第7話 神様の命令。
願いというものはとても儚いものであると思う。
特に、こうして神様をしていると尚更そう思うのだ。叶うことなどまず稀で、叶うものはほんの一握り。それに神様が関与することは禁止されて、祈ることしかできずに消えていく。
すでに願いという物は不平等であり、それに僕らが力を加えて平等にするのがいいと考えていたのだが、どうやらそれはしてはいけないことらしい。
ならば、平等にするまで。平等にみんなを幸せにすればいい。
「東奥女神」
「わざわざ呼び出してなに?まぁ、バカ神のあんたはこの神社から出れないのは分ってるけどさ」
「あなたに用があります」
「?」
東奥女神を僕は北稲荷神社へと呼び出した。
東奥女神は何1つわからないというような顔で僕を見ている。当然だ。僕が今さっき思いついたことであり、東奥女神に伝えるのが初めてなのだから。
「僕の神社に願い事が来ました」
「・・・・・それで?」
「だから僕はこの神社を潰すわけにはいかなくなった」
しょうがない、で済まされることではない、と僕は思ったのだ。僕には誰かを救いあげ、誰かを落とすなんてことはできない。
だから、この北稲荷神社を再興することによってその願いを叶える。願い事がたくさん来れば、神の力が高まる。ならば全ての人間を幸せにするほどの力をためるために、ここを再び人気の神社へと戻す。
東奥女神社の人気でさえ成し遂げられないことだけれど、僕は諦めない。やっと自分で満足のいく答えが見つかったのだ。
北稲荷神社を一度潰してから人気の神社へ入り込むという手段はない。ここを潰してしまったらあの女の子の願いは消えてしまうから。あの願いは北稲荷神に向けられたものなのだ。潰れてしまっては意味がない。
しかしこの神社を再興するためには弟子が必要だ。この人気のない神社に弟子が来るなどまずないだろう。だから僕がやることは1つ。
「東奥女神、東奥女神社に行った元北稲荷神社の弟子を僕に返してください」
それしかない。
師匠の代にいたたくさんの弟子を戻すこと。それが僕にできることであった。
「・・・・・だめね。もうすでに東奥女神社の弟子となっているの。あなたの弟子ではないわ」
「それをなかったことにして返してほしいと言っているのです」
「・・・・・」
東奥女神は少し黙って。
「東奥女神社は『自由』な神社。弟子たちの動向を縛るようなことは一切ないわ。元あんたのところの弟子があんたのところに戻りたいというのなら止めはしないわ」
そうそっけなく言いつつも顔はどこか嬉しそうであった。
僕はこの北稲荷神社から出れない。だから東奥女神はわざわざ自分の神社から弟子を1人北稲荷神社に留守番として置いてくれた。
僕は久々に、本当に久々に東奥女神社へと行くのであった。
しばらくすると目の前に大きな鳥居が見える。それなりの歴史と、四大神社の中でも最高の大きさを誇る東奥女神社。実際に見てみるとその大きさに気おされてしまう。
「・・・・・」
僕は緊張しつつも、中に入り、あたりを見渡す。
今日も人はたくさん来ており、僕のところの神社とは大違いだ。
「こっちよ」
案内された場所はひと際大きな社。その前にもまた鳥居があり、ただならぬ気配を発している。
来なさい、と東奥女神が手をたたいた後、すぐさま、たくさんの弟子たちが現れた。10、20・・・100人近いそれは僕が昔見た、昔の北稲荷の光景を酷似している。
「ここにいる108人の弟子たち。この子たちがあなたの北稲荷神社にいた元弟子たちよ」
ここにいる全員が師匠の弟子。
あの時は全く思わなかったが、自分が神社の神になって分かる。この人数を使役する大変さを。100人というプレッシャーを。師匠はこんなに大きなものを背負っていたのか。
「もちろん、あなたのところの弟子はこれで終わりじゃないわ。東西南、その3つに分かれているの」
「え・・・」
これで全員じゃない・・・?
「当たり前でしょう。あなたは恥だと思っているかもしれないけれど、大きさは小さめとはいえ、最大の歴史を持つ四大神社の1つ、北稲荷神社よ。弟子の数なんてこんなものではないわ」
「・・・・・」
自分がふざけていたときには分からなかった感触。この感じ。
「僕は・・・」
僕はこの何倍もの弟子を集めなければならないのか。
それは確かに途方もないようなことではあるな。それに何より、一番問題なのは東奥女神から弟子を返してもらっても、まだ南と西に元弟子がいるということ。
ということは南千枝神にも、西大和神にも頼まなければならないということだ。今更頭を下げるぐらいなんとも思わないが、それで向こうが言うことを聞いてくれるだろうか。
「さ、では戻りなさい、あなたたち」
「へ?」
しかし僕の心配はなんだったのかというほどあっさりと東奥女神は僕に弟子を返してくれたのだった。弟子たちもその命令にあっさりと従い、僕のまわりに集まる。
「北稲荷神」
弟子の1人が僕を見る。
怒鳴られても殴られても文句は言えない。なぜなら僕はあの神社を潰すつもりだったから。
そう考えていたのに、弟子たちは片膝ついて、全員頭を下げた。
「申し訳ありません」
と全員で声をそろえて言ったのであった。
「あなたのもとを離れろという命令に従ったのです。そう、先代北稲荷神の命令に。先代はいつかあなたが迎えに来るまで決して戻ってはいけない、と。そして私たちは北稲荷神ではなく、もうすでに何の力もない先代の言うことをきいたのです。どんな罰でも受けます」
そう長く、はやくまくしたてた。
「い、いや、待ってください。何を言っているのか・・・というか師匠・・・?」
「はい、先代がいずれあなたが大事なことに気付く。そこに気付いたときにお前たちを迎えに来てくれるだろう、だからそれまでは他の四大神社にいけ、と」
「・・・・・」
どうやら僕はすでに師匠の手のひらの上だったわけだ。
本当に抜け目のないジジイである。
「でも僕なんかに頭を下げていいんですか。自分で言うのもなんですが、僕は弟子時代からふざけて遊び呆けていました。あなたたちが一生懸命師匠と鍛錬している中、僕は何もしてこなかった。本当は怒りでどうにかなりそうなぐらい僕を憎んでいるのではありませんか?」
「北稲荷神、僭越ながら言わせてもらいます」
そこで一度区切り、
「私たちは神です。そしていずれはこの北稲荷神社の神様になることを目指して頑張っています。私たちが尊敬しているのはあなたでも先代でもなく、この神社なのです」
そう、そうだった、忘れていた。
神、とは全員平等なのだ。だから格差が付くとすればそれは立ち場だけ。この弟子たちが敬語を使っているのは僕、ではなく、北稲荷神なのだ。
冷たくて、残酷なように思えるかもしれないが、神とはこういうものである。
「しかしそれでもあなたではなく、先代の命令をきいたということは心のどこかであなたよりも先代の方を尊敬していたのかもしれません」
すごくオブラートに包んで言ってくれているが、実際弟子のみんなは先代のことをこの神社と同じぐらい尊敬していたのだろう。そうでなければものすごい人数の神を従えることなどできやしない。
「はっきり言ってもいいですよ、自分でも分かっています。自分がどれほどの神なのか。先代には遠く及ばないぐらい分かっているのです。しかし」
今度は僕が深々と頭を下げた。
「しかし、守らねばならぬ願いができました。叶えたい夢ができました。僕は最低の神だけど、みんなに慕われるような人格の持ち主ではないけれど、この神社の神としてやらなければならないことができました」
そして次は頭を上げ、弟子たちを見る。
「あなたたちは今、東奥女神の弟子ではなくなっています。行けという命令を聞いて僕の弟子になりました。すなわち、あなたたちは僕の命令に従わなければなりません」
弟子たちも同じように強い視線を向けてくる。
「僕はこの神社の神としてやらなければならないことをするつもりです。それにはあなたたちの協力が不可欠なのです。あなたたちが拒否しようが、僕のことを嫌いだろうが関係ない。僕は命令で無理矢理あなたたちを従えるでしょう。そんな最低な神ですが、僕は・・・僕は北稲荷神なのです」
だから・・・。
「だからあなたたちを僕は弟子として認め、働いてもらいます。あなたたちのことが好きだからとか、そういうことではなく・・・ただ単純に僕の願いの、夢のために使役するのです。嫌ならば、今すぐ別の神社へと弟子入りしてください」
僕はそう強く言った。
東奥女神は「相変わらず・・・」と少し呆れたように空を見上げる。しょうがないだろう、僕は北稲荷神になっても僕なのだ。みんなと和解してわいわいやれるような神ではない。
だから無理矢理でもいい。それでもいいから僕は守りたいものがある。
しばらく待てど、帰るものは誰もいない。それだけこの北稲荷神社のことを大きく思っているのだろう。本当、僕にはもったいないぐらいの弟子だ。
まずは神社を潰さないように、弟子集め。その第一段階が終了した。
「では今からすぐに北稲荷神社へと戻ってください。僕はこのまま弟子集めを続けます。どうか、北稲荷神社をよろしくお願いします」
「はい」
そう言うと弟子たちはすぐに北稲荷神社へと戻って行った。これで今、北稲荷神社にいる東奥女神社の弟子も帰ってくるだろう。
僕は東奥女神にお礼を言おうと振り向くと、とても悲しそうな顔をしていた。
「悲しいわよね、分かってはいる。弟子のみんなが私などではなく、この東奥女神社を見ていることぐらい。けれどどうしても悲しい。慕ってほしいとかそういうのではなく、せめて『平等』に扱ってほしいものだわ」
そうつぶやいた。
「神社の神は・・・神社そのものとして扱われることが多い。私がどんなに願おうと彼ら、彼女らは私自身を見てくれることなんてないのよ」
「そうかもしれません。しかし神社の神としてはそれが正解だと思いますよ」
「そう・・・ならいいわ」
そう言って笑うのであった。
これでなんとか100ちょいの弟子を取り戻すことに成功したわけではあるが、次は南か西のどちらか。あまり考えたくはないが、嫌な予感がとてつもなくするのであった。
もう大分終盤になりました。他のお話の息抜きのように書いていたお話ではありますが、書いていて面白いです。
これが完結した時は新しいお話を書くのではなく、恐らくしばらくは他のお話の続きを書いていくことになると思います。
ではまた次回。




