第二十二話【最終決戦・八】
「うるさいのは君だよ。さっきからさ」
目の前の魔神が言った。
「悪いな。さっきから走馬灯が見えるんだよ」
「あ~、そうだったんだ。じゃあもう終わりが近いってことだね。君との戦いが終わるのは残念だけど、仕方ないか。……充分楽しんだし、そろそろ生から解放してあげるよ」
「気を遣ってくれているところ申しわけないが、俺は死ぬつもりはない。絶対にな」
「ふふっ。そんな君に、特別に面白い技を見せてあげる」
「技?」
「正直あんまり好きな戦い方じゃないからやらなかったんだけど、どうせ次で最後になるわけだし、君もサクッと死にたいでしょ?」
「何言ってんだ? さっきから」
「つまりこういうこと」
魔神が指をパチンッと鳴らした瞬間、瑠璃の体に纏っていた水色のオーラが消えた。
それだけでなく、ものすごい重量感に襲われる。
「お前……何を?」
「君個人のステータスを操作して、レベル1にしたよ。HPはあと1くらいは残っている状態じゃないかな?」
「そんなわけないだ……あれ?」
納得していないような表情でパンチを繰り出そうとするも、なぜか身体が動かなかった。
全身が疲労しすぎているというのもあるが、脳から発信する信号と肉体が上手いことリンクしていない。
レベルカンストに慣れていた状態から、いきなり一般人に戻ったからだろう。
「更にほいっと」
再び指を鳴らした直後、魔神の全身にあった傷が全て癒えた。
「な……」
「ふふっ、全回復しちゃった」
「……くそ」
この状況でも、瑠璃の闘志は一切衰えていない。
全身の痛みに耐えながらも、相手を睨み続けている。
「じゃあいくよ? 万全状態の僕が、レベル1の人間を本気で殴る。……確実に何も残らないだろうね」
魔神はゆっくりと拳を構え、微笑む。
「バイバイ」
そんな相手のつぶやきが聞こえた瞬間、頭のなかに月の顔が浮かんできた。
『瑠璃さん。大好きです』
いつも一緒にいた大好きなパートナー。
少々口は悪いが、そんなところも含めて全てがかわいかった。
無事に生きて帰ることができたら結婚しようと約束していた。
けれど、
「俺もだ……月」
その言葉を最後に、瑠璃は消滅した。
「──りさん!?」
ほぼ同時に月がやってきたが、もうすでに彼はその場にいない。
「嘘……ですよね?」
「ふぅ~、地球人って案外すごいんだね。今までで一番強かったよ。これは評価を改める必要があるかも」
「る、瑠璃さんをどこにやったんですかぁぁぁ!!」
月が目に涙を浮かべながら叫んだ。
「ん? 殺したよ?」
「嘘をつかないでください! あの人が死ぬはずありません!」
「でも君も見ていたでしょ?」
「そ、そんな……」
「そもそも僕に立ち向かったことが間違いなんだよ」
「……瑠璃……さん」
月の脳裏に、彼の姿が浮かぶ。
小柄で。
でも強くて。
心の底から大好きだった男。
「そんなの……やですよぉ」
月は頬を膨らませて涙を堪える。
『うん。俺が第一位の琥珀川瑠璃』
『大切なのは命の長さじゃない。生きている時に何ができるか……俺はそう思うけどな』
『これが四次元の思考回路だ』
出会いはオリハルコンの部屋のなか。
最初は不快だと思うことも多かったが、時間が経つにつれてだんだん彼のことが好きになっていった。
『おう月。さっきぶり!』
『天神ノ峰団に所属している鳳蝶月をもらいたい』
地下大国の牢屋にあっさりとした表情で助けにきたり。
『ったく、冷たくて気持ちいいじゃねぇか!』
湖で楽しく遊んだり。
『月。絶対俺の顔見るなよ』
初めて抱き合ったのは、雪景色のなかにあった洞窟内での出来事だった。
『……こんなにおいしい物は初めて食べた』
魔女の森で串焼きを食べた時に初めて彼の涙を見た。
『……月、好きだ』
『月が世界最強である必要はない。俺がお前を守るからな』
『やめねぇよ。……お前が好きだから』
たくさんの思い出が止まることなく溢れてくる。
『……生きてファイナルステージから帰ってこられたら、俺と結婚しような』
そうつぶやいて微笑む瑠璃を思い浮かべた瞬間、月の涙腺が崩壊した。
顔をくしゃくしゃに歪め、涙が流れ始める。
次々と頬を伝って顎に溜まり、乾いた荒野へと零れ落ちていく。
胸が締めつけられる感覚。
息が上手くできず、苦しい。
「瑠璃さぁぁぁぁぁぁん!!」
耐えきれずに彼女が慟哭を上げた、その時だった。
瑠璃が先ほど消滅した場所が、光り始めた。




