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その49

その49

意識が戻った時、見上げていたのは天幕の天井だった。

後で聞いた話では、今回のスタンピードで相当数の死傷者が出て、カズのようにかすり傷程度で、体力売り切れのけが人は傷病施設には入り切れずに、大型のテントを張ってその中に転がされていたらしい。

「目が覚めた? 王都に行くよ!」

アズミの第一声がこれである。

「俺、まだ病人の気分なんだけど。」

カズがごねると、

「気のせい、気のせい。 根性で頑張る!」

ってそんなわけないだろ!

「はい、これ! C級のカード。」

とか言われて、新しく発行された冒険者カードをアズミから受け取ろうとしたが、妙に体がフワついて取り落としてしまう。

やっぱり今日は無理だ。

と、言うか、俺はこんなところに寝転んでいるけど、何がどうなってこうなったんだ?

まあ、俺がこんなところで寝ているからにはサイクロプスは討伐されたんだろうけど。

その辺の事をアズミに聞くと、

「ダゲールが唐辛子玉投げてえ、あたしが弓でピュンピュンでえ、応援に来た人たちが大剣でバコバコで終わり。」

話は簡潔にして分かりやすいのが是である。

だが、アズミの話は、多分簡潔ではあるが、全然わからん。

これは是ではない、多分。

色々聞いていったら、俺とゲルトが吹っ飛ばされた時にアズミたちが到着したらしい。声が聞こえたような気がしたのは、空耳ではなかったらしい。

アズミはダゲールを巻き込んで、アズミの残していた唐辛子玉をダゲールに投げてもらう。

矢を避けられる恐れが有ったので先に目潰しを狙ったと言う。しかし、目潰しには成功したものの、手で目を覆われてしまった。

「グギャー!!」

唐辛子粉を浴びて、目の激痛にサイクロプスは絶叫する。

その咆哮する口の中にアズミの矢が吸い込まれていく。

一瞬、新たな激痛に状況を把握できないサイクロプスは固まるが、開きっぱなしの口の中に矢は続けざまに射こまれて、

「グオオ、ゴゴゴガー!」

喉に、舌に、3本、5本、突き刺さった矢でサイクロプスはまともに悲鳴も上げられない。

たまらず手を口元に下げた瞬間、今度は最大の弱点である大目玉に矢が刺さる。

3本、うち2本は脳まで届いていたにもかかわらず、サイクロプスは絶命はしなかったと言う。

ただ、もはやまともに動くこともできず、第1、第2ゲートから駆け付けた来たA級、B級の冒険者達の斧のような大剣でタコ殴りにされ、無理やりっ引きずり倒されて首を切られてやっと絶命したと言う。

やたらに頑丈なのも、殺されるときにはめちゃくちゃ時間がかかって、逆に悲惨な目に合う。ちょっとだけ同情してしまったカズである。

子供に毛が生えた程度の女の子がサイクロプスをほぼほぼ追い詰める。で、まあ当然であるが、アズミはヒーローに祭り上げられる。

”良かった。” 本当は喜ぶべきである。名前を上げるのはこれからの事を考えると必要な事でもあった。

アズミは魔法学園には入らない。

今までどうり冒険者をしながら、教会や古の古代遺跡を回り、魔法について探求していく予定である。

そうなると、周りから守ってもらわなければ何もできないカワイ子ちゃんキャラでは、身動きが出来ない事に成る。

一人で動くこともあるだろうし、場合によっては仲間を組むこともあるだろう。いずれにせよ、一人前とみられる立場が必要だった。

それを求めての和弓であり、実にそれに成功したのだから喜ぶべきである。

「ウザい!!! ウザい!!! ウザい!!! ゲスイ!!! もうイヤ!! 」

しかし、いざなってみれば周りからはいろいろ弄られて、思った以上に面倒な事になっているらしい。

それが俺が目覚めた時に言われた”王都に行こう。”の原因である。

だが、必要に迫られてとはいえ、自分で望んだ結果なので、それは自業自得と言うものである。

”ふん、俺なんか、俺なんか、死ぬほど頑張ったのに、周りの目線は相変わらずの役立たずキャラだ。”

”勝手に喚いていろ!”

と、思うカズであった。

と、言う事でカズはふて寝である。

いや、寝るつもりは無かった。

体力はヘロヘロでとても旅など出来る状態ではなかったので、とりあえず休む。

休みながらできる事と言えば、座禅! スタンピードで戦った時は思考能力さえ使い潰して、ほぼ無念無想で戦ったので、今なら無意識世界に一番アクセスしやすい状態のはずである。

やってみると、なかなか調子がいい気がする。気がするだけであるが。

何となくであるが、雑念がスッと消えていく気がする。気がするだけである。

またすぐ湧いてくるけれど、何となく制御できるような気がする。やはり気がするだけである。

気を静めて、迷いを捨てて、ただ静かに座る。ただそれだけ。・・・・だが、当然な事に気が付いたらしっかり眠っていた。

無念である。


アズミは一人で先に王都に向かった。

今、カズがたたずんでいるのは、王都に向かう途中の名も知らぬ小さな村である。

名も知らぬ村の、村はずれの、石ころだらけの、寂れた河原である。

なぜこんな所で油を売っているのかと言えば、”降りてきた”からである。

”湧いてきた”と言った方が良いかも知れない。

”降りてきた”と言うと、神からの詔であるが、今回は自身の身体、もしくは無意識層からの詔である。

今朝、いつものように刀を振っていた時、真っすぐ振っても剣筋を曲げられるような気がしたのである。

たぶん第三者が聞いても何のことか意味が判らないだろう。

例えば”燕返し”である。

刀を袈裟切りに振り下ろして、途中から刃筋の下に身体をねじ込みつつ、小手を返す。身体を刃筋の下にねじ込む圧によって、素早く刀を跳ね上げる技法である。

それを真っすぐ袈裟切りにしただけでできるような気がしたのである。

通常そんな事は考えられないし、俺も思わず”そんな馬鹿な!”と、おもってしまった。

そう思ったとたんにできるような気配は消えてしまった。

気配が消えた時になって始めて気が付く、これは自分の無意識が出来ると思っていたんじゃないか? あのまま何も考えずにやっていればできたんじゃないか? 

ここは魔法世界である。昔の地球では出来ない事でも魔力を使えば出来ても不思議ではない。

あのスタンピードで体力も魔力も使い潰すことで、今までオマケのように使っていた魔力が、本当に体になじんできた。

それを私の身体自身が感じ取っていた。

その結果の反応だったのではないか?

ならば本当は出来るのかもしれない。本当ならば。

だが、今の常識に凝り固まってしまった私の石頭のままでは無理である。

しかし、計らいを捨て、無念無想の境地に至れば、それは可能かもしれない。

となれば動くのは今である。

今であれば、先日、スタンピードで無理やり無念無想に近い状態になった事、無理やり魔力を体になじまされたことが重なって、まだ体が覚えている。

時間がたつほど忘れ去っていくだろう。

やるならば今である。

そしてやらないと言う選択肢はない。

と、言う事でカズはここに居る。

石だらけの河原の、わずかに顔を出した砂地に座って、座禅を組む。

暫し心を落ち着け、そして立ち上がって刀を振る。

定まった様式、定まった動きは心を落ち着ける。

あるがままに、迷いなく、滞りなく、滑るように、舞うように・・・

空を舞う刃は自身に降りた朝露を振り切るように、カズの雑念や迷いを振り切っていく。

そして、その時は訪れる。

斜めに切り上げた刃が、雷文様に鋭く曲がりながら走る。

と、同時にカズは強い既視感にとらわれた。

”俺はこれを知っている。”

と、カズは思った。

”カモメ”であった。いや、正確には”カモメの影”であった。

遠い、遠い昔、前世日本の、それもカズが若かった、多分高校生ぐらいの年齢だったかもしれない頃の事である。

海辺のとあるリゾートに、夕日を浴びてカモメが飛んだ。

海岸に立ち並んだホテルの壁に、その影が走る。

一直線に飛び去ったその影は、幾重にも折り重なったホテルの壁を幾重にも折り曲がりながら、一直線に飛び去って行った。

そのシュールな飛びざまは、深く、深く、いつの間にか深く心の奥底に沈んで、今まさに浮き上がってきた。

直線は真っすぐな線分ではない。

直線は与えられた空間の、任意の二点を最短で結ぶ線分の事である。

空間が曲がれば直線も曲がるのだ。

当たり前に知っていたはずだった。しかし、その当たり前が、日常に埋もれて、当たり前でなくなる石頭になっていた。

”ああ、俺もついに老いぼれて、耄碌してしまったのか!?”

と、うら若きカズは嘆くのであった。

それはさて置き、問題はこの技である。

空間を曲げれば、そこで振る刀の軌跡も曲がる。が、空間を曲げるにはそこそこ時間がかかる。そこそこの魔力量が必要なためである。

先ほどのようにとっさにできる技ではない。

それと、もう一つ。

刀も相手も同じ空間に居る。その空間を曲げてしまっては、両方曲がって動くことになり、曲がらないのと同じ事に成りそうな気がする。

空間を曲げると言う説明では、自分を納得させられない。

自身を納得させられなければ技は発動しない。

いま、一番必要なのは正しい理論ではなく、自身を納得させることのできる説明である。

あるいは、自身をごまかすことのできる・・・と、言い換えてもいいかも知れない。

で、それを成立させるのにうってつけの物がある。

 ”場” である。

この世界のあらゆるものは、その存在根拠を”場”に依存している。

例えば光は電磁場に依存し、例えばヒッグス粒子は・・・・

かって、いにしえの地球では神の粒子として、ヒッグス粒子の発見で大騒ぎした。

一般的な説明では、ヒッグス粒子が万物に質量を与えると言う風に説明されるが、実は質量を与えるのはヒッグス粒子の場であるヒッグス場である。

ではなぜヒッグス粒子の発見が大騒動を巻き起こしたかと言えば、ヒッグス粒子の存在が、ヒッグス場の存在の証明になるからである。

魔力の存在は魔力場の存在を証明する。


刀を何度か振ってみて、カズはこう思った。

”今は此処までにしておこう。”

魔力場の湾曲をイメージすれば、なるほど太刀筋を曲げる事は可能である。

しかし、自在に曲げるにはまだ一つ、至ってはいない。

それと、もし相手がこの技を使ってきた場合、カズには避ける方策が見つからない。

まだ時間がかかる。そしてやたらに人に見せてもいい技でもない。焦ってはいけない。

今は王都に行って、魔法学園の入試の対策をするべきであろう。


                 *   第二章完  *


やっと2章が完結しました。3章が有る程度書き溜まるまでしばらくお休みします。

勝手を申しますが、御免なさい。

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