『獣の王』
だからって、退くのは無し。私達がここで退いたら、誰が『獣の王』に対抗できるって言うのよ。
「気張るぞ!!」
「わかってる!!」
「よぉし、やるぞ!!」
ここにいるのは『獣の王』を殺すために集められた大本命のチーム。間違いなく、最強格の魔法少女3人も集まって、おめおめと逃げ帰って来ましたなんて笑い話にもならないわ。
風と炎と氷。それぞれの属性の魔力を纏って、私達は戦いのギアを更に一段上げていく。
足裏を爆発させて飛び出した私を皮切りに、フェイツェイの刀とグレースアの氷も『獣の王』へと向かっていく。
「どうした? 本気で来ないのか? 貴様らは自分を更に強化出来るだろう?」
「今はこれで十分ってことよ」
それを当然のように捌いて見せる『獣の王』。分かり切っていたから動揺せずに次の攻撃に切り替える私達。
本気は本気だけど、全力ではないことに挑発されるけど、乗ってやる理由は無いわね。
最初から本気を出せば良いのに。よく言われることだわ。勘違いされるけど、本気=全力ではないし、最初から全開勝負してない=手抜きで戦っているってわけじゃないのよ。
戦いは駆け引きよ。そりゃ初心者から中級者くらいまでは本気=全力でそれがそのまま結果として出てくることが殆どだけど、上級者ともなればそうもいかない。
駆け引きの引き出しの量が全然違うのよ。手の内を隠すのも戦略だし、最初から全力全開でいかないのも戦略。
相手との力量差はどのくらいあるのか、相手はどんな手段を使って勝とうとしているのか、そういうことも考慮して戦わないとあっという間に相手の思うつぼだわ。
『獣の王』が私達に全力を出させようとしているのもそういう思惑があるってことだ。例えば、魔力切れや体力切れでの決定的なチャンスメイクをしようとしていたり、全力を真正面から打倒して、私達の戦意を削いだりとかね。
こっちとしても、全力を早くから出すのは手の内を晒すことにもなる。それに、いくら私達が『獣の王』を倒す大本命とは言え、他のメンツが集まってからの方が勝率が高い。
つまり互いに様子見をさせて、少しでも時間を稼ぎたいっていうのが今回の私達の思惑ってわけ。
「能ある鷹は爪を隠す。お前を殺すタイミングは今じゃないってことさ」
「ほう、私を殺すと?」
「そうだよぉ。『器』だけじゃないよ。『獣の王』を殺す手段が、もう私達にはあるんだから」
カマすわねぇ、グレースアは。女優ばりの名演技で挑発と揺さぶりをかけていっているわ。
フェイツェイも明確に『獣の王』を殺すと言う。
強い言葉を敢えて使って、こっちには自信があると手段があるって主張して見せる。相手からすればハッタリに決まっていると思うことよね。
でもこうやって伝えることでもしかしたら本当かも知れないと思わせるのも駆け引き。
自分は絶対に殺されないと思っているし、事実今まで本当に死んだことは1つもないし、そのための手段を時間を掛けて準備した『獣の王』。
でもそれを殺せる手段を既に用意してあるなんて言われたら、鼻で笑って見せる。
「はっ、面白いハッタリだ。そんなものが通じるとでも?」
鼻で笑うしか無いのよ。鼻で笑って、そんなこと出来やしないとただのハッタリだと一蹴しておかないと、自分の中に不安の種を植えつけることになる。
ほんの少しの不安の種は時間が経てば経つほど根を張って大きくなっていく。それはどこかのタイミングで致命的なミスを誘う。
駆け引きっていうのはこういうのも含んでるのよ。その辺はグレースアが私達3人の中でダントツに上手いわね。
「ハッタリかどうかは、自分で体験してみれば良いんじゃない?」
もしかしたら、本当にあるかも知れない。ほんの少しでもそう思わせるだけで効果はある。
そして実際、私達にはそれがある。『獣の王』の喉元に突き立てる『牙』があることを私達は知っている。
私達流に編み出したそれを、どこで出すのか。それが最も重要なポイントだ。




