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32. みんな幸せね


――あれから、セドリック皇太子殿下は国王陛下に即位され、隠居なさった元国王陛下であるお父君が度々隣国ブーランジェ王国へ旅行に行かれるほどに、両国は親密な関係を築いております。


 このラガルド王国で初めて私が仕立てた毛皮のケープは、もはやこの国でも定番の装いとなりましたのよ。


 私が贔屓にしていた仕立て屋も、王室御用達となり事業を拡大して、近隣諸国の珍しい布地や装飾品を扱う人気店となりましたわ。


 セドリック()から伺った話によりますと、ブーランジェ王国と国交が正常化してから、両国とも国交で豊かになり、市井の民の暮らしむきも随分と改善されたそうですの。


 ヒューバート国王陛下は、近隣国の王女を娶り仲睦まじく過ごされていると伺っております。


「タチアナ、ブーランジェ王国に第一王子が誕生なされたそうだ。祝いの品を送らねばならまい。」

「あら、そうなんですの。おめでたいことですわね!何がよろしいかしら……。」


 私が真剣に考えておりますと、セドリック様が私の方をじっと見つめているのですわ。


「セドリック様?何ですの?」

「いや……、ヒューバート陛下がご成婚された時にも思ったんだが、特に気にした様子もないもんだなと……。」

「どういう意味ですの?……セドリック様、あの時私のことを信じるとおっしゃったじゃありませんか。それなのに、私の気持ちをお疑いになられるのですわね。ひどいですわ……!」


 顔を両手で隠し下に俯きますと、すぐに狼狽したような声と、私を抱きしめる温かな体温を感じましたわ。


「タチアナ!すまなかった!信じてはいるが、それでも妬いてしまった私を許してくれ!泣かないでくれ!」

「……嘘です。泣いてなどおりません。」

「何?」


 そう言って私がセドリック様を抱きしめ返しますと、セドリック様は嬉しそうなお顔をして笑うのです。


「私は今までもこの先もお慕いしているのはセドリック様だけですわ。セドリック様の美しい藍色のお髪も、その神秘的な色彩の瞳も大好きですもの。」

「私もこれからもずっとタチアナのことをだけを愛している。」


 そう言って口づけを交わそうと顔を近づけましたら突然扉が開きましたの。


――バンッ!


「おとうさま!おかあさま!ミカエルが私の描いた絵に落書きをしたのよ!叱ってくださいませ!」


 そう言って入ってきたのはピンクブロンドの髪色にアースアイの瞳の愛娘でしたわ。


「ジャクリーヌ、乳母はどうした?」


 少しだけ不満そうなセドリック様は、ジャクリーヌに尋ねました。


「申し訳ありません!急いで追い掛けたのですが追いつけず……。大変失礼いたしました!」

「おとーたま!おかーたま!」


 汗だくで焦った様子の乳母と、乳母が抱いた藍色の髪にアースアイを持つ愛息子に私は笑顔を向けましたのよ。


「ジャクリーヌも、ミカエルだって執務でお忙しいお父様にお会いしたかったのよね?」

「そうよ!おとうさまが最近いつもお忙しいから、なかなかお会いできないんですもの。」

「あーーー!」


 随分とお転婆に育ってしまった王女ジャクリーヌと王子ミカエルは本当に元気な子どもたちで、私は毎日とても癒されておりますの。


 セドリック様との時間は少しお邪魔されましたけれど、たまには家族の時間も大切ですわね。


「ジャクリーヌ、ミカエル、こちらへ来なさい。」


 乳母からミカエルを受け取ったセドリック様は、ジャクリーヌも呼び寄せて乳母を退室させましたの。


「二人とも、最近父上が忙しくして会えなくて寂しかったのか?それは悪かった。これからはもっとお前たちとの時間を取れるよう調整しよう。」


 そう言ってセドリック様は二人を抱きしめましたわ。


 私はもうこの時間がとても幸せで、愛する夫と子どもたちを微笑みながら見つめるのです。


「タチアナも、こちらへ。」


 セドリック様がそう言って、私と子どもたちをみんな抱きしめてしまわれました。


「お前たちのことは、私が必ず守る。愛しているよ。」

「私も、お父様もお母様もミカエルも大好きよ!」

「おとーたま、おかーたま、ねーたま!すき!」

「みんながとても幸せね。」


 


 残念な性癖のお方と婚約破棄しましたら、以前の経験が役立って素敵な皇太子に妃にと望まれた私は、その後もとても幸せに暮らしました。







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