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神様のご近所付き合い。  作者: 花澤文化
近所の神社の神様達。
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第8話 神様のお願い。

「やあやあ、これはさびれ神の北稲荷神に・・・東奥女神。俺に何か用なのかい?それともなにかい、もしかして2人揃って俺の南千枝神社に弟子入りに来たとか?だとすると東奥女神社が心配だなあ。あそこは人気だから。しかし北稲荷神社は心配しなくてもいい。さびれているから?だって?違う違う。そもそも俺は君が頼み込んでも弟子入りなんかさせてやらない。それ以前の問題なのだよ」

 笑顔でひとしきりしゃべり倒す南千枝神。

 本当に僕の悪口を言うときは生き生きとしている。しかし僕が殊勝な態度にでると途端につまらなさそうに帰っていくのである。じゃあどうすればいいのか。殊勝な態度をとってもダメ、ここでつっかかってもダメ。

 ただ、今回南千枝神は帰ることができない。なぜならばここが南千枝神社だから。大きさも東奥女神社ほどではないが申し分なく、一番新しい。歴史があるというのは古いということで決していいように働くだけではない。そういうときはこの神社に人が集まるのだ。

「申し訳ないけどそれは違うわ。私はあなたに用はないから」

「・・・・・」

 相変わらずずばっと切り裂くような言葉である。南千枝神泣きそうだし。

「と、ということはなにかな。もしかして用があるのは君の方なのかい、北稲荷神」

「そうです」

「ほう・・・それでわざわざ自分の神社を抜けて来てまでここに来た理由とは何なのかな。いや・・・待て。そもそも君はなぜここにいることができる。神社には必ず神を1人配置しなければならない。弟子のいない君がここに来れるはずがないのだが・・・東奥女神から弟子を借りているのか?」

「・・・・・違います」

「成程。それ以上は言わなくてもいい。その目を見ればなんとなくわかる。というか気付いたのだろう、先代北稲荷神の言わんとすることに」

 僕は静かにうなずく。

「すでにこの話は先代から聞いている。お前のような間抜けには一生気付かないものかと思ったが存外そうでもないらしい。弟子たちはいますぐにお前のところに戻ってもいいと言っている」

「でも・・・」

「そうだ、俺が許さない」

 そこもまた確固たる意志を感じた。

「お前の神社の願い事のことなど、この南千枝は知らん。何やら参拝客には神様の近所付き合いだかとか言われているこの場所だが、他の神社のことなどどうでもいい。お前のところに弟子を返すということは俺のところから弟子がいなくなるということだ。お前に得はあるだろうが俺には損しかない」

 そもそもその弟子は師匠から借りたみたいなものなのだろう。しかし南千枝神の性格から単純に返してくれるとは限らない。そんなこと師匠にも分かっていたはずだ。だからこそあえてこいつに弟子を渡したのだ。

 なんたるひねくれた考え。師匠らしい。

「ではあなたに得があればいい、とのことでしょうか」

「そう捉えてもらって構わない」

 にやりと笑った。

「その得、とはなんなのでしょうか。僕に出来る範囲のことならばなんでもしますが」

「北稲荷神、そんな安請け合いしたら・・・」

 東奥女神が僕をとめる。

「いいんです、これは僕の問題ですから。僕が全て責任を負わなければならないんです」

「否定はしないわ。神様なんてそんなものだから」

 責任を自然と負わされる立場。

 人々が僕たちの存在を知っているのか知らないのかは分からないが、僕たちに何かを願う時、その願いが叶わなかったらその責任は僕たちが負うことになる。

 責任を負うといっても特に何かあるわけじゃない。その人の願いは叶わなかったというのをただ事実として受け止め続けるだけだ。それが僕にとっては辛かったのだけれど。

 ただ、人々はきっとそのことは覚えていなかったり、所詮願い事だから、と軽く受け止めている。ほとんどの神様も所詮願い事だから、と軽く受け止めていたりするからどっこいではあるんだけど。

「それであなたに僕は何をすればいいんですか」

「簡単だよ、北稲荷神。俺に東奥女神を渡せばいいんだ」

 という返答に、

「・・・・・は?」

 そう言ったのは僕ではなく、東奥女神だった。

「な、どういうことよ。南千枝神」

「そのまんまだよ、俺は君のことが好きだ。だから君が欲しいんだ」

 真面目な顔をしている。

 僕はそれだけでこのことが冗談なんかではなく本気なのだと悟った。これでも一応僕たちは幼馴染的存在である。小さいころから一緒なのだ、このぐらいのことは分かる。

「こんなときにふざけるのはやめてくれないかしら。私たちは一応本気なの。いや、本気なのは北稲荷神だけど。付き合わされている私の身からすれば迷惑だわ」

 迷惑も何も、楽しそうについてきたじゃないか。

「冗談なんかじゃない。昔から一緒にいたんだ、分かるだろそれぐらい」

「・・・・・」

 僕が彼と幼馴染ならば、彼女もまた彼と幼馴染なのだ。

 だから本気だというのは東奥女神にも伝わっているはずだ。

「南千枝神、彼女は僕と付き合っているわけでもありません。好きならば、僕には関係ないので勝手にアタックしたらどうですか?」

「ああ、そうだ。確かに君には関係ない。でも俺が普通にアタックしたらふられていただろう。それをなんとかしてほしいのだ」

 いつの間にか恋愛相談に変わっていないかい、これは。

 しかも本人のいる前で。

「悪いですけれど、僕に出来る事ならばなんでもやります。これは明らかに僕の出来る範囲外です。問題は彼女の気持ちですから、僕にはどうしようもない」

「なぜ分かる」

 その返答の意味が分かりかねて首をひねる。

「なぜ、君にはできないと分かるのだ。やってもいないのに」

「そんなの・・・」

 明らかにどうしようもないじゃないか。

 それにまだ隠れてやっていたなら分かるが、こうも堂々と本人の目の前で相談されたらなおさらどうしようもない。やっていなくともそんな事は分かる。僕がどんなに説得しても東奥女神は南千枝神のことを好きにならない。

「それともなにかな、君はもしかして俺に東奥女神をとられることが気に食わないのかい?君も好きだから嫌なのかい?だから確かめもせず何もせず俺にあきらめろと言うのかな」

「そんなことはありません」

 確かに幼馴染の友達、仲良し3人組という関係が変わってしまうのは若干寂しいと今の僕は思ってしまっている。でも付き合って欲しくないわけじゃない。それを含めて僕には関係のないことなのだ。

「敬語を使うのをやめろよ。そうやって自ら下に追いやって自分はこれでいいと思いたいだけなのだろう」

 自分の今の状況を認めたくないからこその自虐。

 別にそういうわけじゃない、とまた言ってやればよかったのだけれど、僕の口はその意思に反して全く動かなかった。図星、なのだろうか。自分でもよく分からない。

 しかしどうやら隣にいた東奥女神は何か分かったようで、南千枝神の質問に小さく「なるほど・・・」とつぶやいていた。そのときの顔といったらいたずらでもしようかとにやにやしているような顔であまりいい気はしなかったが。

「北稲荷神」

 案の定、東奥女神は僕に話しかけてくる。この状況でさらに僕を追い詰めるつもりか。

「私が南千枝神と付き合うかどうか、あなたに決めてほしいの」

 そう、言ったのだった。

「何を・・・」

「そのまんまの意味よ。あなたに決めてほしいと言っているの。私でも決められないこと、ここはあなたに決めてほしいというただの責任転嫁。それだけよ」

 それってつまり結局は僕を困らせたいだけなのではないだろうか。

「いいんですか。僕は弟子欲しさにあなたを送り込めばあなたは南千枝神と付き合うことになるんですよ」

 よくよく考えてみればこのセリフも南千枝神にとっては悪口に近いものではあったのだが、南千枝神はひたすらだんまりだった。何を見ているのか、何を目指しているのか、分からない。

「それならそれでしょうがないわ。私は甘んじてあいつとのわけわからない交際を認めることにしましょう」

 東奥女神のこのセリフにはさすがの南千枝神もがっくりと項垂れてしまった。直球すぎるんだよ、相変わらず。

「まあ、よく分かりませんが」

 僕もそれに合わせて言葉を紡ぐ。

「東奥女神はあなたに渡せません。僕が決める事ではないですから」

「だからそれはあなたに任せると・・・」

 と東奥女神が僕に何かを言おうとする前に、先ほど思いついたことをただ述べる。

「それとまだ何でもできると言ってできないことがありました」

 怒られるだろうな、と思っていった発言だったが、それを聞いて東奥女神驚き、南千枝神はにやりと笑った。

 そして、

「それはなんだ?」

 と先を促すようなことまで言ってきた。なぜそんなに南千枝神が乗り気なのかは分からないが、とりあえず、先ほど思いついたことをよく考える。

「北稲荷神社の神の座です。それだけは渡せません。僕の命ならばこのことが終ったあとにでも差し上げられますが、その命よりも大事なものなんです」

「そうか・・・それでも北稲荷神社の神の座が欲しいと言ったら・・・?」

「その時は、僕があなたをとめる事になるでしょう」

 僕は南千枝神の方を見る。

 予想に反してしかし南千枝神は笑っていた。今、何も面白い事を言った覚えはないんだけれど。

「ふむ、いいだろう。弟子を連れて行け」

 と、言ったのだった。

 その言葉に僕は驚いたが、東奥女神は当然とばかりににやりと笑った。

「ど、どうして・・・」

「連れて行けと言っている。俺の気が変わってしまったらどうする?」

「いくわよ、北稲荷神」

 東奥女神がなぜか僕の弟子を引き連れて、僕の手を引く。その光景に一瞬昔の面影を感じた。こうしてみんなを引っ張る役目は僕なんかではなく、東奥女神だったのだ。

 だから神社の神様に東奥女神は向いている。それは昔から僕が思っていたことだ。

 南千枝神社から飛び、元の北稲荷へと飛ぶ。

「しかしどうして南千枝神は急に弟子たちを返してくれたんでしょうね」

「あなたにはこれしきのことが分からないの?いや、本能的にやってのけた、ということならばそれでいいのかしら。南千枝神はあなたに昔のように戻って欲しかったのよ」

「昔のように・・・」

「昔はよくみんなで遊んで、そして気に入らない事があったら毎日のようにケンカしてた。でも最近のあなたは自分のことをどこかあきらめていて、張り合いがないのよ」

「いや・・・」

 そんなことを言われても。

 とてつもなく有名な神社の神様と、僕のようにさびれた神社の神様じゃ何もかもが違うじゃないか。それでいつものようにふるまえと言われても到底無理な話だ。

「だから私を使ってあいつはあなたを昔のように戻そうとしたの」

 でも、と区切る。

「結果的に昔のあなたに戻したのは私ではなく、神社の方だったけどね」

 あなたを縛っていた神社が結果的にあなたを元に戻すきっかけとなった、そういう東奥女神はどこか嬉しそうであった。昔の僕・・・。もうあまり覚えていないけれど。

「でもまだまだあなたは今のあなたに近い。だからこそ弟子をたくさん集めて、神社と一緒にあなたも元に戻す。次は・・・」

「はい、次は」

 西大和神社。

 そこの弟子を連れ返せれば・・・僕の神社は。あの子の願いは。

 ただ・・・

「不安ね」

「不安ですね」

 西大和神社、一筋縄じゃいかないに違いない。

 東奥女神や、南千枝神とは違い、幼馴染ではないし。どこに突破口があるのかも分からない。そう思いつつももう時間はない。急いで僕らは西大和神社にむかっていった。

 

だいぶ間があいてしまいましたが、8話目です。

おそらく、10話ぐらいで終わるんじゃないかな、と毎回ですがそう思っています。


ではまた次回。

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