1幕 ストームガール1.5 漆黒の亡霊(6)
「おかえり、二人とも。見たところけがはないみたいだけど、大丈夫かい? 特に兄さんは実戦経験がほとんどないし、結構疲れてるんじゃないかな?」
任務を終えてJDFの支部に帰還したアタシと一成を、留守番していた文ちゃんが迎えてくれる。
「いや、そうでもなかった」
「えっ? 冗談だろ? そんな事言って、強がってるだけじゃないの?」
一成の返事に、文ちゃんは驚いた様子で聞き返す。
「最初は確かに大変だったけど、途中で楓花が加勢してからは一方的だったからな。楓花一人で鬼達を相手して、俺や他の人たちは後ろから援護してただけだ。……なあ、俺って必要だったのか?」
……先程の戦い、結論から言ってしまえばアタシ達の圧勝だった。
確かに鬼達の数は多い上に、戦闘力も強化されてはいた。
しかし、相手がアタシだったというのが彼らの運の尽き。
金棒片手に迫る鬼を一方的に吹き飛ばし、後方から銃撃しようとする鬼達もアタシが放つ空気弾で次々に地に伏してしまう。
何匹かの賢い鬼達は敵わないと判断してすぐさま撤退しようとするが、一成や他の隊員達の妨害によって逃げだすことは叶わず、結局はアタシの手で倒された。
雑兵が多少強くなったところで、しょせんは雑兵であることに変わりなし。
アタシの相手をするには、もっと数を用意する必要があったということだ。
「そんなに謙遜しなくていいよ。一成達も頑張ったからアタシは鶴鬼を探すのに専念できたし、一人も大きなけがなく終われた――あっ、鳥羽さんは大丈夫かな?」
自身の存在意義に疑問を持ち出した一成を擁護している途中、鳥羽さんがいまだに鶴鬼を追っている事を思い出してヒーロー活動用の通信端末を取り出す。
戦闘終了直後にアタシから連絡をした時、時間がかかりそうだから先に帰還してくれという事と、何かあったら応援を要請するから数日間はすぐに対応できるよう準備してくれと言われていた。
連絡が届いてないか帰還してから確認しようと思っていたのだが、うっかり忘れてしまっていた。
端末の画面には、新しい通知は表示されていない。
……何の連絡も入ってないということは、多分大丈夫なのだろう。
「ああ、鳥羽さんが逃げ出した敵の追跡から戻ってないんだったか。まあ、彼なら大丈夫だろ」
アタシの発した懸念に、文ちゃんはさらりと返事をする。
……文ちゃん、いつのまに鳥羽さんをそこまで信頼するようになったんだろう?
「あの男、ボクの作ったBM―1を『こんな鉄の鎧、俺には必要ない。むしろ邪魔だ』なんて言ったからな。プロのスパイだかなんだか知らないけど、そこまで言うんだから相当に自分の実力に自信があるんだろう」
ああ、信頼してるというより、自分の作品を貶められた事による半ば当てつけのような感情だったか。
「ま、まあ鳥羽さんは強いし、危なくなったらちゃんと連絡するだろうし、大丈夫だろ」
……一成の言う通り、鳥羽さんの強さはアタシも先程目の前で見たばかり。
あまり心配する必要もないだろう。
「その通り。そんなことよりも任務成功を祝って打ち上げでもしようじゃないか」
「打ち上げ? 俺は別に構わないけど、颯花はどうする?」
……打ち上げか、ひょっとしたら鳥羽さんから連絡がくる可能性もあるけど、それ以外に用事はないし大丈夫かな。
「アタシも構わないよ。どこでやるつもりなの?」
「ボクたちの家でやるつもり。まだ少し用事があるから、二人は買い出ししておいてくれ。お金は出すから」
文ちゃんはそういうと、ポケットを探り財布を取り出す。
……同時に、財布の中から何かが地面に落ちる。
「文ちゃん、何か落ちたよ?」
「あっ、自分で拾うから大丈夫――」
文ちゃんが落とした何かを拾おうとするが、それよりも早く一成が動き、落ちている何かを拾い上げる。
「何かと思ったら、ヒーローチップスのおまけカードか。……なあ文、この前一緒にヒーローチップスを開けてやった時、このカードは見なかったぞ? まさか、また買ったんじゃないだろうな? ひょっとして、打ち上げと称してポテチを処分しようとしてる訳じゃないよな」
そういえばこの前、文ちゃんが大量に買い込んだオマケ付きのお菓子を一緒に食べさせられたと一成が愚痴っていたのを思い出す。
……しばらくはポテトチップスを見たくもないと言ってたな。
「ち、違う! ……それは、同級生に勉強を教えてあげた報酬としてもらったんだ。さすがにもう買い足すつもりはなかったよ……来月になるまでは」
「そ、そうか。それは悪かった――おい、最後に何て言った? まさか、欲しいカードが出るまで買うつもりだったのか!?」
一成は謝ろうとするが、文ちゃんが最後に小さく呟いた言葉に気付き、再び説教を始めてしまう。
……そろそろ頃合いかな。
「まあまあ、実際に買い足した訳じゃないんだしさ、その辺にしてあげなよ」
「……文、楓花に感謝しろよ」
アタシに窘められた事で一成は渋々ながら文ちゃんにカードを差し出し、文ちゃんはカードを受け取って大事そうに財布の中へと仕舞う。
……それにしても気になる。
「ありがとう、楓花ちゃん。お蔭で助かったよ」
「別に気にしなくても大丈夫だ。……それよりもさ、随分と大事にしてるみたいだけど、誰が写ってるカードなの? アタシ、気になっちゃうなー」
文ちゃんは幼馴染のよしみでアタシのヒーロー活動を手伝ってくれてはいたが、他のヒーローに興味を抱いている風には見えなかった。
それがどうした事か、カードを持ち歩くくらいに好きなヒーローがいるというのだから、気になってしまうのは仕方ない。
「……す、ストームガール。楓花ちゃんのカードだよ。ボクはストームガール一番のファンと言っても過言じゃ――」
「うそをつくな、カードに写ってたのはどう見ても楓花じゃなかったぞ」
文ちゃんは慌てた様子を取り繕う事もせずにごまかそうとするが、当然だが一成によって即座に見破られる。
……ごまかすのにアタシの事まで利用するなんて、そこまで知られたくないとはますます気になってしまう。
「そうなの? 誰のカードだった?」
「少し待ってくれ。あんまりよく見てなかったから、今思い出すから――」
「はい! あんまり遅くなるといけないから二人とも先に帰ってくれ! 買い出しを忘れずにね!」
一成がカードに描かれていたヒーローを思い出そうとするのを邪魔するかのように大声を出し、一成にお金を握らせた文ちゃんによってアタシ達は有無を言わさず支部の外へと追い出されてしまう。
「……少しからかいすぎたかも。怒らせちゃったかな?」
「気にする必要ない。普段から人の事をからかってくるから、たまには痛い目を見た方が良いくらいだ。……とりあえず、文の好きなお菓子でも買っておけば機嫌も良くなるだろ」
アタシの懸念に一成は構わないと返しながらも、ちゃんと文ちゃんの事も考えているのかご機嫌取りしようと提案してきた。
「そうだね、そうと決まれば早く買い出しに行こう。……一成、今日はお疲れさま」
「……ああ、楓花もお疲れ」
アタシ達は互いにねぎらいの言葉を掛け合いながら、JDFの支部を後にする。
こうしてアタシと一成、そして鳥羽さんのチームとしての初めての活動を何とか終える事ができたのだ。
……ここで話が終わっていれば良かったのだけど、そうじゃないから今に至ってしまっている。
後日、鶴鬼は逃がしたものの、紆余曲折あって敵の本拠地を突き止めたという鳥羽さんの連絡を受け、応援に駆けつけたアタシ達が目の当たりにしたのは空に浮かぶ巨大な要塞だった。
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