『獣の王』
今目の前にいる『獣の王』の器を破壊しても、また別の器が『獣の王』として活動を始める。母体がいるとか、司令塔がいるとか、そういう話じゃないってわけね。
巨大な力の塊。それこそが『獣の王』の本性。
世界に影響を及ぼすために肉体と言う名前の力の器が必要なだけで、器自体が『獣の王』ではない。
私達が見てきた『災厄の魔女』ショルシエも、その分身体も。おそらくS級魔獣『人滅獣忌 白面金毛の九尾』も全てストックされた『器』なんでしょうね。
しかもその器が破壊され尽くしても、時間さえかければいずれ器が再形成されて、霧散した力を蓄え始める。
目の前の『獣の王』は古代の時代、妖精界で大暴れした『獣の王』の器とは別の器。ってところ?
ようは、無限残機のクソボスってことだ。何か、特別な方法でなきゃ、根本的な解決方法は存在せず。いずれまた、私達が死んで何世代も経った後くらいに暴れ始める。
「そうまでして、世界を壊すことに何の理由があるわけ?」
『獣の王』がどういう存在で、どれだけ厄介なのかはよぉく分かったわ。それでもやっぱり気になるのは、なんでそこまでして世界を滅茶苦茶にすることにこだわるのか、よね。
物事には理由がある。どんなに理由は無いと、衝動的にやったと言っても。そこに意志があるなら奥底に理由と原因が存在する。
それだけの力を持つ『獣の王』が破壊することに固執するのは何でなのか。私はそこに少しだけ興味があった。
だってそうじゃない。これだけの圧倒的な魔力と能力があるなら、破壊者ではなく君臨者。つまりは神みたいに崇められて、それこそ偉そうにふんぞり返りながら生活することだって出来るハズだ。
でも、『獣の王』はそれをしない。力をただ破壊にしか、蹂躙にしか使わない。
私も竜の力という、他の魔法少女が持っていない特殊な力がある。やろうと思えば魔法少女や世界を相手取って戦争することだって出来なくはない。
でも私はしようと思わない。してもメリットが無いってのはそうだし、そもそも興味は無いけど。
大抵、何か巨大な力を得た人っていうのは、自分をより高みへ昇らせることに躍起になる印象がある。
『獣の王』はその気配はない。帝国の王城に巣くっているのは君臨者とかになるためじゃなくて、ここが都合が良かっただけだ。
あくまで、目の前のこの存在は破壊することに拘っている。それは何でなのか、強大な力を持っている自覚がある私から見ても『獣の王』が自分にどんな存在意義を持たせているのかがわからない。
私もいずれ、あんな化け物になっちゃうんじゃないかって気持ちも少しある。だから知りたかった。
「私はそういうものだからだ。破壊し、蹂躙するのが私だ。そこに貴様らのような矮小な存在が考えがちな理由など、存在せんっ!!」
だけど、返って来たのはてんで参考にならない答えだった。
理由の有無とか原因の有無じゃなくて、『獣の王』とは破壊し蹂躙するもの。それ以外に存在意義は無い。
それが『獣の王』本人からの答え。それが本当にそうなのかはわからない。本人が気が付いていないだけで何かに影響を受けていたり、そうなった原因があるかも知れない。
ただ少なくとも、『獣の王』という存在は破壊者であり蹂躙者であって、そこに少しの譲歩の余地が改めて無いことはよく分かった。
「さぁ足掻け魔法少女!! どうせ意味も価値も無い徒労を嘲笑ってやろう」
「意味も価値も無い、ね」
言ってくれるじゃない。確かに巨大なエネルギーの塊が『獣の王』の本性だと言われてもピンとこない。
このピンとこないというが私達魔法少女にとって致命的なのよ。私達が操る魔法はイメージで良し悪しが決まる。
イメージが固定化されていればいる程、その効力は増して行く。
例えば、火の魔法なら燃えるイメージがあれば良いけど、具体的に何をどう燃やして、そしてどうなるのかまでイメージが出来ていると同じ火の魔法でもまるで威力が違う。
イメージを複雑に組み合わせて作るのが私達魔法少女の魔法。だから、敵の規模や対象についてあやふやな認識だと威力が落ちる。
特にこの規模の戦いになって来るとそのイメージの弱さが致命的な魔法の脆さに出て来るわけ。
今、私は『獣の王』の本性を焼き尽くすイメージがし切れていない。そう感じていた。




