第十三話【逃走】
「モォォォ」
「やべぇ……」
一人ならなんとかなる。
それは彼女を逃がすための嘘だった。
走るスピードに関してはあと少しだけ早くなるが、瑠璃はもう疲労している。
追いつかれるのも時間の問題だろう。
「ま、捕まる気は一ミリもないけどな」
久しぶりに感じる命の危機に、瑠璃は微笑んだ。
「かかってこいよ、牛乳ちゃん!」
「モォォォォォ!!」
雄叫びとともに、相手のスピードが上がる。
同タイミングで瑠璃も速度を上げた。
比べると、牛のほうが少しだけ早いようだ。
「はぁ……はぁ……」
足が重く、荒い呼吸のせいで乾燥した肺が痛い。
けどそんなのは今まで何度も経験しているため、今更苦になるはずがない。
瑠璃は段差を上ったり左右に移動したりと、不規則に草原を駆け抜けていく。
少しして。
川が見えてきた。
「はぁ……はぁ……」
彼は一直線に近づき、ジャンプをしようと地面を強く踏み込む。
その瞬間──、
「モォォォ!!」
牛の鋭い角が、瑠璃の背中に突き刺さった。
しかも二本同時にだ。
「うっ!?」
角の間隔が広かったお陰で、身体の端のほうに刺さったのは不幸中の幸いだろう。
もし臓器を貫かれていれば大ダメージは免れなかったはずだ。
いくら痛みに慣れている瑠璃でも、生きることを諦めていたに違いない。
昔と違ってまだレベルが低いのだから。
「モォォォォォ!」
刺さった角を抜こうと牛が暴れる。
「今だ!」
瑠璃が絶妙なタイミングで体を捻ったことにより、なんとか解放された。
血を流しながらも地面へと着地し、すぐさま川に入る。
「モォォ!!」
深さは膝下程度。
一瞬だけ冷たさを感じるも、すぐに背中に負った傷による熱さが全身を駆け回る。
やがて向こう岸にたどり着き、一瞬だけ後ろを振り返ると──牛は川の前で立ち止まっていた。
「は?」
足を踏み入れようとはしているものの、水に触れた瞬間後ろへと後退している。
「あいつ……まさか、水が苦手なのか?」
瑠璃の予測は当たっていた。
この牛は物理攻撃にはめっぽう強いのだが、一方で魔法の耐性が低めに設定されている。
特に水系統の魔法が苦手のようだ。
「なんかよくわからないけど、助かった」
そうつぶやき、瑠璃は川に沿って下り始める。
牛は途中まで川越しについてきていたが、途中で諦めたらしくどこかへ走り去っていった。




