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1幕 ストームガール1.5 漆黒の亡霊(5)

「ストームガール、随分と苦戦してたみたいだな」


 人影の正体、背中に巨大な翼を有するウイングスーツを身につけた鳥羽さんは、着地して体勢を整えながらアタシに話しかけてくる。


「どんなものなのか、ちょっと小手調べしてただけだよ。……まあ、厄介だけど今のところ大した事はないかな」


 起き上がりながら鳥羽さんに返事をすると、鶴鬼の方へと視線を向ける。


「くっ……二人がかりとは卑怯ツル!」


 結構勢いよく吹き飛んでいったから倒せたかと思ったけど、案外に頑丈だったようで鶴鬼は悪態をつきながら立ち上がってきた。


「二人がかりって……そっちはアタシ一人にどれだけの数で仕掛けてきたのさ」


 確かに鳥羽さんと合流した事で二人がかりになったのは事実ではある。

 しかし、今に至るまでアタシ一人で鶴鬼を含めて何匹もの鬼で挑んできたというのに、それを棚上げした言い草はいかがなものか?


「ぐぬぬ。……お前たち! やっておしまいなさいツル!」


 鶴鬼はアタシの問いに答えることなくそう言うと、先程アタシが吹き飛ばした鬼達が起き上がって再びこちらに向かってくる。


「何度やったって、結果は変わらないよ!」


 アタシは空気弾を放ち、鳥羽さんは手足を振るって近づいてきた鬼達を撃退していく。

 ……それにしても、一成が言っていた通り鳥羽さんの動きはかなり機敏で、文字通り目にも止まらぬ速さだ。


「鳥羽さん、どこで戦いかたを覚えたの? 動きが速くて目で追えないよ」


「その質問、今すぐに答える必要があるのか? ……その内話す機会もあるだろうが、今はその時じゃない!」


 鳥羽さんはアタシの問いを受け流しながらも、背後からこっそりと近づいてきていた鬼へ振り向く事なくナイフのような刃物を投げつける。

 鬼の額に見事に直撃した刃物は鳥羽さんが引き戻すように腕を動かすと、仰向けに倒れこんだ鬼の額から抜け、彼の手の内へと戻っていった。


「そう言うって事は、教えてくれるつもりはあるってことだね」


「……ああ、そのうちな」


 実を言うと、鳥羽さんの事に関してそんなによくわかっていない。

 JDFの特殊部隊隊員を名乗っており、今もこうして一緒に戦っている以上それは間違いないし、一成や文ちゃんの事を助けてくれた事もあるから悪人ではないのだろう。

 だけど、完全に信用できるかといえばそれも難しい。

 ……鳥羽というのはコードネームで、アタシや一成は彼の本名すらしらないのだから。

 そんなことを考えながらも、アタシ達は迫る鬼達を次々に薙ぎたおす。

 ……しかし、鬼達は何度たおしても何事もなかったかのように起き上がり、アタシ達に立ち向かい続ける。


「キリがないな。このままだとじり貧か」


 鳥羽さんはそうつぶやくものの、鬼達を淡々と処理していく様子からは全くと言っていいほど焦りが見られない。

 ……確か鶴鬼は、自身が織った着物を自在に操れると言ってた筈。

 なら、この状況を脱するのは意外と簡単……かもしれない。


「鳥羽さん、ここはアタシに任せて!」


「……さっきまで苦戦してたみたいだが、策はあるのか?」


 任せろと言うアタシに、訝し気な様子で鳥羽さんが返事をした。

 先程鬼達に押さえ込まれていたアタシの様子を見ていればそう思うのもわかる。

 ならば、その考えを改めさせるため、行動に移す他ないね。


「鳥羽さん、アタシを誰だと思ってるの? アタシはスーパーヒーロー、ストームガールだよ!」


 鳥羽さんにそう言うと、鬼達目掛けて真空の刃を放つ。

 不可視の攻撃によって鬼達の身に着けていた着物がバラバラに切り刻まれ、着物を失った鬼達は力無くその場に倒れ伏す。

 思った通り、鶴鬼は鬼たちそのものではなく自ら織った着物を操っているのだから、それを切り刻んでやれば既に戦う力のない鬼たちは意識を失い、戦えなくなるというわけだ。


「さあ、残りはあなただけだよ!」


「……ぐぬぬツル。まさか全員やられてしまうとはツル」


 鬼達は皆無力化され、残るは鶴鬼ただ一人。

 鶴鬼は悔しそうに歯がみするだけで、もはや勝敗は決したと言っても過言ではない。


「大人しく投降すれば丁重に扱ってやるが、抵抗するようならこっちも容赦しない」


 鳥羽さんは鶴鬼へ降参するよう促しながら彼女の元へと近づいていくが、鶴鬼は鳥羽さんが近づいてきたぶんだけ後ろへ下がる。


「投降なんてごめんですツル! これでもくらうといいツル!」


 鶴鬼がそう叫ぶと、どこからともなく現れたら織物がアタシ達の視界をふさぐように宙を舞う。

 あれに絡めとられてしまえば、鶴鬼の操り人形にされてしまうな。


「鳥羽さん、伏せて!」


 アタシの警告に鳥羽さんがその場にしゃがみこむのを確認してから真空の刃を放ち、宙を舞う織物を次々に切り裂く。

 バラバラになった布切れが床に落ちてアタシ達の視界が開けた時、鶴鬼は窓から身を乗り出している最中だった。


「ちょっと! 馬鹿な事はやめなよ!」


「馬鹿な事など何もしていないツル!」


 恐らく自らの命を絶つために、大空へ飛び立たんとしている鶴鬼を静止しようとするも彼女は聞く耳を持たない。

 ……いや、立ち止まった辺り、案外聞く耳はあるのかもしれないな


「飛び降りたところで逃げられると思っているのか? まったくの無駄だということを教えてやろうか」


「と、鳥羽さん! 挑発はやめといた方が――」


「無駄かどうか、その目で確かめてみればいいツル!」


 アタシは鳥羽さんを諫めようとするが、鶴鬼は鳥羽さんの挑発に乗り窓から飛び降りてしまった。

 鶴鬼を助けるため、慌てて窓から身を乗り出し空を飛ぼうとしたアタシの視界に映ったのは、鶴鬼がその身に織物をマントのように羽織って飛行し、空のかなたへ逃げだそうとしている姿。


「……あんな事もできたのか。いや、感心してる場合じゃない。早く追いかけないと」


「待て、ストームガール」


鶴鬼を追いかけるために飛び立とうとするが、鳥羽さんに静止されて動きを止める。


「どうしたの? 早く追いかけないと逃げられちゃうよ?」


「ここは俺に任せろ。君は他の奴等の援護に向かってくれ。何かあったら連絡する」


 鳥羽さんはそう言うとアタシの返事を聞く事なく窓から飛び出し、背中から金属の翼を広げて鶴鬼を追いかけていった。

 ……急な出来事にわずかながら呆けてしまうが、私も慌てて鳥羽さんの後を追うように窓から飛び出し宙に浮く。

 一瞬だけ鳥羽さん達を追いかけようかとも考えたけど、彼の残した言葉を思い出して浮き止まり、地上を見下ろす。


「……確かに、苦戦してるみたい」


 JDFの隊員や一成は鬼に怯む事なく攻撃を仕掛けているが、鬼たちの方が圧倒的に数は多い。

 おまけに事前情報によれば鬼は平均的成人男性一・五人ぶんの能力という、なかなかの強さを持っているそうだ。

 一成以外の人たちは文ちゃんの開発したBM-1というパワードスーツを身につけているのもあって鬼達に比べて一人当たりの強さは上回ってはいるが数の差はやはり大きく、いずれは疲弊してしまうのは間違いないだろう。

 鶴鬼の事も気にはなるけど、先程の鳥羽さんの実力を見れば任せてしまっても大丈夫……だと思う。

 アタシは意を決し、地上を目指して急降下した。


「囲んで金棒で叩くオニ! そうすればその内に力尽きるから、こっちの勝ちオニ!」


「そうはいくか! 囲まれる前に倒して――ふ、颯花!?」


 先陣を切って突っ込む鬼に一成が何やら言い返していたが、目の前の鬼が降下してきたアタシに一瞬で吹き飛ばされたのを目の当たりにし、驚きで声を上げる。

 そして鬼たちは急に現れて仲間を倒したアタシを見て目を丸くし、その場で立ちすくむ。

 動かないなら好都合、鬼達目掛けて容赦なく竜巻を放つと、まとめて吹き飛ばしてしてあげた。


「ストームガール、どうしてここに!? 奴等の親玉はどうなった!?」


 近くにいるJDF隊員が、作戦外の行動をとっているアタシに当然の疑問を問いかけてくる。

 フェイスアーマーに隠れて表情はわからないが、多分すごく驚いているのだろう。


「鶴鬼は逃げだしたけど、鳥羽さんが追いかけてる! アタシは皆が苦戦してるみたいだから助けにきた!」


「……そうか、なかなか数が減らないから困っていたところだ。応援感謝――」


「う、嘘オニ! 鶴鬼様がオレ達を見捨てて逃げ出したオニ!?」


 アタシの応援に感謝の意を告げようとする隊員の言葉を遮るように、鬼の悲鳴が響き渡る。


「残念かもしれないけど、本当だよ」


 鬼達にとっては残酷な事実を告げたアタシの言葉に、鬼達は愕然としたように項垂れて戦意を喪失する。

 こうなってしまえば、後はもう一方的な戦いに――


「あ、諦めるなオニ! オレ達にはまだ、鶴鬼様から授かった着物があるオニ!」


「そうだオニ! この身につければプラシーボ効果とかいうよくわからない理屈で、オレ達の力を倍以上にしてくれる着物があったオニ!」


 一匹の鬼が上げた声により、鬼達は色めき立ち次々にどこからか取り出した着物を身に付けだす。


「プラシーボ効果? あいつら、なにを言ってるんだ?」


 鬼の言葉を耳にした一成が、誰に聞かせるわけでもなくつぶやく。


「アタシも最初はそう思ってたけど、本当に強くなってるから気を付けて」


「……マジかよ。話には聞いてたけど本当にデタラメなんだな、鬼って奴等は」


「ごちゃごちゃと喋って、随分と余裕そうだオニ! 覚悟するオニ!」


 一成がアタシに返事をすると同時に、鬼達がこちらに向かい突撃してくる。

 一成や隊員達は迎え撃つために銃器を構え、アタシも自身の身に風を纏わせる。

 ……今回の作戦における最大規模の戦いが今、始まろうとしていた。

今回の話を読んでいただきありがとうございます。

ブクマ・ポイント・感想をもらえれば筆者のモチベーションが上がるので非常にありがたいです。

次回投稿は前日にTwitterで告知予定です。

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