21. タチアナ嬢には実は味方が幾人もいらっしゃったのでは
思えば、タチアナ嬢と入れ替わってから初めて皇太子殿下にお会いした時には、王族らしい風格と美形のお顔、美しいブルーブラックの艶髪、神秘的な色合いの瞳という外見だけを素直に素敵だと思いましたわ。
そしてアルバン様と砕けた口調で話されているのを拝見して、そのうちマルグリット様も含めてお会いするうちに人間味のあるお姿も拝見しましたのよ。
いつもラガルド王国のことを考え、そして憂いているのは過去の婚約者であったブーランジェ王国ヒューバート皇太子殿下と同じ。
それでも皇太子殿下と交わす会話の時間は、この国に来て一番私の本来の姿に近いものでしたの。
私がヒューバート皇太子殿下の婚約者だったときの文字通り血の滲むような努力が役立つ場所があるのなら、私がタチアナ嬢として再び生を受けた意味もあるのかも知れませんわね。
「今までの私の努力がどなたかのお役に立つのでしたら、謹んでお受けしたいと存じますわ。」
きっとドゥイエ伯爵ご夫妻は私の言った言葉の本当の意味はお分かりにならないでしょうが、それで良いのです。
「そうね、最近のタチアナは以前に比べて明るくなったし、どこか自信が満ち溢れているものね。よく頑張ったのね。」
「それでは皇太子殿下にお返事をしておくから。あとは沙汰を待ちなさい。」
どこかホッとしながらも、心配そうなお顔のお二人はやはり善人なのですわ。
「それでは、失礼いたしますわ。」
ご夫妻のお部屋から出ましたら、心配そうなお顔をした家令のクリストフが待っていてくださいましたの。
「お嬢様、大丈夫でございますか?」
「クリストフ、私は大丈夫よ。もう、気弱な御令嬢は卒業ですことよ。」
「そうですか……。ご立派になられましたな。」
シワシワのお顔に目を細めて、眼鏡の奥の瞳は潤んで見えましたわ。
この家令も、陰ながらタチアナ嬢の味方でしたのね。
「ありがとう、クリストフ。」
早速自室に戻りまして、マルグリット様へお会いするための先触れを出しましたのよ。
私を救ってくれたきっかけは、マルグリット様でしたから早く御礼が申し上げたいのと、これから皇太子殿下とどのように接していけば宜しいのかお聞きしたかったのです。
マルグリット様からは早速お返事が来ましたので、明日カスペール公爵家へお邪魔することといたしました。
「良く考えれば、もしも私が本当に皇太子妃になれば……マルグリット様は籍を離れており義理とはいえ、お姉様になるのですわね。それはとても心強いことですわ。」
再び皇太子妃となる機会が巡って来ようとは思いもしませんでしたけれど、確かにあの厳しい妃教育をこなせるほどに私は本心から国と民のための皇太子妃になることを夢見ていたんですの。
「運命の悪戯なのか、必然なのか、どちらにしても私は全力で取り組むだけですわ。」
それに、義務だけではありませんのよ。
「皇太子殿下と過ごす時間は、とても心が安らぎましたわ。婚約者がいながらいけない感情だと封じ込めてましたけれど、確かに私は殿下をお慕いしているのですわ。」
落ち着くようになった自室で、私はポツンと独りごちましたわ。




