26 召喚術の授業1
新入生がグランドールに入学してしばらくがたった。
イーアもみんなもだいぶ学校生活に慣れてきた。
今、イーアは教室に座って、召喚術の授業が始まるのを待っている。
グランドールの召喚術の授業は2種類の教室で行われる。
みんなで召喚の練習を行う時に使う大きな部屋と、召喚の練習をしない時に使う、今イーア達がいる教室だ。
この教室はほぼ普通の教室と同じだけど、普通の教室よりも教卓の周辺のスペースが大きくて、天井が高い。
教室の前の方でオレン先生が話し出した。
「では、まずは、これまでの授業の復習からだ。知っての通り、召喚は精霊と召喚契約を結んで行う。ちなみに、前に話したように、召喚術でいう精霊とは、妖精、霊獣、魔獣などもふくめて、召喚可能な存在すべてを指して精霊とよんでいる。しかし、召喚契約がある状態で呪文を正しく詠唱したとしても、それだけでは召喚が成功するとは限らない。では、契約と呪文の他に、召喚の成功を決める3要素はなんだったかね?」
ケイニス、ユウリ、マーカスの3人が手をあげた。ユウリはたいていイーアのとなりの席にいるから、ユウリが手をあげるたびに、先生の視線がこっちにくる。
「では、ケイニス」
オレン先生はケイニスをあてた。
ケイニスはすらすらと答えた。
「召喚は主に<呼ぶ力>、魔力、召喚ゲート、の3つの大きさで決まります。どれか一つが欠けても召喚は失敗します。<呼ぶ力>と魔力は召喚を行う人間の能力、召喚ゲートの大きさは召喚に使う魔道具の影響が大きいといわれます」
ケイニスが間違えることはまずない。
オレン先生はいつものようにうなずき言った。
「その通り。<呼ぶ力>、魔力、召喚ゲートの3つが召喚を決めると言ってよい。この3つのどれかが足りない場合は、呼んでも召喚獣が出現しないか、本来より弱い状態で出現する。<呼ぶ力>の大きさとは、精霊によびかける声の大きさのことだ。といっても、実際の声の大きさではない。精霊語は霊的な言語だから、<呼ぶ力>は物理的な音の大きさとは関係がない。<呼ぶ力>を鍛えるには、ひたすら精霊に話しかける練習をするしかないといわれる。難しいことだが」
要は精霊とおしゃべりをしていれば<呼ぶ力>が上がるらしい。
つまり、ガネンの民は生まれた時から常に<呼ぶ力>を鍛えている状態だ。だから、イーアは最初から召喚術が得意だったようだ。
ちなみに、これまでのオレン先生の授業によると、精霊語自体が特殊な言葉らしい。
霊的な言語だから、人によっては、そもそも精霊がしゃべっていることに気が付くことすらないらしい。
イーアには精霊の言葉は普通に人がしゃべっているのと同じように聞こえるけど。
オレン先生は説明を続けていた。
「魔力については説明は不要だろう。だが、おぼえておかないといけないのは、召喚に必要な魔力の量は一定ではなく、召喚術の習熟度やその他の条件によって変わるということだ。召喚ゲートについてはさっきケイニスが説明してくれた通りだ。召喚具によって召喚ゲートの大きさが変わるが、これはつまり、呼べる召喚獣の強さの上限が変わると思えばいい」
『友契の書』には最初から召喚に必要な道具が装着されている。たぶん、とてもいいものが使われているだろうから、イーアは道具で決まる召喚ゲートの大きさの心配はいらない。
それはそうと、イーアの後ろでは、オッペンが「ごちゃごちゃしててまじわかんねー」と嘆いていた。
実はイーアもオレン先生の話は半分くらいしか理解できていなかった。
そして、イーアの左隣では、キャシーが「こういうところって、テストにでそう」とつぶやきながら、きれいにノートを取っていた。
ちなみに、イーアのノートは今日はまだ真っ白だ。今までのページもけっこう白くて、ところどころにかわいい精霊の絵が描いてある。
さて、オレン先生は、再び問いかけた。
「では、次に、契約方法について。召喚契約には大きく分けて2種類あるが、それは何と何だろうか?」
また、ケイニス、ユウリ、マーカスの3人が手をあげた。
このクラスでは、この3人が断然いつでも優等生だった。
ケイニスとユウリはもちろん最初から超優秀だけど。マーカスは入学した時の成績は良くなかったのに、いつのまにかすっかり優等生の仲間入りをしていた。でも、マーカスの性格はあいかわらずだ。
オレン先生はユウリをあてた。
「では、次は、エルツ」
ユウリは近頃、学校でエルツと呼ばれている。
ホーヘンハインのユウリの師匠が、魔導士名としてその名前を使うことをすすめたのだ。
そしてユウリはあっさり名前をエルツに変えてしまった。
魔導士が魔導士名を名乗るのはよくあることだ。
でも、イーアはなんかおもしろくない。
ユウリの師匠は勉強に必要な本や魔道具はもちろん、服までユウリに買ってあげていて、最近はユウリが着ている服のほとんどが師匠からのプレゼントだ。
だから、最近ユウリはすっかり育ちのいいお上品な少年に見える。
ユウリが師匠に気に入られているのはいいことだ。
お金のないユウリにたくさんプレゼントしてくれる師匠はいい人だ。
と、頭では思っても、イーアはなんか気に食わない。
イーアはユウリがホーヘンハインの師匠色に染まっていくのがイヤだった。
ユウリがイーアの知っているユウリじゃなくなっていくような気がして。
だから、名前の話を聞いた時もイーアは、「ユウリはユウリなのに」と文句を言った。だけど、「ぼくの名前はもともと親がつけたものじゃないから」と言ってユウリは取り合わなかった。
さて、先生にあてられたユウリはすぐに答えた。
「個別の精霊と契約を結ぶ方法と、種族全体と契約を結ぶ方法です。それぞれ契約に使う<召喚契約書>の種類がちがいます」
オレン先生はうなずいた。
「その通り。個体と契約をした場合は、必ずその精霊があらわれるが、種族と契約した場合は、その種族の中の誰かが出現することになる。通常の契約は、種族との契約だ。そして、召喚されるものはさっきの召喚の3要素次第で変わる。つまり、同じ種族の精霊を呼んでも、召喚者の<呼ぶ力>、魔力、召喚ゲートの大きさによって、出てくる召喚獣が変わるのだ」
(なるほど、なるほどー。……『友契の書』の契約ってどっちなんだろ?)
イーアはウェルグァンダルの召喚士にはなったけど、召喚術の仕組みはよく知らなかった。
そこで、オレン先生は言った。
「それでは、まずは例として、だれか二人に召喚してもらおう。やってみたい人はいるかね?」
いつものように、ケイニス、ユウリ、マーカスの3人が手をあげた。
(召喚するだけならできそう)
と思ったけど、イーアは手はあげなかった。
グランドールではすっかり劣等生なので、イーアは授業中に手をあげる自信がなかった。
オレン先生は教室の中を見渡しながら言った。
「では、まず、マーカス。それから、もうひとりは……イーア」
手はあげなかったのに、先生に指名されてしまった。
でも、召喚術だから、イーアはこっそり自信があった。
「がんばってね。イーア」
隣に座っていたキャシーが小声で応援してくれた。
イーアの後ろの席にいたオッペンは、わりと大きな声で応援した。
「よっしゃ! マーカスなんて、ふっとばしちまえ!」
(マーカスに聞こえちゃうよ!)
イーアが心の中で叫んだ時、案の定、聞こえていたらしく、マーカスがこっちを睨んだ。
オレン先生は言った。
「では、ふたりはこの教卓のところに」
イーアとマーカスは教室の前の方に移動した。




