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アリスとお兄ちゃんとシリーズ  作者: ピシコ
アリスとお兄ちゃんと文化祭症候群
41/41

18.夜は続く

ガチャ……と、静かにドアが開く音がした。

「お兄ちゃんだ」

私は小声でつぶやく。はやく玄関に向かわないと。

「おかえりお兄ちゃん」

靴を脱いでいるお兄ちゃんに、私は声をかける。

「ただいま……今日はお泊り会なのか?」

「え?」

「玄関に知らない靴が二足あったから」

なるほど、まぁ、お兄ちゃんならすぐに気付くわよね。

「うん、真衣となべ子の二人が、今日はうちに泊まるの」

「文化祭の準備が間に合わなかったのか?」

「まぁ……そんな感じ。なんとか終わったけどね。お兄ちゃんこそ、帰ってくるの遅かったね」

時計を見ると、午後11時を回っていた。

「別に、特に用はなかったんだが。クラスメイトと飯食ってたんだ」

「ふーん……」

あのお兄ちゃんが、クラスの友達とご飯なんてね……。

本だけが友達だったお兄ちゃんが、こんなに成長して、妹として安心するわね。うんうん。

「もう、みんな寝てるの。真衣も渡辺さんは私のベッドで。お母さんも寝ちゃった」

「お前、今日はどこで寝るんだ?」

「ソファーで寝ようかなって」

「ふーん」

「そう言えば、真衣のマジックショー大成功だったよ」

「あぁ、見てたよ」

「見てたの?」

「あぁ、浦頭先生と一緒にな」

「そうなの? 二人とも薄情ね。お疲れ様の一言ぐらい、真衣に言ってあげても良いのに」

「まだ、一日目だからな」

「そういう問題?」

「そういう問題。多分、明日が終われば、浦頭先生も真衣さんに話してあげると思うよ」

「お疲れ様って?」

「まぁ、それもあるけど、自分の正体についてね」

「は?」

私は、予期せぬ言葉を聞いて、思わず聞き返す。

「正体だよ。浦頭先生の正体」

「正体って、浦頭先生は浦頭先生でしょ」

「……浦頭先生は、真衣さんが憧れる伝説のマジシャン、B・W本人だよ」

「……」

えっと……

「そもそもおかしいなって思ったのは、夏休みに、浦頭先生が見せてくれたビデオだったんだ。あの時のビデオは、真衣さんも見たことがないビデオだった。B・Wの大ファンである真衣さんがだ」

困惑する私をよそに、お兄ちゃんは話を続ける。

「先生は、ビデオをファンの知り合いから貰ったといっていたが、テレビやネットに流れていないビデオを一人のファンが入手できるものなのか疑問は残る。しかも、高校の文化祭でやった簡単なショーのビデオをだ」

「当時のお客さんが撮っただけなんじゃないの?」

「それなら、インターネットに公開されていると思わないか?」

「でも、それだけで、浦頭先生がB・Wだって証拠にはならないんじゃないの?」

「確かにな。だから、俺は本人に直接聞いたんだ」

「……先生に聞いたの?」

「ああ」

「……なんか、お兄ちゃんらしくないね」

「そうか? 俺は、知りたいことを知ろうとしているだけだよ」

「ううん。お兄ちゃんは、いつも分かったことを教えてくれないじゃない? でも、今回は私が聞かなくても話してくれるから」

「……なら、話すのはやめるか?」

「いや。それはやだ」

「まったく……なら続けるが、俺は先生に」

お兄ちゃんの言葉を遮るように、部屋のドアがギィ……と音を立てた。

「あれ? お兄様? お帰りなさいませ」

パジャマ姿(うちのお母さんの服ね)の真衣がそこにはいた。

「今日は、お邪魔させていただいております」

「真衣、寝てたんじゃないの?」

「ちょっとトイレにね。そしたら、話声がするから何だろうって思って」

「もしかして……今の話聞いてた?」

私は恐る恐る聞く。

「え? 何を話していたかは聞こえなかったけど……」

「よかったぁ……」

「ははぁん? もしかして、アリス、お兄様とそういう関係だったの? 駄目よ近親相姦なんて」

「ち、違うわ! 何言ってんのよ!」

「もう、夜なんだから大声出さないでよ」

「誰のせいで……!」

「はぁ、俺はもう寝るぞ。明日も文化祭なんだから、お前らも早く寝ときな」

「はーい♡ お休みなさいお兄様」

「あぁ、明日のマジックショーも、頑張って」

お兄ちゃんはそう言って、自室へと戻っていった。

「ねぇアリス。あなたも私たちと一緒に寝ましょうよ」

「え? でも、あのベッドに三人は無理でしょう」

「みんなでくっつけばいけるわよ」

「ちょ、ちょっと……」

私は真衣に引っ張られて、自室へと向かう。

ベッドの上には、渡辺さんがちょこんと座っていた。

「あぁ~、アリスちゃぁ~ん。一緒に寝てくれるのねぇ~?」

「うぅ、狭くないかしら……」

私はしぶしぶベッドに入る。

続けて真衣がベッドに入ってきて、酷い圧迫感を感じた。

「ね、ねぇ……なんで私が真ん中なのよ」

「だって、アリスが一番ちっちゃいから」

「関係ないでしょ」

「アリスちゃんを抱き枕にしちゃう~」

渡辺さんは、私を抱きよせてくる。

「わ、渡辺さ……んむぅ」

「……アリスちゃん。本当に、今日はありがとう」

渡辺さんはの体は、とってもあったかい。

「アリスちゃんのおかげで、ドレスはなんとかなったの……本当に、本当にありがとう」

「気にしないで……私は、友達を放っておけなかっただけ……。それに、私は何もしてないわ」

修繕の手伝いは、ほとんどお母さん頼みだったしね。

「ううん。そんなことない。アリスちゃんの気持ちがとっても、とぉって嬉しいの」

「渡辺さん……」

「ありがとう……ありがとうアリスちゃん……」

「……」

「……アリスちゃん?」

「ちょっとなべ子、アリスを抱きしめすぎよ」

「えぇ? ご、ごめんねぇアリスちゃぁん。つ、ついぃ」

「……窒息するかと思った」

「意外と、なべ子って力あるわよね」

「……それに真衣ちゃんも、ありがとう」

「私は、何もしてないわ。アリスよりもね」

「私のために、怒ってくれた」

「……」

「それだけで、私は嬉しいの」

「……当たり前でしょう。私にとって、あなたは……」

「……」

「もうっ! 早く寝ましょう。明日も早いんだから」

「真衣、もしかして照れてる?」

「照れてない」

真っ暗な部屋では、真衣の頬の明るさは分からなかったけど、きっと照れてたと思う。

「……実はね、私、こうやって、友達と一緒にお泊り会するの、初めてなんだ」

「そうなのアリス?」

「うん。別に、今まで仲の良い友達はいたんだけど、お泊り会は初めて」

「あらあら~、もしかして、私、アリスちゃんの初めてをいただいちゃったわぁ~」

「だからね……二人とも、明日は文化祭だって、分かってるんだけど」

……私も、きっと今、頬が赤いんだろうな。

「もうちょっと、おしゃべりしない?」

私がそう言うと、二人は優しく微笑んでくれた。

つづきます

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