ホテルでの騒動 一話
W・T・F戦後のいつものホテルでの話ですが今回は少し詳しく書かせていただきます。
楽しんで頂ければ幸いです。
九月四日、午後三時四十分。
凰樹輝達ランカーズのメンバーが広島第二居住区域のホテルへと到着した。
第三特殊機動小隊の隊長の小柳長滋達は凰樹達をこのホテルに送り届けた後、今回のデータなどを纏める為に居住区域内にある防衛軍の駐留所にそのまま移動していた。
ホテルの警備には別の部隊が駆り出されており、いつもの最上階のフロアは既に様々な準備が整えられている。
「いらっしゃいませ!! 当ホテルへようこそ!!」
公民館の隣に建つこの居住区域内でも最高レベルで幾つかのホテルと頂点を争う超高級ホテル『山景王』。
様々な偶然が重なってランカーズ御用達になったこのホテルだが、最初に宿泊して時にはあまり良い顔をされてはいなかった。
最上階にあるロイヤルスイートを丸ごと貸切にされる事もそうだが、警備体制でホテル側にも多くの負担を強いたからだが、今となってはその偶然に心から感謝していたりもする。
理由としては世界で唯一、凰樹を初めとするランカーズ達が懇意にしているホテルとして大きく売りだせる事で、しかも公認グッズの独占販売まで許可されていたりもするからだ。
また、隣の公民館ではコンサートの度に神坂の姿が見れるという事もあり、このホテルを予約してコンサート会場にいく者が増えた事も挙げられた。
このご時世に超高級ホテルとして営業していた事もあり、以前では空室が八割を超える事もあったのだが今では平日でさえ予約を取るのが難しい状態になっている。
また、凰樹達がよく食べるメニューなどを【ランカーズの凰樹輝推奨!! 特製ステーキセット】などと大きく売り出し、世界で一番有名な人物の名をレストランなどでも存分に有効活用していた。
ホテルの入り口では凰樹達を迎える為に従業員が整列させられ、紐で区切った区画にはその姿を一目見ようと押しかけたホテルの宿泊客十重二十重の大きな人垣を作っていた。
凰樹達が姿を見せると、人垣の中から黄色い声援が無数に飛んでいた。
「きゃぁぁぁぁっ!! あの人が凰樹さんよ!!」
「あんなに若いのに凄いわね」
「初めて生で見れた!! あっ、こっち向いたわ!!」
このホテルでは宿泊客にだけ整理券を渡して、凰樹達がエレベーターまで行く間の撮影などを許可している。
壁際には幾つもグッズを売る出店が作られており、そこでタオルなどの販売までも行っていた。
軟禁されながらもコンサートに行く為に抜け出したりと割とホテル側に迷惑をかけている神坂などは、宿泊客に手を振るなどしてフアンサービスをしていた。
◇◇◇
「今回も部屋に閉じ込めパターンか。石に変えられた宮桜姫と竹中は一応病院で健康診断を受けて合流するみたいだけど」
「仕方ありまへんやろ。間違えたフリしてエレベーターからこの階で降りようとする客も多いでっせ」
データの解析などを防衛分で引き受けてくれたために、凰樹達は広すぎる部屋で今回はほぼ何も無い状況だった。
武器なども今回はほぼデータが揃っている為に回収する事は無く、映像データだけでの検証という話だ。
今回も軟禁の目的はマスコミ対策で、主にリビングアーマー装備のアラクネ型ヴァンデルング・トーア・ファイントの情報制限の為であり、もし凰樹達を自由にすれば今後の出禁を覚悟してでも外部の記者を臨時で雇って情報の収集を行う事だろう。
「しかし、レベル三の環状石からW・T・Fが出現するとああまで能力が上がるモノでっしゃろか?」
「中国をはじめ、ベトナムとかあの周辺で暴れまくった龍型W・T・Fの出現した環状石はまだ特定されていないが、出現を疑われている環状石はレベル十らしいぞ。そりゃ周りの国もボコボコ滅ぶだろ」
「レベル三であの強さだからな。アメリカの赤竜種W・T・Fもおそらくレベル五~七辺りで間違いないだろう」
出現後の能力から、凰樹はアメリカで猛威を振るっている赤竜種W・T・Fがその辺りのレベルである事に気が付いていた。
あの時、クリスティーナに最新映像があれば見せて欲しいと持ちかけたのはそれの最終確認の為だ。
現状、この国でヴァンデルング・トーア・ファイントの討伐が可能な人物が凰樹だけである以上、どれだけ圧力をかけられても日本政府は凰樹の国外への援軍要請などを受け入れる筈も無く、所詮は他国の都合に過ぎない為に「自国で同じ能力を持つ人物を発掘したらどうですか?」などといって断るしかない。
申し込む国もそう言われれば自国にはW・T・Fを討伐可能な人間がひとりもいませんと言っている様なモノなので国としての面目など丸潰れな為に、日本政府か凰樹本人が折れて救援要請を受け入れるのを待つしかなかった。
現状では人外な能力を持つ凰樹を誘拐などという手段はまず不可能で、もし仮に連れ出そうと実力行使に出れば凰樹は躊躇する事無くその力を誘拐犯に向けるだろう。
「となると、現状の武器では討伐は難しいな。まあ、輝なら何とかできるだろうが」
「だからあの時も数世代程進化が必要だとは言ったんだがな。チャージタイプで出力を五倍以上に出来れば何とかダメージは通る。まあ、最終的に要石を破壊出来なければ同じだが」
現状の武器では破壊力が不足している。
正確に言えば、要石にまで到達し、それを破壊できるだけの攻撃力が不足している為だ。
「高出力が維持出来て貫通力を高めたら何とかなりそうでんな。かなり大型になりそうやけど」
「W・T・Fを倒すにゃその位必要だろうな。まあ、今日の奴みたいに高速で動かれたり跳躍されると厳しいが」
「アレが本来の姿なんだろう。山口で戦った奴は事前に他のAGEや守備隊の隊員を倒していたから油断していたと考えられるしな」
強力な能力を持つW・T・Fといえども、その力を過信し油断すればあんな形で討伐される事もある。
この辺りは実際に戦った凰樹達にしかわからない感覚ではあったが。
「とりあえず、そんなところか……。霧養、それは通らんだろう」
「嘘っス!! そんな訳ないっス!!」
暇にあいだ凰樹達は久しぶりに麻雀で勝負していた。
極稀ではあるが携帯型のゲームや据え置き型のゲームで遊ぶ事もあるが、反射速度や動体視力が人外の凰樹や予知する霧養相手では勝負にならず、ちょうど四人で打てる上に運と実力が必要な麻雀あたりで遊ぶことが多かった。
通常であるならば予知や予測が出来る凰樹や霧養が圧倒的に有利なのだが、今回も出来るだけその手の能力無しでという決まりで勝負していた。
「サマ無し、平打ち、予知その他禁止だと流石の霧養も振り込むんだな」
「さあ霧養はん、これでハコでんな。罰ゲームのドリンクを選んでおくんなまし」
今回の罰ゲームは最下位での激マズドリンク一気飲み(コップサイズ)だ。
現金を賭ける事はせず、毎回何かしらこの手の罰ゲームをしているのだが、流石に凰樹もこんな時には文句など言わずにそのルールを受け入れていた。
「せめてタンポポ珈琲……、よっしゃ―っス!!」
「ちっ、爽快!! 炭酸フルーツ乳酸菌は回避したか。運のいい奴」
飲むドリンクはドリンク名が書かれたカードを一枚引いて決める。
超健康青汁や爽快!! 炭酸フルーツ乳酸菌は今回のチョイスの中でも極めつけな一品だ。
「まあ、調べてみればこのドリンクも訳ありなんだがな。全部が全部という訳じゃないが」
「訳ありでっか?」
「ああ、開発コンセプトは伊藤のドリンクと同じだ。それを飲むとほんの少しだが生命力が回復するらしい」
生命力が回復する効果があるとはいえ、その回復値は精々二~三程度で、低レベルの生命力回復剤にすらはるかに劣る。
「まあ、同じ理由もあるんだけどな。迷走飲料のソフトドリンク部門新商品開発主任の名前は伊藤萌華。伊藤の実の姉だ」
「血は争えんっちゅう事でんな」
「それにしても、あの味は……」
「これでも少しだけマシになる様に試行錯誤した結果なんだろう。コンセプト通りで迷走飲料のドリンクは間違いなく生命力回復効果がある」
「それで高速道路の自販機はあんな状態やったんやな」
「ああ、事前に用意してるAGEならば話は別だが、一旦高速道路に入れば生命力を回復する手段は殆ど無い。万が一にGEと遭遇した時の保険だったんだろう。まあ味はアレだしあの値段では高すぎるが」
高速道路で売られていた値段は一本五百円。
貴重な回復剤とはいえ、流石にボリ過ぎだろう。
「という訳だ。霧養、ありがたくグイッといけ」
「…………、この大小飲料のはまだマシなレベルっスからね」
「そこのドリンクには回復効果が確認されていないようだがな」
「ただの激マズドリンクか。最悪だな……」
生命力が回復する為に中々店からは消えない迷走飲料のジュース類を不思議に思った他メーカーも同じ様な味のドリンクを大量生産し続けている。
大小飲料の他にも数社がどうやら開発の沼にハマったらしく、数ヶ月に一本の割合で新製品を販売し続けていた。
「この居住区域にあるメーカーやったら少しは改善されるんとちゃいますか」
「工場がいつ完成するか次第だな。今は色々建築技術も上がってるし、数ヶ月で生産まで行くらしいが」
「乳牛とかの関係で乳製品は無理っぽいっけどな。後は色々革命的な技術でかなり生産力が上がってるから」
この時代、建築技術や食糧生産能力はかなり進化していた。
少ない土地で効率よく育成されて収穫される野菜類と、それを生産する為の工場などの建築技術は急激に進化していた。
現時点で更地から小型の工場建設まで最短ひと月という話もあり、豚や牛の様に育成に時間のかかる肉類別にして、様々な野菜や魚介類が陸上の養殖工場で生産されて食卓へと届けられている。
「どうする? もう半荘行くか?」
「今日はこの位で良いだろう。その余ったドリンクは置いといてくれたら俺が飲んでおく」
「……ありがたいっス」
「マネできないけどな。それじゃあ、任せたぞ」
味覚がかなり向上しているとはいえ、食べ物や飲み物を必要以上には粗末にできない性格が直る筈も無く、凰樹は余った食べ物とかの処理をする事も多かった。
まあ、以前よりも味覚が向上したおかげで以前より完食や完飲する事に苦戦しているのだが、神坂達にはそんな姿は微塵も見せたりはしない。
「ゲームは終わりましたか? それじゃあ、蒼雲と敦志は連れて行きま~す」
部屋のドアを開けた瞬間、ホテルにちょうど到着したクリスティーナが目の前に立っており、神坂と霧養の二人を連行していった。
クリスティーナはランカーズのメンバーではないが、今回少しだけ戦闘に参加した上にリビングアーマー装備のアラクネ型W・T・Fを見ていた為にこのホテルに同じ様に軟禁される事が決まっている。
そのクリスティーナの生乳を凝視するという行為に対する代償だが、それだけの価値のある体験だったと二人は思っていたりもする。
◇◇◇
「さてと、明日以降の予定を……、とりあえず七日までの臨時休暇が確定……。週明けのテストは免除される予定か」
例の一件以降、生徒会副会長の喜多川麗子はAGE系の部活動に対して態度を軟化させるかと思われたが以前と何ら変わる事は無く、今もAGE系の部に対して厳しい対応を行っている。
まあ、こうして良識のある誰かが監視などをしなければ、AGE系の部だけでは無く調理部など一定以上の力と人材を持つ部などが学園で暴走して好き勝手し始めるので仕方ない事ではあったのだが……。
「後は……、政府から特殊メール? 防衛軍では無くか?」
強引な引き抜き対策として、日本政府からの正式なメール以外はフィルターにより百パーセント弾かれる。
他の居住区域からのメールなどをフィルターで弾かなければ、○○県の○○居住区域から救助要請、『お願いです父を助けてください』などといった依頼が毎日千以上届くからだ。
「えっと、このたび凰樹輝様を護国の英雄として表彰し、護国の宝剣勲章を授与したく……」
護国の宝剣勲章。
十年程昔、ある総理大臣の『もしこの国を救える英雄が世に現れた時、その者に与えるべき勲章とその名を決めておくべきではないか』という発言から生まれた、現時点でこの国の国民に与えられる勲章として最高位の勲章。
勲章授与者には国家転覆罪以外のあらゆる刑罰が免除というトンデモ無い措置が取られるが、のちに『まあ、国家規模の厄災を単独撃破でもしない限り授与は無いだろうからな』という発言により認可されたという曰く付きの勲章でもある。
「授与は来年の一月一日か。まあ、色々な手続きがあるんだろうから仕方ないな」
授与まで四ヶ月ほど期間があるが、方々への準備がある為に仕方がない。
今回、受賞の決定打となったのは実質四体のヴァンデルング・トーア・ファイントをほぼ単独撃破するという偉業だ。
現在所属している永遠見台高校にもこの英雄を育成したという相応の評価がされる事になり、学校に対する翌年度以降の莫大な予算はもちろん、今後いま教鞭を振るう教師陣には国の最高レベルの補償などが約束されている。
「それまでにも、今までの環状石の破壊による領土および国民の奪還やW・T・F討伐の報酬として、名誉国民勲章、黄金の翼勲章、銃騎士勲章、領土奪還勲章、国民救助勲章が送られ……、やけに多いな」
六月二十九日に凰樹とランカーズが初めてAGEとして環状石の破壊に成功した事により、国としては早い段階でこういった勲章の授与を行いたかった。
AGEとしての莫大な報酬はあくまでも活動に対する報酬であり、国から功労を労っての物では無い。
その為に正式日本政府からの勲章を授与するつもりだったが、ここで大きな誤算が起こった。
それは、国が勲章の授与を準備するよりも凰樹が環状石の破壊やW・T・F討伐などのAGEでは到底ありえない偉業を行う速度があまりにも速すぎたのだ。
六月二十九日、AGE初のレベル二環状石の破壊に成功。
七月十日、レベル一環状石の破壊に成功。
七月二十五日、世界初となる赤竜種W・T・Fの撃破に成功。
八月二日、八岐大蛇W・T・F及び大烏W・T・Fの撃破に成功。
八月二十四日、単騎によるレベル一環状石十五の破壊に成功。
九月四日、リビングアーマー装備のアラクネ型W・T・Fの撃破に成功。
凰樹ぬきでの環状石の破壊を除いても、六月二十九日から九月四日までの僅か二ヶ月ほどの間にこれだけの戦果を挙げているのである。
政府としては何度も授与する勲章の選定に入り、その授与の準備をしたとたんに新しく前例の無い武功をあげ続ける凰樹の活躍に頭を抱えてはいたのだが、今回思い切って纏めて授与してしまおうという考えだった。
「こっちの授与式は今月半ば……、九月十八日か。場所は隣の公民館」
本音を言えば首都で大々的に行いたかったのだが、対GE民間防衛組織事務所所長である影於幾之滋や県知事黒佐季基成の猛反対があり、広島第二居住区域内で県知事による授与という形で決着がついた。
その代わりとして、一月一日の護国の宝剣勲章の授与は首都である東京第一居住区域にある都庁で行う事が決定している。
「功績に対するこういった行為は必要だろうけど、まあ、あまり必要ない気がするけどな」
他の者であればどれか一つでも勲章を貰えるといわれればそれだけで有頂天となり、生涯何かある度に話のタネにするような名誉な事でも、凰樹にとってはそれほど価値のある物では無かった。
なお、これだけの勲章を一度に授与された者は過去にただのひとりたりとも存在しない。
「さて、久しぶりの休暇だ。次の手でも考えておくか」
そんな事よりも、時間が出来た凰樹は故郷のレベル四環状石をより安全で確実なものにする為に、あらゆる手段を打ち始めた。
事前に破壊する予定の拠点晶で新たに発生する奪還地区にある石像回収計画書、道路の整備依頼、救出時におけるヘリの運用計画、救助車両の運行ルートの作成などだ。
こうしてホテル軟禁一日目が終わった。
この後、いつもの軟禁のつもりだった凰樹は、その三日間で様々な事件が起こるとは思いもしなかった。
読んで頂きましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございました、色々助かります(何度チェックしても何故か誤字があるし)。




