撃を与える事となった。
◇◇◇
九月十八日、午前十一時。
公民館のステージ上では大きなテーブルに用意された幾つもの勲章と副賞となる様々な品が書かれた目録が用意されていた。
正直、副賞など貰っても凰樹が喜ぶとは考えられなかったが、この副賞に関しては各勲章授与者に最初から贈られる事になっているのだから仕方がない。
壇上には勲章の授与を行う県知事黒佐季基成、来賓として招かれた対GE民間防衛組織事務所所長の影於幾之滋、同じく来賓として招かれた国会議員の毛利喜一朗、そのほかにも広島第二居住区域の議員数名と、広島県の議員数名、広島防衛軍の司令官、警察署署長、それと永遠見台高校の校長である九条沙奈恵なども招かれていた。
参列者の席は前半分近くを報道各社が陣取っており、永遠見台高校関係者も多数参列しており、ランカーズのメンバーもステージ横に用意された特別席に参列していた。
警備体制は厳重という表現では足りない程で、参列者の席や各入口はもちろん、天井裏や床下のスペースにまで警備兵がスタンバイしており万が一の事態に備えている。
荒城たちは壇上で控える凰樹の姿を凝視し、『素敵ですわ♡』『どうしていつもの戦闘服? タキシードだったら最高なのに』『後で私からも祝福しないと♪』などと頭の中で決して口には出せない妄想を繰り広げていた。
「これより、各勲章の授与式を開始します」
「最初に贈られる勲章は名誉国民勲章です。これは多大な功績をあげた国民に授与される勲章で、今回は二例目の受賞となっております」
最初にこの勲章を授与した者は環状石の性質を研究して首都奪還計画を成功させた下士官で、今は退役して悠々自適な生活を送っているという。
ただ、今となってはこの方法にはW・T・Fを発生させるリスクが伴う事も知られている為、孤立後の速やかな環状石破壊が推奨されている。
通常この手の勲章を手にすれば大体は仕事の少ない名誉職に移動させられるのが慣例となっているが、凰樹に限って言えば生涯そんな事は無い事を殆どの者が理解していた。
「凰樹輝殿、貴殿はこの度、国土奪還とGEの討伐に置いて多大な功績を残されました。その功績を称え名誉国民勲章を授与したいと思います」
「ありがとうございます」
凰樹の姿は本来学生である為に永遠見台高校の制服を着るべきだったのだが、氣対応型スワットモチーフ特殊BDUスーツが用意されており、腰にも氣対応型特殊小太刀壱式、穿空天斬を帯刀させられている。
この措置については、「凰樹の穿空天斬はGEを倒す為の剣で、人に対しては向けられる事は無い。彼は人類の守護者だ!!」と主張する者が多かった事と、各方面の権力者もそれを支持した為に武士の魂では無いが、『何時如何なる場所時であっても凰樹の刀を奪う事無かれ』という通達が各部署に届けられていた。
凰樹が着込んでいる氣対応型スワットモチーフ特殊BDUスーツは放出される氣に反応して時折黄金色に輝いていたが、幻想的に溢れ出る黄金色の粒子を見た参列者などはその姿に幼い頃TVなどで目にしたヒーローを思い浮かべたという。
「続いて国民救助勲章を……」
こうして授与は十分以上続き、莫大な量の副賞が記載されている目録が手渡され、勲章の授与式は無事に終了した。
と、思われたが、最後に来賓として参列していた国会議員の毛利喜一朗が「凰樹君には来年一月一日、都庁にて護国の宝剣勲章の授与も決まっております。この勲章の史上初となる授与者で、この事は後年まで語り継がれる事となるでしょう」などと言う発言があり、その瞬間無数のフラッシュが焚かれ、報道各社から詳しい内容を聞き出す為の質問が殺到した。
護国の宝剣勲章の授与自体は確定しており、別にこの事で何かが変わる訳では無かったが、この日発覚した環状石崇拝教の一件がある為に凰樹に対する警備体制などがまた一層厳重になる結果となった。
この件に関して防衛軍などからは「確かに勲章の授与は確定していたが情報として流すには早すぎるのではないか?」「票集めにいらん事をしてくれる」「発表は十二月に入ってからでもいいだろうに」などと好意的では無い意見が続出している。
今年の十一月半ばに衆議院議員総選挙が予定されており、宣伝用に日本中で英雄と名高い凰樹とのツーショット写真を狙う議員も多く、「応援してますよ」などと一言でも貰えれば百万票は確実と言われているので議員たちも必死だった。
瀬野の協力もあり、無事に終わったかに見えた授賞式ではあるが、様々な問題を残した幕切れとなっていた。
読んで頂きましてありがとうございます。
何度読み返してもたまに混ざっているので誤字報告とても助かっています。




