1幕 ストームガール1.5 漆黒の亡霊(7)
内部で一体、何が起きているのか?
要塞の至る所で爆発が起き、剥がれ落ちた外壁や破壊された要塞の瓦礫が地表へと落下していく。
……近くには市街地があり、そのまま落下していた場合の被害は甚大なものになっていただろう。
幸いな事に海は近い。
アタシは市街地への被害を出さない為に、降り注ぐ瓦礫を海へと逸らした方が良いと考え、即座に実行する。
しかし、問題は要塞本体だ
地上に落ちれば間違いなく周辺一帯壊滅してしまうし、海に軌道を逸らしても水没時に引き起こされる津波によって、やっぱり壊滅的な被害が出てしまうだろう。
……何とかして被害を出さずに食い止める方法を考えていると、なぜか要塞要が浮上し始め、そのまま空のかなたへと消えていったのには本当に驚かされた。
後で鳥羽さんに聞いた話だと、ある協力者の人が捨て身で要塞を浮上させたらしい。
一体どんな人なのか気にはなったけど、鳥羽さんが襲撃時のどさくさに紛れて持ち帰った情報を耳にし、それどころでは無くなってしまった。
鬼達が所属していた組織、『鬼ヶ島』。
その鬼ヶ島を陰から支配していたのは、アタシが以前交戦した『ノワールガイスト』という団体であること。
そして、その鬼ヶ島が文ちゃんも働いている黒鉄重工の技術研究所を襲撃しようとしていることが明らかになったのだ。
襲撃の目的までは明らかにできなかったが、おそらくは黒鉄重工が持つ技術だろう。
事前に襲撃予定がわかったので迎え撃つ準備をしていたのだが、ノワールガイストが予定よりも早く動いてしまった。
黒鉄重工の警備は襲撃予定が発覚後に即日で強化されたので何とか持ちこたえてはいるが、準備が完了していない状態ではそれが精一杯。
準備ができておらず出撃許可の降りていないJDFの人たちも出動が遅れる中、ヒーローとして厳しい制約がなく、動く事ができたアタシと一成がいち早く駆けつけて迎撃を始め、今に至る。
……アタシ達にとっては厄介な事に、奴らは周辺の市街地にまで襲撃範囲を広げている。
既に避難勧告は出されているが急な事で逃げ遅れた人も多く、彼らを守りながら戦う必要があった。
空から地上を見渡し、逃げ惑う人々を襲わんとしている鬼や機械人形を見つけ、その間に割って入るように地上に降り立つ。
「さあ、鬼どもに機械人形! どこからでもかかってこい! アタシを倒せば大手柄だよ、倒す事ができればね!」
市民が逃げる時間を稼ぐべく、アタシにヘイトを向けるべく高らかに叫ぶ。
「オニオニオニ、如何にストームガールとはいえ、この人数相手に――」
御託を並べ始めた鬼へ空気弾を撃ち込み黙らせた瞬間、いち早く反応した機械人形がアタシ目掛けて飛びかかる。
飛び退いて機械人形の攻撃を躱すと、機械人形を破壊するべく両腕に風の渦を纏わせた。
「これでもくらえ!」
纏わせた風の渦を、竜巻として機械人形へと放つ。
為す術なく竜巻に巻き込まれた機械人形は、荒れ狂う竜巻の中で完膚なきまでに破壊され、竜巻が消えた後に残されたのはバラバラになった機械人形の残骸だけだった。
「さあ、次は誰がアタシの餌食になる?」
「つ、強いオニ。オレ達じゃ到底敵わない――」
「ならば貴様等は他を攻めろ、鬼達よ。この女は私が相手をしよう」
……アタシに恐れおののく鬼達を押し退けるように、黒い装甲服と鉄仮面を身に付けた男が、アタシの目の前に姿を表した。
男が何者にせよ、やる事は一つ。
目の前に立ちはだかる敵を倒すため、真空の刃を放った。
「……今のを防ぐなんて、中々なかなかやるね」
驚く事に、男の装甲服に傷は付かなかった。
男は腰に携えていた剣を抜くと、迫る風の刃を弾くように振るい防ぎきったのだ。
「当たり前だ。私の名は『ダース・オーガ』。鬼十二匹分の高い戦闘力を持つ、ノワールガイストの幹部だ!」
……鬼十二匹分と言われても、以前の戦闘でその数を越える鬼を倒してきた事もあって、どうにも強いとは思えない。
いや、先程アタシの攻撃を防いだ事から強いのはわかるのだけど、鬼で例えられてしまったせいか、どうにも気が抜けてしまう。
「へー、幹部って事は、あなたを倒せば鬼達の士気もただ下がりって訳だ!」
完全にプログラムで動いている機械人形とは違い、鬼達には一応感情がある。
自分たちの上司であるダースオーガが倒されたとなれば総崩れになって、一気にアタシ達が有利になるはずだ。
「ストームガールよ! 貴様をわが剣の錆びにして――おいっ! 話を聞け!」
「これからアタシに倒される人の言うことなんて、聞く意味ないでしょ!」
口上を述べるダースオーガへ、周囲に散乱している小さな瓦礫を巻き上げ投げつける……が、ダースオーガにダメージを与えるには至らなかった。
ダースオーガの持っている剣の刃が光を放ち、瓦礫がその光に触れた瞬間に消し飛んだのだ。
どういうカラクリなのかは知らないけど、あの光剣にまともに触れてしまっては如何にアタシといえど、一溜りもないだろう。
「……自分の力に絶対の自信を持っているようだが、その驕りが命取りになるということを教えてやる!」
ダースオーガは剣を構え、突撃を仕掛けてくる。
……やつはアタシが驕っていると言ったけど、先程投げた瓦礫の末路を見て近接戦闘するほどアタシは自分の力に自信を持っていない。
それに、離れて攻撃した方が有利だ。
という訳で、アタシはダースオーガから離れるべく宙を舞い、ついでに空気弾でけん制しておく。
倒せるとは思っていないが、多少の足止めにはなるだろう。
「この程度の攻撃で、私を止められると思ったか!」
ダースオーガは歩みを止める事なく構えた剣を振るって空気弾を弾き飛ばすと、一瞬にしてアタシの元へと迫り、光剣を振り下ろす。
「うわっ! ……正しく間一髪ってやつかな」
咄嗟に飛び退く事で致命傷を避けるが、靡いたポニーテールの毛先が光剣の刃に触れて消滅するのを目の当たりにし、冷や汗が流れるのを感じ取る。
「外れか。だが、次は外さん!」
「女の子の髪を切っておいて、ハズレはないでしょ!」
今度こそダースオーガを仕留めるべく、竜巻を巻き起こす。
空気弾や真空の刃を防ぐ事はできるみたいだが、さすがに竜巻までは防ぐ事はできないはずだろうし、もし躱して近づいてきたなら奴が動いた瞬間に真空の刃を叩き込んでやる!
「外れたのだから、仕方ないだろう!」
ダースオーガはそう叫ぶと、アタシと奴の間を遮るように巻き起こる竜巻の中へと突撃していった。
「えっ……うそ!?」
予想だにしていないダースオーガの動きに、唖然としながら竜巻を眺める事しかできなくなってしまう。
まさか、自分から飛び込むなんて……。
……ダースオーガが何を考えていたのかは知らないけど、ただではすまないはずだ。
「覚悟しろ! ストームガール!」
そんなアタシの予想を裏切るように、頭上からダースオーガの声が響く。
空を仰げば、竜巻から飛び出したダースオーガが、光剣の刃をアタシに向けて突き立てんと降下してくるのが視界に映る。
あまりの荒唐無稽さに足を止めてしまうが、すぐさま光剣を躱すべく飛び退いた。
攻撃を躱されながらも地上に降り立ったダースオーガは、剣を構え直してアタシに追撃を仕掛けようとし……すぐに構えを解いた。
「どういうつもり? まさか、降伏する気にでもなった訳じゃないでしょ?」
「単純な事、既に勝負はついたというわけだ。周りを見てみろ」
ダースオーガの言う通り周囲を見渡してみれば、ダースオーガを中心として機械人形と鬼達が、アタシをいつのまにか包囲していた。
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