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### 【資料26】エルム冒険者ギルド・依頼受注記録
王国暦758年4月5日/依頼番号:F-042
依頼主:エルム商業組合
依頼名: 北部街道における魔物襲撃の原因調査
依頼ランク: F
依頼内容: 荷馬車襲撃事件の発生地点、魔物の種類、移動経路を特定する。
報酬: 銀貨一枚
推奨人数: 三名以上
受注者: アレン・ヴァルハイト
受付担当者所見: 戦闘経験の乏しい新人による単独受注。危険性について説明済み。
本依頼は、エルムの町と王都を結ぶ北部街道で発生していた襲撃事件を受けて発行されたものである。
被害に遭った荷馬車は、確認されているだけで六台。商人二名が負傷し、積み荷の一部が失われていた。
当初、ギルドはゴブリンの群れによる襲撃と判断していた。
しかし、討伐隊が周辺の森を捜索しても巣穴は発見できず、襲撃は断続的に続いていた。
依頼の主目的は、魔物を討伐することではなく、襲撃の原因を特定することだった。
この点について、後世の調査委員会は重要な指摘をしている。
アレンは依頼を受ける以前から、北部森林の地形と魔物の移動について記録していた。
つまり、彼は依頼書が掲示される前に、調査に必要な情報の一部をすでに収集していたのである。
### 【資料27】エルム商業組合・被害状況一覧
王国暦758年3月〜4月/調査対象期間:三十日間
| 発生日 | 被害内容 | 現場の特徴 |
| ----- | -------- | --------- |
| 3月8日 | 食料品の一部消失 | 森の入口付近 |
| 3月12日 | 荷馬車の車輪破損 | 北部街道の曲がり角 |
| 3月17日 | 積み荷の消失 | 古い石橋の近く |
| 3月23日 | 護衛二名が負傷 | 北東側の分岐路 |
| 3月28日 | 穀物袋の消失 | 石造物への分岐付近 |
| 4月2日 | 荷馬車の横転 | 森の北東部 |
当時の調査報告では、これらの事件は個別に処理されていた。
襲撃地点が離れていたこと、被害の内容が異なっていたこと、目撃された魔物の数にばらつきがあったことが理由である。
しかし、アレンが作成した地図では、各事件の位置が一枚の図面上に記されていた。
その地図を確認した商業組合の調査担当者は、後に次のように証言している。
「事件の場所を線で結ぶと、妙な形になっていたのです。街道を無作為に移動しているようには見えませんでした」
この地図は、後に「北部街道事件の原図」として王立歴史院に収蔵されることになる。
### 【資料28】アレン・ヴァルハイト作成・襲撃地点分析図
作成日不詳/現存する複製資料より復元
図面に記された注釈の転記
観察事項一
襲撃地点は街道全体に分散しているが、特定の分岐路に近い地点で発生頻度が高い。
観察事項二
荷馬車の破損状況には共通点がある。車輪や積み荷の固定具に損傷が集中している。
観察事項三
襲撃後に残された足跡は、街道から森へ向かうものだけではない。森から街道へ出て、再び別の方向へ戻る痕跡がある。
仮説
魔物は街道を移動する荷馬車を追跡しているのではなく、特定の地点を通過する荷馬車を待ち伏せしている可能性がある。
追加調査
荷馬車の通行時刻と、襲撃発生時刻の比較が必要。
この分析図には、襲撃事件が起きた時刻と、商人が街道を通過した時刻を比較した表も添付されていた。
その結果、襲撃の多くは、荷馬車が北部街道の特定の区間に到達する時間帯に集中していたことが判明した。
この発見だけでも、従来の調査方針を見直すには十分だった。
しかし、アレンはさらに一歩踏み込んでいた。
襲撃現場の近くには、かつて鉱石を採掘していた廃坑が存在していたのである。
廃坑の存在自体は、町の古い地図にも記されていた。
ただし、入口が土砂で塞がれていたため、数十年前に閉鎖されたものと認識されていた。
アレンは、足跡の分布と地形の特徴から、魔物が廃坑の周辺を移動経路として利用している可能性を指摘した。
### 【資料29】冒険者ギルド・現地確認報告書
王国暦758年4月7日/調査担当:エルム支部調査班
調査対象: 北部街道沿いの旧採掘坑
調査目的: 魔物の移動経路の確認
現地状況: 入口付近に新しい足跡を確認
内部調査: 未実施
判定: 魔物の潜伏場所である可能性あり
追加対応: 討伐班の派遣を要請
ギルド調査班は、アレンの提出した地図をもとに現地を確認した。
そこで、長期間使用されていないと考えられていた廃坑の周辺に、新しい足跡が残されていることを確認した。
さらに、入口を塞いでいた土砂の一部が、内側から崩されたような状態になっていた。
調査班は、内部に魔物が潜んでいる可能性が高いと判断した。
ただし、この段階ではゴブリンの巣穴であるという確証はなかった。
ギルドは討伐班を編成する一方、依頼を受注したアレンに対して、現場への接近を控えるよう通達した。
ところが、通達を発行する前に、アレンから追加資料が提出されていた。
その内容は、討伐班の計画に大きな影響を与えることになる。
### 【資料30】追加提出資料・旧採掘坑の構造推定図
提出日:王国暦758年4月8日
アレンの追加資料には、旧採掘坑の推定構造図が含まれていた。
図面の作成にあたり、本人が坑内に立ち入った形跡は確認されていない。
使用された情報は、古い鉱山台帳、地表の沈下状況、周辺に露出していた岩盤の層、そして廃坑入口付近の通気状況である。
図面添付の注釈
推定される構造
- 主坑道は北東方向へ伸びている。
- 古い採掘記録に記載された第二坑道が、主坑道と接続している可能性がある。
- 入口付近の空気の流れから、内部に別の開口部が存在する可能性が高い。
- 魔物が出入りしているとすれば、街道側の入口よりも北東側の開口部を使用している可能性がある。
調査上の注意
主坑道だけを封鎖しても、北東側の開口部が残れば、魔物の移動を止めることはできない。
この資料を受け取ったギルド調査担当者は、古い鉱山台帳との照合を実施した。
その結果、アレンが指摘した第二坑道と北東側の開口部は、過去の採掘記録に実際に存在していたことが確認された。
これにより、討伐班は廃坑の入口だけを監視する計画を変更した。
北東側の開口部を含めた包囲計画が新たに立案されたのである。
なお、アレンがどのような方法で通気状況を判断したのかについて、当時の調査報告書には具体的な説明がない。
### 【資料31】旧採掘坑・討伐作戦記録
王国暦758年4月10日/エルム冒険者ギルド
作戦名: 北部街道襲撃事件・原因除去作戦
参加人数: 冒険者六名
作戦目的: 魔物の巣穴の特定および被害の再発防止
作戦結果: ゴブリンの群れを確認。巣穴の位置を特定。
確認事項:
一、ゴブリンは旧採掘坑の第二坑道を利用していた。
二、北東側の開口部から街道周辺へ移動していた。
三、従来の巡回経路では、当該開口部を発見することが困難だった。
被害状況: 討伐班に重大な負傷者なし。
討伐班は、アレンの推定図に基づいて旧採掘坑の周辺を捜索した。
その結果、北東側の開口部を発見。内部に潜んでいたゴブリンの群れを確認した。
記録によれば、ゴブリンたちは廃坑を通じて街道へ移動し、通行する荷馬車を襲撃していた。
巣穴の位置が特定されたことで、ギルドは効果的な討伐計画を立てることができた。
この事件は、エルム支部において、調査資料の活用が討伐の成功につながった初期の事例として記録されている。
ただし、討伐そのものを実行したのはギルドが編成した六名の冒険者であり、アレンが直接戦闘に参加した記録はない。
そのため、彼の冒険者ランクは依然としてGのままだった。
一方、依頼主である商業組合は、調査への貢献を理由に追加報酬を支払うことを決定した。
### 【資料32】エルム商業組合・追加報酬支払記録
王国暦758年4月12日
受取人: アレン・ヴァルハイト
当初報酬: 銀貨一枚
追加報酬: 銀貨二枚
支払理由: 魔物の移動経路の特定および巣穴発見への貢献
備考: 戦闘への直接参加はなし。
この記録により、アレンは冒険者として初めて銀貨単位の報酬を得た。
しかし、彼がこの報酬をどのように使ったかについて、商業組合の記録は存在しない。
その代わり、翌日の中古品商の帳簿に、興味深い取引が記されている。
### 【資料33】中古品商・魔道具購入記録
王国暦758年4月13日/取引番号:E-247
購入者: アレン・ヴァルハイト
購入品目:
- 破損した魔力伝達器:一個
- 旧式の魔力測定器:一台
- 使用不能と判定された魔石:六個
- 魔道具用の金属部品:一袋
合計金額: 銀貨二枚と銅貨三十枚
商人の追記: 前回と同様、故障品ばかりを購入。使用目的について説明なし。
追加報酬を受け取った翌日、アレンは再び故障した魔道具を購入していた。
生活費に回すこともできた資金の大半が、研究用と思われる品物に使われていたのである。
この時期、アレンの活動に関する記録は、冒険者ギルドだけでなく、商業組合や中古品商の帳簿にも散見されるようになる。
その理由は、彼が冒険者としての仕事を終えた後も、魔道具の修理や解析を続けていたからだと考えられている。
### 【資料34】エルム町・魔道具修理依頼台帳
王国暦758年4月〜5月/抜粋
| 依頼者 | 対象物 | 従来の修理見積額 | 修理結果 |
| ------- | -------- | -------- | -------- |
| エドガー・ミル | 客室照明 | 銀貨二枚 | 点灯回復 |
| 食料品商 | 保冷箱 | 銀貨五枚 | 冷却機能回復 |
| 馬具職人 | 荷馬車用補助装置 | 銀貨三枚 | 作動回復 |
| 雑貨商 | 店舗用照明 | 銀貨一枚 | 点灯回復 |
| 町医者 | 薬品保管箱 | 銀貨四枚 | 温度維持機能回復 |
この台帳に記載された修理の多くは、正式な職人登録を持たないアレンによって行われたと考えられている。
注目すべきは、修理対象が多岐にわたっている点である。
照明、保冷箱、運搬補助装置、薬品保管箱。
通常、これらは異なる専門知識を必要とする魔道具だった。
しかし、アレンはそれぞれの製品に共通する構造上の問題を見つけ、修理を行っていた可能性がある。
この台帳の余白には、複数の依頼者が似た内容の注釈を残している。
「魔石を交換せずに直った」
当時の修理業界では、魔石の交換が一般的な修理方法だった。
それを必要としない修理は、費用を大幅に抑えることができた。
アレンの技術は、まだ広く知られてはいなかった。
しかし、彼が修理した魔道具を使用した人々の間では、少しずつ評判が広がっていた。
### 【資料35】エルム職人組合・苦情申立書
王国暦758年5月2日/申立人:魔道具修理職人組合員七名
申立事項: 無登録者による魔道具修理営業について
主な主張:
一、正式な職人資格を持たない者が、魔道具の修理を行っている。
二、修理料金が市場相場を大幅に下回っている。
三、修理工程が不明であり、安全性を確認できない。
四、当該人物の活動により、正規の修理業者が不利益を受けている。
要求事項: 当該人物の修理活動について調査し、必要に応じて制限を設けること。
アレンの修理技術が評判になる一方、既存の職人たちからは反発も起きていた。
この苦情申立書は、彼が単に魔道具を直すだけでなく、町の商業構造にも影響を与え始めていたことを示している。
当時、魔道具の修理は専門技術であり、一定の資格や経験を持つ職人に依頼することが一般的だった。
修理料金には部品代だけでなく、技術料や検査費用も含まれていた。
アレンは、その料金体系に従わず、故障の原因を特定して必要な部分だけを修理していたと考えられる。
この方法が広まれば、従来の修理業者の収益に影響が出るのは避けられなかった。
しかし、職人組合の調査では、彼が不正な部品を使用したり、依頼者を欺いたりした証拠は見つからなかった。
最終的に、組合は正式な営業許可が必要な大規模修理についてのみ規則を適用し、個人の小規模な修理活動については、当面の間、制限を見送った。
## 【資料36】王立歴史院のメモワール
アレン・ヴァルハイトがエルムの町に滞在していた時期、彼の冒険者ランクは依然として低かった。
戦闘能力は未評価。
魔法の使用実績はなし。
正式な魔道具職人の資格もなし。
しかし、残された商業記録には、彼が複数の種類の魔道具を修理し、町の人々の生活に影響を与えていたことが示されている。
そして、北部街道の襲撃事件に関する資料は、彼が現場の観察と情報の整理によって、問題の原因を特定できる人物だったことを裏付けている。
彼は魔物の巣穴を発見したが、自ら討伐したわけではない。
修理技術を持っていたが、正式な職人として認められていたわけでもない。
つまり、この時点のアレンは、実績を積み始めてはいたものの、社会的な評価が追いついていない人物だった。
ところが、王国暦758年5月。
彼の活動を大きく変える出来事が起こる。
町の西側にある水車小屋で、長年使用されていた魔力駆動装置が突然停止したのである。
この装置は、周辺の農地へ水を供給するための重要な設備だった。
修理を依頼された職人たちは、魔石の交換を試みたものの、装置は動かなかった。
交換用の魔石を追加しても、結果は変わらなかった。
最終的に、町の管理人はアレンへ修理を依頼することになる。
修理依頼書には、通常の魔道具とは異なる一文が記されていた。
「装置の故障原因は不明。交換部品はすべて正常と確認済み」
この記録が、アレンの技術を巡る議論を新たな段階へ進めることになる。




