第十二話【強敵】
次の日。
無事にレベル15となった瑠璃と月は森をあとにし、最初に転移させられたスタート地点へと向かっていた。
「そろそろ着く頃だと思うから、一応作戦を考えておくか」
「とはいっても、いつも通り瑠璃さんが近づいて攻撃するだけですよね」
「まあな。それで月は、俺がダメージを受けたタイミングで後ろから回復魔法を頼む」
「任せてください! まだあまり魔法に慣れていなくてそんなに上手じゃないですけど、瑠璃さんが死なないよう精一杯頑張ります」
昨日レベルを二つ上げた際、月はステータスポイントをMPと賢さのみに振っていた。
回復魔法であるヒールは賢さの数値によって効果が上がるため、少しでも回復量を増やそうという考えだ。
スキルポイントに関しても攻撃魔法を習得することなく、ヒールのレベルを上げている。
「おっ、見えてきた」
「本当ですね……って、うわぁ」
「久しぶりに見ると、やっぱ強そうだな」
少し遠くに全長五メートルほどの巨大な牛がいる。
白と黒の全身。
背中に草が生えており、頭には二本の鋭い角。
全体的におっとりとした雰囲気だ。
「……やっぱりやめません? 勝てる気がしないんですけど」
「そうか? 俺はいけそうだぞ」
「あんなのレベル15じゃ無理ですって」
「せっかくここまで戻ってきたんだから、やるしかないだろ。仮にやばいと思ったら逃げれば済む話だし」
「……わかりました。けど、無茶だけは絶対にやめてくださいね?」
「安心しろ。俺も昔よりは死闘を好まなくなっているからな」
「それでも、戦闘狂とレベリング中毒であることに変わりはないです」
「うるせぇ……。さぁ、行くぞ」
「はい!」
瑠璃は背後から牛へ近づき、
「おらぁぁぁ!!」
お尻を本気で殴った。
その瞬間、拳の皮が捲れて血が滲み始める。
「いってぇ……」と顔を歪める瑠璃。
「モォー」
牛がゆっくりと振り返った。
直後、相手の雰囲気が変わる。
今まではおっとりとした顔つきだったにもかかわらず、鋭い双眼で瑠璃を睨み始めた。
目が真っ赤に染まっている。
「これはやばい。……月、逃げろ!!」
「えっ!?」
「こいつには勝てない!」
「は、はいぃ!」
瑠璃と月は同時に走り出す。
二人とも同じくらい素早さを上げていたため、速度はあまり変わらない。
正確に言えば、少し瑠璃が速いくらいだ。
そのため少しずつ距離が縮まり、やがて彼は月へと追いついた。
しかし追い越そうとはしない。
いざとなれば彼女を守るつもりなのだろう。
「モォォォォォ!!」
後ろから凄まじい音量の雄叫びが聞こえてくる。
「月、もうちょっと速く走れないのか?」
「無理です! というか、瑠璃さんが一瞬にして諦めるなんて、どうしたんですか?」
「あれは無理だろ。鉄を殴ったのかと思った」
昔の瑠璃であれば余裕どころの話ではなかっただろうが、今はレベルがリセットされている。
ゆえに鉄を破壊するのは不可能だ。
「はぁ……はぁ……瑠璃さん」
「ん?」
「牛との距離はどんな感じです?」
彼は一瞬だけ後ろを振り向き、
「やばい」
「えっ?」
「明らかに最初より距離が縮まってきている」
「いや、本当にやばいじゃないですか!! 私、もう疲れてきましたよ」
「俺もちょっと疲労が溜まってきた」
「モォォォォォ!!」
瑠璃は鼻で呼吸することによって息を整えつつ、このピンチを乗り切る方法を考えていく。
「追いつかれた場合、戦う羽目になる。そして戦えば勝てない」
「はぁ……はぁ……」
「走る速度も、あいつのほうが上」
周囲を見渡す。
至るところに段差があるが、それを利用したとしても逃げられるとは思えない。
つまり、現状で打開策は存在しない。
そう判断した瑠璃は、彼女の隣に並んで口を開く。
「月、森の小屋で合流だ」
「はい? 何を、言っているんです?」
「俺があいつを引きつけるから、そのうちに逃げろ」
「……い、嫌ですっ! そんなの許しません」
「聞け。俺はお前よりも速く走れる。一人なら、なんとかなるんだよ」
「でも……」
「牛はおそらく、攻撃した俺に向かってくるはずだ」
「…………本当に牛より速く走れるんです?」
「俺を信じろ」
彼女は数秒ほど悩むも、このまま喋り続けるほうが体力の無駄だと判断し、頷く。
「…………わかりました」
「決まりだ」
「けど、絶対に死なないでくださいよ? もし死んだりしたら、私が瑠璃さんを殺しますから!」
「おう。その時は任せた」
瑠璃は微笑み、進行方向を横にずらした。
予想通り牛は月ではなく、道からそれた瑠璃のほうを追いかけていく。
いつも読んでくださるみなさまのおかげで、とうとう1000万PVを突破しました。
本当にありがとうございます!!
(>ω<)




