27 召喚術の授業2
オレン先生は<召喚契約書>を2枚とりだしてイーアとマーカスに言った。
「では、ふたりとも。まずはこの召喚獣と契約を」
それは『小豚人』という召喚獣との契約書だった。
ちなみに、初級召喚獣の<召喚契約書>はグランドールの近くにある魔導書のお店でも売っている。召喚獣によって値段が違うけど、どれもけっこう高い。
イーアはお金がなくてとても買えないから、こんなふうに無料でもらえるのは、ラッキーだった。
イーアは先生に言われた通りにコプタンの<召喚契約書>にサインをして、魔導語の契約呪文を唱えた。
これが召喚契約の儀式だ。
呪文を唱え終えると召喚契約書は一瞬光って、契約済みのマークが浮かんだ。
この召喚契約は、ガリが嫌う魔術による強制的な契約だ。だけど、普通、学校で習う召喚術はこれだ。
マーカスとイーアはコプタンとの召喚契約を済ませた。
二人が契約をすませると、オレン先生は教卓の上に金属製の召喚道具を2つ置いた。
「これから二人にこの同じ召喚具を使って同じように召喚を行ってもらう。呼びだすのはコプタンという無害な精霊だ。さっきケイニスが説明してくれた通り、召喚ゲートのサイズは主にこの召喚具で決まる。つまり、あとは召喚者の<呼ぶ力>と魔力で、召喚結果が変わるはずだ。では、まず、マーカス。この召喚具の下にさっきの契約書を置いて、召喚を」
「はい」
まずはマーカスが教卓のところに出て、契約書と召喚道具の上に手を置き呪文を唱えた。
マーカスが呪文の詠唱を終えた。数秒後、30センチくらいの豚みたいな小人がどんっと出てきた。
でてきたコプタンは教卓の上にでんと座ったまま、精霊語で文句を言っていた。
『ブーブー。なんだよ、いきなりこんなところに呼びやがって。このバカ面! なんか食べ物よこせよ。ブーブー!』
コプタンは悪態をついていたけど、イーア以外の皆は精霊語を聞きとれなくて、よくわかっていないみたいだった。
マーカスは両手で重たそうなコプタンをつかんで持ち上げ、自慢げに教室のみんなに見せた。
クラスのみんなはあまり熱心じゃない感じでパラパラと拍手をした。
オレン先生はうなずき、言った。
「うむ。呼びだせたね。では、次はイーア」
「はい。呼びます」
イーアは召喚具に手を当て、呪文を唱えてコプタンを呼んだ。
すぐにポンッと親指サイズの人型の子豚が飛び出してきた。
マーカスはイーアの呼びだしたコプタンを見て、バカにしたように言った。
「俺のより、だいぶ小さいな。なーんだ。ウェルグァンダルの召喚士ってそんなものか? これなら、俺のほうがずっと優秀じゃないか」
ところが、マーカスがそう言っている間に、ポンッ、ポンッ、ポンッと親指サイズのコプタンがさらに飛び出してきた。
出てきたコプタン達は精霊語で口々にしゃべっていた。
『わーい。なんだなんだー?』
『なにここ、楽しそう』
『やっほーほいほい。巨人だー!』
そして、ポンッポンッポンッポンッと、さらに、さらに、コプタンが出てきた。
『うわっ! 巨人がいっぱいいるぞ?』
『あそぼ、あそぼー!』
『わー。仲間にいれてー』
『みんなも来いよー!』
あっという間に、教卓の周りが小さな小さな子豚みたいな小人だらけになってしまった。
そして、イーアが呼んだたくさんのコプタンは、『巨人発見! 突撃ー!』とか言って、近くにいたマーカスにとびつきだした。
「うわ! なんだこいつら!」
マーカスが叫んで、コプタン達を払おうとしたけど、コプタン達はマーカスのローブをどんどんのぼっていく。そして、頭の上にのって髪の毛をひっぱったり、耳にぶら下がったり、鼻の穴に頭をつっこもうとしたりした。
「やめろ! このブタども!」
マーカスは顔にまとわりつくコプタンをむしりとっては、投げ飛ばした。
でも、何十もいるコプタンは、投げ飛ばされても、全然平気で『わーいわーい』と楽しそうにまたマーカスにのぼりだす。
クラスのみんなは、ひとりでコプタンと格闘しているマーカスの様子を見て笑っていた。
特にオッペンは笑い転げながら、「見ろよ! マーカスの鼻から鼻毛みたいに豚が出てるぜ!」と大声で叫んでいた。
一方、マーカスが呼びだした大きいコプタンは、一歩も動かず教卓にずてんとねそべっていた。ねそべったまま、『やっちまえー。ドンドンドン』と歌っていた。
イーアが呼んだコプタンたちの数匹も、教卓に座ってただ眺めていた。
『みんな元気だねー』
『鼻からコプタンー。ウケるー』
『でっかい巨人って、なんででっかいの?』
といった感じでのんびりおしゃべりしながら。
オレン先生は急いで教卓の前に立って言った。
「このように、同じ<召喚契約書>を使い同じ道具を使った召喚でも、呼ぶ者によって結果が全く変わる。さ、ふたりとも、早く召喚獣をかえしなさい」
マーカスは召喚獣を帰還させる呪文『異界へかえれ、コプタン!』を唱えた。……呪文というより、そう精霊語で命令しているだけだけど、生徒達は呪文としておぼえている。
『おらよっと』
マーカスが呼んだ大きなコプタンは、姿を消した。
イーアも同じように『異界へ帰れ、コプタン!』と言った。
何もしないで教卓の上から見物していた数匹のコプタンたちは、あくびをしながら『バイバーイ』とか『なにしにきたのぽくら?』とか言いながら消えた。
だけど、ほとんどのコプタンたちは好き放題にマーカスの上で遊び続けていた。
マーカスが顔を真っ赤にして、耳と鼻からコプタンが出てる変な顔で、イーアに怒鳴った。
「早くこいつらを消せよ!」
イーアは困ってもう一度コプタンに呼びかけた。
『コプタン、もう帰って!』
でも、コプタン達は、マーカスの頭の上で跳びはねたり、鼻からぶらさがって両手を振ったりしながら言った。
『やだよー!』
『楽しいから帰らないよ!』
『イエーイ! イエーイ!』
コプタン達は、帰る気ゼロだった!