3 バッドコミュニケーション
九月中どころか十月ですね
びっくりすると、言葉が出なくなるってよく言うけど、この時の私と亮太はまさにその通りだったと思う。
私たちは、瞬きせずに口をパクパクと、息ができない人の様に動かすしかなかった。
「あ、ああ、あなたが、夏美のお、おととと」
亮太は、明らかに呂律が回ってない。
「ハハハハ、そんなに驚くことかね?」
夏美のお父さん(って書くと長いからちょっと失礼だと思うけど、これからは海斗さんって表記するわね)は、クスクスとほほ笑んでいる。
「夏美の奴は、君たちに私のどんな酷いことを話したんだい?」
「い、いやっ! そんなことはケッシテアリマセン!」
亮太の足は震えていた。
やっぱり、男の人って、好きな人の父親って怖く見えるのかな。今度お兄ちゃんに……は聞いても無駄そうね……
「では、どうして驚いているんだい?」
「えっと……」
どうするの亮太! 言っておくけど私には何にも気の利いたことは言えないからね!
笑顔なはずなのに、海斗さんの顔は、どこか怖い。
1秒足らずの沈黙が永遠に感じる。
その永遠を破ったのは、
「おいおい海斗。子供相手に尋問とは、職権濫用じゃないか?」
蝉郎さんは、肩をすくめながらそう言った。
「あぁ、これは申し訳ない。つい職業柄が出てしまったようだ」
亮太は、今にもへたり込んでしまいそうだった。
「でも、今のは尋問じゃないんだよ。そう、これはただの質問だからね」
海斗さんはそうフォローするが、全くフォローになっていない。
「ほら海斗、大人になってしまった我々があんまり長く校舎にいるのも良くないし、僕らはそろそろお暇しようか」
蝉郎さんの言葉に海斗さんは小さく頷き、
「夏美の奴が学校でどんな風に過ごしてるのか些か興味があったが……まぁ、また今度でいいだろう。二人とも、夏美の奴と仲良くしてやってくださいね」
私と亮太は、首が折れそうなほど首を激しく縦に振った。
「それでは、さようなら」
蝉郎さんと海斗さんは、小さく会釈して歩いていった。
二人の背中が、見えなくなるまで、私と亮太は、その場から動かなかった。
「……なぁアリス」
「なによ」
「別に何も悪いこともしてないし、やましいこともないが」
亮太の額には汗がびっしょりだった。
「超怖かったぜ」
「超同感よ」
汗をかいてたのは、私もだけどね……。
でも、あれが夏美のお父さんか……。
しっかりしてそうで、ちょっと厳しそうな人だけど、夏美との仲は(多分)悪いんだよね……。
何が原因なんだろ……。
夏美に聞けば解決なんだろうけど、そんなこと出来るわけがない。
「アリス、付き合わせて悪かったな」
「……悪かったと思うなら」
「思うなら?」
「ジュース一本」
「安いもんだぜ」
とっても喉がカラカラだった。
翌朝、クラスに到着するなり
「ア・リ・スちゃあん。待ってたのよぉ?」
クラスメイトの渡辺さんが、いきなり押しかけて来た。
「おぶっ、お、おはよう渡辺さん……くるしいよぉ」
「ねぇねぇアリスちゃん。今日の放課後ってお時間あるぅ?」
「放課後? 何かするの?」
「ふっふっふ……これを見てぇ!」
渡辺さんは、明らかに通学用じゃないスーツケースを持ち出し、その中を見せてきた。
この真っ白なのって……
「……ドレス?」
「ぴんぽんぴんぽ~ん!」
渡辺さんはいつも以上にハイだ。
「このドレスはね? 家庭科部の展示に使うのよぉ」
「展示ってことは……渡辺さん、これ自分で作ったの?」
「そうよ~」
そうよ~って……こんな立派なドレスを手作りなんて……
「なべ子は、昔からこういうの得意なの」
いつの間にか後ろに立っていた真衣が、そう答えた。
「おはよう真衣」
「おはようアリス。でも、こんな立派なのは初めて見るかも」
「夏休みの間ずっとこれにかかりっきりだったもの~」
そう言えば、夏休みに学校来た時、作業してる渡辺さんを見たっけ。
「すごいね渡辺さん」
「うふふ~褒めてくれるなら、モデルの仕事、引き受けてもらえないかしら?」
「モデル? 放課後することってまさか」
「あぁ、気持ちがはやってつい~言ってしまったわ~。この衣装は、文化祭の日に展示して、希望者にその場で着てもらうことになってるんだけど、その時に一例としてこのドレスを着た状態の写真が欲しいのよぉ」
「あぁ、なるほどね。でもモデルなら……」
「と~ってもかわいいアリスちゃんがモデルなら家庭科部のお客さんも大喜びだと思うの!」
喜ぶのは渡辺さんだけなんじゃ……
「えっと……私じゃなくても、真衣とかでも……」
ちらっと真衣の方を見る。
「こんな純白のドレスは、私には似合わないわ。アリスの方がよっぽど似合うわよ」
「……」
正直なところ、真衣の意見と同意見なのよね……。
「まぁ着るだけだし……」
「ほんと!? 着てくれるのね!?」
「う、うん……」
「やったわ~絶対アリスちゃんには似合うって思ってたのよ~。金髪に真っ白なドレスは、お姫様の鉄板だものね」
お姫様のドレスか……。
「あれ?」
小さいころ、お父さんに買ってもらったあのドレス……確か……
「どうしたのアリスちゃん?」
「あっ、いや、私も子供のころは、こういうドレスに憧れてたなって」
「うふふ、女の子はみんな、一度はお姫様に憧れるものよね~」
「お姫様か」
真衣は、小さく呟く
「真衣は、憧れたことなんてないんじゃない?」
「どうだったかしらね。私は、過去の事は気にしない女だから」
過去って……子供のころの夢見話じゃない。
「真衣ちゃん……」
え、なんで渡辺さんはちょっと深刻そうなの。
「あ、委員長だ。おはよう」
真衣は、教室に入ってきた夏美に気づいて挨拶をした。
「あ、おはよう」
夏美は、いつもよりも元気がなさそうに見えた。
「おはよう。夏美」
「あ、アリスちゃん……」
夏美は私をみるなり、青汁を100杯飲んだかのような顔になっていく。
「えっと……昨日は……」
「おはよう夏美」
亮太も夏美に気づいて挨拶をする。
「りょ、亮太君……」
夏美はますます青汁を飲み続けた人のような顔になった。
「どうした夏美?」
「き、昨日二人とも……私の父さんに……」
「あ、そうそう。会ったんだよ。夏美のお父上……」
「なんて聞かれたの!?」
夏美は亮太の両肩をしっかりとつかむ。
「ぐぇっ……」
「父さんに変な事言われなかった? 私の事なんて言ってたの?」
夏美はグワングワンと亮太の肩を揺らす。
言っておくけど、夏美と亮太の身長差は20センチ以上ある(もちろん亮太が下)。
「な、なにも……言われて……ない……よ」
亮太はグロッキーになりながら振り絞るように答えた。
「ほんとう? なにも言ってないのね?」
ガクガクと亮太は首を振る(昨日も見たぞ……)。
「それならいいんだけど……ってそうだわ!」
夏美は再び亮太の体を揺らしながら
「亮太君、本当に将来警察になりたいの? ねぇ本当なの?」
「……」
「夏美……落ち着いて」
「アリスちゃんも父さんに何も変な事言われてない!?」
「ひゃぃ! 言われてません! 言われてませんからぁ!」
私たちに詰め寄る夏美の姿は、昨日見た海斗さんの姿とそっくりだった。
「夏美……俺は確かに警察になりたいんだ」
「亮太君……」
「どうして、夏美は、そのことが気にかかるんだ?」
「警察は……危ないから」
「俺を心配してくれてるのか?」
「……そう、そうだよ」
「本当にそれだけ?」
「……」
その時、チャイムが鳴り、同時に先生が入ってきた。
この時、夏美はそれ以上答えなかった。
10月中には文化祭編を終わらせるぞ。オー




