EPISODE:11 友人
「おや、あなた......ううん、ごめんなさい。私の勘違いね」
朔夜に声を掛けた老婦人は頭を振ると、そう謝罪し去っていった。
「どうしたんだ?」
怪訝そうに尋ねる夫に「女学生の頃の友人に似ていたの」と答え「もうとっくに私と同じおばあさんよね」と笑った。
「ルリ子さん......」
幾星霜の戦いの中、初めて出来た友人の名。
朔夜の呟きは雑踏の中に紛れていった。
「朔夜さん、今月の少女の友は読みましたか?」
ルリ子が興奮気味に声を掛けてきた。
「ルリ子さん、ごきげんよう」
朔夜の挨拶にルリ子も慌てて「ごきげんよう」と返した。
そうしてまた「読みましたか?」と尋ねた。
「いえ、私は......」
興味無いと続けるはずの機先を制すしたルリ子が、鞄から雑誌を取り出した。
「昨晩全て読みましたから、朔夜さんどうぞ」
ルリ子はそう言って、朔夜に押し付けるように渡した。
『少女の友 新連載 嵐の小夜曲』
雑誌の表紙には大きくそう書かれていた。
「横山先生、尊いですわ」
ルリ子は著者の名を口にすると、うっとりと遠い目をした。
きっと昨晩読んだ内容を反芻しているのだろう。
「牛になるわよ」
朔夜の言葉に「モー、ひどいわ」と、冗談とも抗議ともつかない返事をした。
大正から昭和に移り四年が過ぎた。
大正浪漫の香りを未だ残したまま、人々は昭和という活気に満ちた時代を迎えていた。
「と・こ・ろ・で」
ルリ子は朔夜の前に回り込むと、後ろ歩きでニヤニヤと笑った。
「あの殿方に想いを掛けていらっしゃるの?」
思いもよらなかった言葉に朔夜の瞳孔が開いた。
「瞳の色が変わりましたわ」
ルリ子はからかうように言うと「朔夜さんならどんな殿方でも思いのままでしょう」と続けた。
(人と関わり過ぎたのかしら?)
(それともこの娘の勘が......瞳の色?)
そこで朔夜はルリ子の観察眼鋭さに気付いた。
「Curiosity killed the catですわ」
鋭い視線でルリ子を見た。
「好奇心が、は、猫を殺した?」
驚いた顔で朔夜を見た。
「but satisfaction brought him back」
「でも......うーん、わかんないですわ。でもbutから始まってるからきっと悪い意味ではないわね」
(この娘はやはり鋭いな)
朔夜は頬を緩ませて口の端を上げた。




