22. 私は二人目の婚約者なのですわね
「タチアナ!おめでとう!セドリックと結婚してくれるなんて私とっても嬉しいわ!」
公爵邸に着くなりマルグリット様に熱烈な歓迎を受け、そして何故かそこにはセドリック皇太子殿下がいらっしゃったのですわ。
「タチアナ嬢、突然の求婚で驚かせて申し訳なかった。だが、私が貴女を皇太子妃にと望んだのは本心からのことだ。」
私の足元に跪き、手を取ってご挨拶なさりながら普段より硬い表情でお話になっております。
「皇太子殿下、私にとっては僥倖ですわ。殿下のおかげで婚約破棄も恙無く完了いたしましたし。感謝のしようもありませんわ。」
私の返答に、ホッとして肩の力を抜かれた殿下でしたが、続けて言葉を紡がれました。
「友人であったアルバンと貴女の婚約破棄を一番願ったのは他でもなく私だ。虐げられている貴女の為という大義名分の元、私は自分の想いを遂げる為にあのような行動を起こしたのだ。私は貴女の優雅なカーテシーとダンス、そして聡明な貴女を心から愛してしまった。」
皇太子殿下の告白は、私にここ一番の衝撃を与えましたわ。
だって……私の皇太子妃への適応だけではなく、本当に私のことを想ってくださっているのだと分かってしまったからですの。
「殿下のお言葉、とても嬉しく思いますわ。本当にありがとう存じます。」
思わず涙ぐむ私を、すかさず殿下は立ち上がって抱きすくめ、そして耳元で囁かれました。
「一生かけて貴女を守り、幸せにすると誓う。」
「……もうすでに、私はきっとこの国一番の幸せものですわ。」
――パンパンパン……!
「ちょっとよろしいかしら?私の存在を忘れてませんかー?」
じっとりとした目つきでこちらを見つめるマルグリット様。
……私としたことが、すっかり失念しておりました。
「姉上、少しくらいお待ちください。やっとタチアナ嬢と心が通い合ったと言うのに。」
「マルグリット様、大変申し訳ございませんでした。」
慌てて謝罪する私を優しい眼差しで見つめるマルグリット様。
「タチアナ、私は本当に嬉しいのよ。でも、心配なの。実はセドリックには幼い頃からの婚約者がいたんだけれど……。」
「姉上、今その話をしなくても……。」
「いいえ、きちんとタチアナには知っていてもらわないといけないわ。」
何故か少し慌てた様子の皇太子殿下と、不安げなお顔をなさったマルグリット様に私まで不安になってまいりました。
そういえば、以前王城でのパーティーの挨拶の際に、国王陛下は『皇太子であるセドリックも、そろそろ新たな婚約者を選定せねばなるまいが、なにぶん本人が乗り気にならんことにはどうにもできぬことでな。』とおっしゃっていましたわ。
過去に婚約者がいたことは皇太子のお立場を鑑みると当然のことですけれど……。
何か問題があるのでしょうか?
「実は、以前セドリックの婚約者だった御令嬢はね……」
ああ、私なんだか聞くのがすごく恐ろしくなってきましたのよ。
「皇太子妃教育が厳し過ぎて逃げ出したのよ!!」
マルグリット様は不安げな表情ですし、皇太子殿下は額に手を当ててガックリと肩を落としてしまわれております。
「あら、そんなことでしたのね。大丈夫です。私、こう見えて結構逞しいのですわ。」
イライザの時にほとんど済ませた皇太子妃教育を、もう一度することになったとしても初めからするよりは随分と上手くいくはずですわよね。
それに、一度死んでしまった私はこれから何に対しても死ぬ気で頑張れると思うんですの。
「だから、大丈夫ですわ!おまかせ下さい!」
お二人が全身の力が抜けたようにフラフラとなさっていますが大丈夫なのかしら?




