花結びの園
名前とは大事だ。言霊と言う言葉が日本語にあるように、言葉には力がある。
時に祈りに、時に呪い、そして時に力に姿を変える。
特に名前は特別だ。その人の在り方の方向性を決めることも多い。物に意味を持たせることもそうだし、魔法少女としては『固有魔法』や魔法具の名前はその魔法や魔法少女の本質を示していることが多い。
シャドウのという名前は、名前というより暗号名という気質、あるいは個を識別するためのコードというのが正しいだろう。
アフェット、アストゥート、クライス、シャグランなどなど。【ノーブル】の幹部級と思われるそれらは素性を隠す為の偽名。
シャドウだけが少し違う。彼には名前が無い。
それでも、影という意味のそのシャドウという名詞は彼の在り方や誕生の経緯を考えるとよく表した名前だとも思う。
当初、素で私達と偶然接触した時のエイと言う偽名も影やAをもじって名付けられたんじゃないかな。
「貴方は影なんかじゃない。影なんかで終わってほしくない」
「親のわがままかも知れんがな。子供には良い人生を歩んで欲しい。名前はその願掛けみたいな部分もある」
子供の名前を適当に付ける親はそうそういないと思う。
最近ではキラキラネームなんてのが流行ってるけど、私個人としてもあれはどうかと思うよ。
子供の将来や、親の願いを込めて付けるものなはずなのに、文字の綺麗さだとか音のお洒落さを子供の名前にするなんて酷い話だとすら感じる。
子供は親のおもちゃじゃないし、アクセサリーでもない。
私の両親はそういう人じゃないと知ってるから、私は見ているだけ。
因みに真白という名前は、何色にも染まれる白のように、自由な未来を歩んで欲しいという意味。
中々良い意味でしょ?
私の名前自慢はこのくらいにしておいて、シャドウの名前についてね。
名前、名前かぁ。技名とかはフィーリングでイケるんだけど、人名やペットの名前となると苦手だ。
さっきのキラキラネームに通じるけど、カッコつける技名と、大切に意味を込める人やペットの名前はその重みが違うから。
どうしても悩んでしまうんだけど、両親はどんな名前をシャドウに付けるんだろうか。
興味津々で見つめる私に対して、当事者たるシャドウは助けを求めるかのような視線をこちらに向けて来る。
そこそこデッカい身体で、困って飼い主を見る犬みたいな目をされても困る。
てか、なんで私に助けを求めるのさ。私だってシャドウなんて呼び方をしなくて済むならそっちの方が良いと思ってるからね?
「……俺は貴女から産まれた人間じゃない。あなた達を材料にして産まれた」
「だから、私の子では無いと?」
「と言うよりは、名乗る資格があるのかと疑問を感じている。俺が産まれた理由の中に、あなた方の命を奪った原因が少なからずある。そんな奴が息子を名乗るのはおこがましい」
シャドウらしい理由だ。道理や筋が通っていない事にはNOを突き付ける理屈派。
自分の産まれた経緯に、両親の死が関わっている以上はシャドウの中にしこりのようなものはあり続けるのだろう。
「やっぱり、少しお話して分かったけど貴方は優しい子ね。真白の優しさとは少し違う。誰かのために悲しんだり喜んだり出来る」
「視野や思考を広い。強い好奇心が沢山の事柄を雑多に取り込んでいるんだろうな」
「そう、なのか?」
「そうよ」
それを母は優しいと表現し、父は視野が広いと表した。実感の無いシャドウは首を傾げるだけだけど、私も両親の解釈に不満や疑問は無い。
影なんて名前、アイツには似合わない。
「貴方、良い名前はあるかしら?」
「あぁ、我ながら良いのを思い付いた」
両親は、特に父は既に思い付いているらしい。困惑顔のシャドウを他所に父は口を開く。
「真広。お前の名前は小野 真広だ」
真広。それが、父がシャドウに。
いや、真広に与えた名前だ。




