第41話
二〇二六年四月二十四日、金曜日。
ついに、門脇さんとのダブルデートを明日に控えた前夜がやってきた。
デートの準備プランにおいて、俺が「最優先インフラ」として組み込んだタスク、それ我が家のパグ姉弟の『一斉洗車』であった。
お上品なチワワのちまきちゃんと、何より門脇さんに会うのだ。パグ特有の、あの香ばしい「スナック菓子」のような体臭(俺は嫌いじゃないが)を漂わせたまま突撃させるわけにはいかない。
「フゴッ! ブヒィィィ!」
リビングの隅で、一本のロープを親の仇のように激しく引っ張り合っていた大福とアズサ。その無防備な二匹の胴体を、俺は両腕でガシッと同時に抱え上げた。
お風呂場の不穏な空気を察知した瞬間、二匹のパグの防衛システムが爆発する。
「フゴフゴフゴォォーッ!!」
腕の中で暴れ狂う、合計十五キロ超の肉塊。大福は短い手足をバタつかせ、アズサは俺の腕を鼻水でリフォームせんばかりの勢いで抵抗する。なんとか風呂場へ連行し、ドアを閉めたときには、俺のTシャツはすでに彼らの抜け毛と鼻水でパニック状態だった。
「よし、暴れるなよ。綺麗になって門脇さんに褒めてもらうんだからな」
俺は覚悟を決めて、シャワーの栓をひねった。
温かいお湯が、大福の背中に降り注ぐ。観念したのか、大福は「無」の境地に達したような目で床を見つめ、アズサは俺の足にぴったりとへばりついて震え始めた。
お湯をしっかりと含ませ、犬用シャンプーの泡で、彼らの頑固なシワの奥まで丁寧に洗っていく。ハーブの爽やかな香りが、狭い風呂場に広がっていく。
だが、お湯で全身の毛がペタピタに濡れそべったその時だった。
シャワーの湯気の向こうに、とんでもないものが現れた。
(……宇宙人だ。宇宙人が二体いる)
俺は思わずシャワーヘッドを握ったまま、その場に立ち尽くした。
フォーンのふんわりとした毛並みのインフラが完全に消失した結果、そこに出現したのは、驚くほど貧相で細い胴体と、お湯を吸って異様に巨大化したように見える「シワだらけの頭部」。そして、濡れて怪しくギラギラと光る、二対の巨大なギョロ目。
それは我が愛犬の大福とアズサではなく、完全にロズウェル事件の報告書に載っているような、エリア51から密入国してきた『グレイ型の宇宙人』そのものだった。
「お前ら……毛が濡れると、そんなにスカスカだったのか……」
あまりのSFチックなビジュアルに圧倒されていると、大福星人(大福)が不敵にギョロ目を光らせた。
マズい、と思った瞬間には遅かった。
「ブルブルブルブルブルルルルッ!!!」
宇宙人が、超高速の振動システムを起動した。
濡れた毛とハーブの泡、そして宇宙人のエキスが、風呂場の壁、鏡、そして俺の顔面に至るまで、容赦のない散弾銃のように飛び散る。
「うわっ!? やめろ大福、アズサも連鎖するな!」
時すでに遅し、アズサ星人も隣で高速スピンを開始し、俺の視界は完全に泡のホワイトアウトに包まれたのだった。
一時間の死闘を経て、ドライヤーでふんわりとした「地球のパグ」に戻った二匹は、すっかり疲れてベッドの上で折り重なって眠っている。
全身泡まみれになった俺は、自分の服を洗濯機に放り込みながら、スマホの画面に目をやった。門脇さんからの「明日はよろしくお願いします!」というLINEが光っている。
綺麗になった(元)宇宙人たちを見つめながら、俺は「明日、粗相だけはしないでくれよ」と、遠い宇宙の彼方に祈るような気持ちで、静かに目を閉じるのだった。




