第十五話【最終決戦・一】
地平線の先まで何もない荒れ果てた荒野。
「これはすごいな。ちょっと見直したぞ」
「あはは! でしょ?」
「まあ嘘だけど」
瑠璃が手のひらを返した直後、嬉しそうだった魔神の顔が一瞬にして無表情に変化した。
「……さぁ、始めよう。とりあえず下等種族を相手にするわけだし、第一形態からでいいか」
「瑠璃さん。まずは私一人で戦ってもいいですか? 正直第一形態なら勝てる気がします」
「あー、いいこと思いついた。何形態まであるのかはわからないけど、交代で倒していって先に倒せなくなったほうが負けっていう勝負をしないか?」
「いいですけど……もし私が殺されそうになったら助けてくださいよ?」
「おう、当たり前だ。その場合は俺の勝ちだけどな」
「ちなみに、どっちかが最終形態を倒してしまった場合、勝敗はどうなるんです?」
「そりゃー倒したほうだろ」
「要するに運ってことですね」
「ああ」
「ねぇ、君たちマジでムカつくんだけど?」
気づくと魔神は男の子から化け物のような姿に変わっていた。
真っ赤な全身で、紫色の翼が生えている。
身長が三メートルほどあり、吊り上がった真っ黒の双眼はとてつもなく鋭い。
「死ね──」
「──ていっ!!」
すさまじい速度で近づいてきた魔神を、月が殴った。
パァァァン! という破裂音とともに相手が爆発。
周囲に真っ赤な鮮血が散った。
「どこが魔神なんだ? 第一形態にしても弱すぎだろ」
「ですよね。普通のパンチで倒せましたよ?」
「うわぁお。さすがファイナルステージへたどり着いただけあるね。じゃあ続いて第二形態だよ」
声のしたほうを向くと、少し離れた位置に黒いフードを被った魔導士が浮いていた。
「よぉし、次は俺の番か。よく見ていろよ? 終わったぞ」
音すらなく魔導士の体が消滅していた。
「さすが瑠璃さんですね。私には到底真似できないですよ」
「あれ? 君……今何したの? 全然見えなかったんだけど」
どこからともなくそんな声が聞こえてくる。
「普通に殴っただけだ」
「これは、予想以上かも。さっきは下等種族とか言って馬鹿にしてごめんね? どうやら君たちは二人とも普通レベルの力は持っているみたいだ。これは第三形態とか言ってられないな。だからそうだね……。次は少し飛んで第八形態でいくね」
その瞬間、月の目の前にムキムキな化け物が現れた。
真っ黒な肌で、衣服は紫色のブーメランパンツ一丁だけ。
身長は二メートルにたどり着かないくらいだろう。
だけど、先ほどの第一、第二形態とは比べものにならないほどの圧を感じる。
体の大きさが強さと比例していないというのを、月は充分に理解していた。
なんせ、瑠璃という存在をずっと間近で見てきたのだから。
「まずは弱そうな君からだ」
魔神が月に向かって強烈なパンチを放つ。
彼女は少しだけ横にずれて躱し、相手のみぞおち部分に右フックを合わせた。
同時になぜか眉を顰めつつ、相手から距離をとる。
「拳が痛いですぅ」
どうやら魔神の腹のほうが硬かったようだ。
「当たり前だよ。この体は防御力に特化してあるからね。普通の人間程度の攻撃が通るはずないよ」
そう言いながら魔神は高速で月へと近づいていく。
「だったら!」
月の容赦ない蹴り上げが、魔神の股にクリーンヒットした。
「──っ!?」
魔神は局部を抑えて地面にうずくまる。
月は止まることなく、相手の顔面を蹴り、殴っていく。
「このくそ女、痛いだろうがぁ!」
「きゃっ!?」
魔神の裏拳が月の顎に決まった。
彼女は吹き飛びつつも、空中で体勢を立て直す。
「おいてめぇ。俺の月に何してくれてんだ」
「瑠璃さん! 最後まで私にやらせてください」
動こうとした瑠璃を彼女が止めた。
「でも」
「私が自分の力で勝ちたいんです! けど、殺されそうになったらその時はお願いしますね?」
「……おう」
「あはは! その判断が間違いだったと教えてあげるよ」
魔神は再び彼女へと近づく。
「あまり私をなめないでください。必殺顔面ハイキック!」
そう叫びながら放たれた月の蹴りが、再び相手の局部に命中した。
魔神は途中で月の狙いに気づいたようだが、ハイキックと言われて頭をガードしようとしていたため、間に合わなかったのだ。
「痛ったぁ!? 何がハイキックだくそが」
「ふふんっ。ハイキックだと言われて本当にハイキックがくるとでも思いました?」
更に放たれた月の膝蹴りが、相手の顔面に突き刺さる。
魔神は股間を抑えつつも後ろへと吹き飛んだ。
時間差で相手の鼻から血が垂れる。
「股間をやられたせいでお腹が痛いだろうが、おい!」
「言っておきますが、瑠璃さんの攻撃はもっと痛いですよ?」
月が追従し、局部に向けて蹴りやパンチを何度も放っていく。
魔神は両手であそこを守ってはいるが、月が相手ではノーダメージとはいかないらしい。
「おい変態女! ち○こばかり狙うのはやめろ」
「変態だろうと構いません。瑠璃さんがもらってくれますし」
「知るか」
「じゃあ今から本気出しますね? バレていそうなので先に言っておきますけど、急所をマジで蹴り上げますから」
「まだ痛みが引いてないんだよ。もう少し待て!」
「待ちませんよぉ。必殺、ハイキック!!」
魔神は両手と股間に思いっきり力を込める。
その刹那、月の本気の蹴りが首元に命中した。
ゴキッ! という音が響く。
「なん……で」
魔神は悲痛に顔を歪めながらも目を閉じて動かなくなった。
「だから直前で言ったじゃないですか。ハイキックだって」
「……なんか月の近くにいたら俺のも蹴られそうだな」
瑠璃がジト目でつぶやいた。
「蹴りません! 使い物にならなくなったらどうするんですか」
「ん? ああ、まあ確かに尿が排出できないときついよな。マジで蹴るなよ?」
「…………はい」




