2幕 オトギウォーズ1.5 集う、ヒーロー(4)
ダースオーガは抵抗を試みようと懐から予備の光剣を取り出すが、拙者の攻撃の方が早い。
炎の刃でダースオーガを斬り付け、装甲服を傷を付けながら燃やし、吹き飛ばす。
「見たか! これが拙者とブレイズライダーの、師弟による絆パワー!」
刀を振るって刀身に纏わりついた炎を消すと、地面に倒れ伏すダースオーガとジェネラルGに向けて言い放つ。
「知らないうちに弟子にされてたけど、まあいいか。さて、これ以上痛い目を見たくなかったら、まずは俺の質問に答えてもらおうか」
ブレイズライダーは隙を見せず、いつでも炎を放てるようにしながらジェネラルGの元へと近づいていく。
……それにしても、ブレイズライダーが執着しているヴァッサとは、一体どのような人間なのだろうか。
「ヴァッサの事を聞きたいんでしょ。彼女は可愛いからつい付きまといたくなる気持ちもわかるけど、しつこい男は嫌われるわよ」
……なるほど! そういう事か!
「ブレイズライダー。師匠として忠告しておくが、痴情のもつれの果てにストーカーになるのは感心しないぞ。お主が犯罪者になってしまう」
「つ、付きまといでも痴情のもつれでもない! 俺が刑務所にぶちこんだヴァッサをお前達が脱走させたから、態々こうしてもう一度捕まえようとしてるんだろうが!」
ブレイズライダーは多分、顔を真っ赤にしながら怒鳴り散らす。
なにぶんヘルメットを被っているものだから、どんな表情をしているかは推測する他ない。
……しかし、痴情のもつれではなかったか。
面白くない。
「フフフ、そういう事にしておいてあげるわ。でもね、アテクシがそう簡単に口を割ると思っているのなら、見くびられたものね!」
ジェネラルGが叫ぶと同時に、奴の身に付けていた装甲服の各部が展開。
装甲服から生身のジェネラルGが上空に向けて射出された。
更に、装甲服の中から眩い光が漏れだし、明らかにヤバそうな雰囲気を醸し出す!
「逃げろ! ブレイズライダー!」
ブレイズライダーへの忠告を口にしながら、地面に身を伏せる。
ブレイズライダーも忠告を耳にしてその場からすぐさま飛び退くが、彼の身体が宙に浮くと同時にジェネラルGの身に纏っていた装甲服が爆発し、激しい衝撃が拙者達を襲った。
「ぬぅ……だ、大丈夫か、ブレイズライダー!」
辺りに煙が立ち込めるなか、爆発の衝撃が収まると同時に立ち上がってブレイズライダーの姿を探す。
「油断したな! 桃太郎よ!」
その最中、煙の中からダースオーガが姿を表し、拙者へと斬りかかってくる。
反撃の為に刀に手を掛けた瞬間、目の前のダースオーガを炎が包み込んだ。
同時に煙が晴れて視界が開き、ブレイズライダーが拙者を助けるべくダースオーガに攻撃を仕掛けている姿が目に映る。
「……油断したのはそっちみたいだな。燃やし尽くしてやる!」
その姿はボロボロで、スーツはあちこち破けてヘルメットのバイザー部分にもヒビが入っている。
……しかし、今注目すべきはそこではない!
「ブレイズライダー! 上だ!」
拙者が叫ぶと同時にブレイズライダーが天を仰ぐ。
視線の先には、先程射出されたジェネラルGがブレイズライダー目掛けて空から降ってきており、その眼からブレイズライダー目掛けて光線が放たれた。
「ぐっ……うわぁ!?」
ブレイズライダーは咄嗟に左腕を前に出して光線を防ごうとするが、光線が直撃した瞬間に爆発し、悲鳴を上げて倒れこむ。
「ブレイズライダー! 今行く――」
「貴様の相手は私だ!」
ブレイズライダーを助けるべく駆け出そうとした拙者の目の前に、その身に纏わりついた炎を払いながらダースオーガが立ち塞がる
「炎に巻かれた癖に、何で火傷の一つもしていないのだ、貴様!」
「さてな。それは私にもわからんが、多分私がそれだけ凄いという事だ!」
……自信満々な様子でダースオーガはそう言い張るが、こいつが自分でわかっていない事から察するに、ブレイズライダーが手加減していたのだろう。
何故手加減をしていたのかは定かではないが、きっとそれなりの理由があるのだろう。
「驚いて声も出ないようだな。これがこの私、ダースオーガのダークフォースだ!」
……まあ、その事実を現在進行形で黒歴史を積み上げているダースオーガに教えてやる義理は、拙者に無い。
精々地獄で今日の事を思い出す度に悶え苦しめばいいだけだ。
その為にダースオーガを地獄へと送るべく拙者は刀を振るうが、奴も只ではやられまいと光剣で受け止めてくる。
……認めるのは非常に癪だが、ダースオーガの実力は確かだ。
戦い続ければ倒せない事は無い……いや、拙者の勝利は間違いないが、いつまでかかるかわからない。
ブレイズライダーの方へと視線を向けると、着地したジェネラルGに攻撃を仕掛けられている。
「アテクシはね、生身でもとっても強いのよ! さあ、観念しなさい!」
「お前みたいに大柄な奴の相手は何度もしてきたんだ! 観念するのはそっちの方だろ!」
……ブレイズライダーは強がっているが、先程からのダメージが大きいらしくその動きは精彩を欠いており防戦一方。
このままだと倒されるのは時間の問題だろう。
ダースオーガを即座に倒して助けに向かうのがベストなのだが、拙者が刀を振るえばダースオーガは光剣で受け止め、無視しようとすれば拙者の前に立ち塞がってくる。
「ええい! そこをどけ!」
「断る! 貴様はそこで自分の弟子の末路を、何もできずに眺めているといい!」
あまりにしつこいダースオーガに、菩薩のような精神を持つ拙者も流石に苛立ってくるが、冷静さを失えば奴の思うつぼ。
どうにかしてくれないかと雉鳴の方へと視線を向けてはみるものの、後から次々と湧いてくる鬼や機械人形相手に苦戦を強いられているようで、期待できそうにない。
そうこうしている内に、ジェネラルGは壁際へとブレイズライダーを追い詰めてしまう。
「形勢逆転ね。さて、貴方がアテクシ達の仲間になるというのなら、今までの狼藉を許してあげてもいいわよ」
「……参考までに聞かせてもらうけど、どんな待遇が用意されてるんだ?」
これは不味い!
まさか、拙者の弟子が悪の道に走るとは全くもって想定していなかった。
もし厚待遇をちらつかされてしまえば、未熟なブレイズライダーはすぐにでも奴等の軍門に降ってしまうかもしれない。
「聞くな、ブレイズライダー! 拙者の弟子なら、悪党の甘言など――」
「ええい、黙って見ていろ! 貴様の弟子が、暗黒面に落ちるところを!」
ジェネラルGの言うことに耳を貸さないように説得を試みるが、ダースオーガに斬りかかられてしまい中断せざるをえなくなってしまう。
「そうねえ、いきなり幹部とはいかないでしょうけど、ヴァッサを倒しアテクシ達と互角に渡り合った貴方ならすぐにでも幹部になれると思うわ」
「……嘘を言ってるわけじゃないよな?」
拙者がダースオーガにてこずっている間にも、ジェネラルGはブレイズライダーへのスカウトを進めていく。
「嘘じゃないわ。どうせなら、アテクシから幹部に推薦してあげてもいいわよ」
……仕方ない。
弟子の不始末をどうにかするのも、師匠の役目だ。
「お、おい! 貴様、何をしようとしている!?」
突然拙者に逃走されたことで呆気にとられているダースオーガを尻目に全力で駆けだし、ブレイズライダーを始末するべく、刀を大きく振りかぶる!
「熱心に勧誘してくれたところ悪いけど、断るに決まってるだろ!」
ブレイズライダーは啖呵を切ると三角飛びの要領で壁を蹴り、ジェネラルGの頭上を超えて、逆にジェネラルGを壁際へと追い詰める。
「よく言ったぞ、ブレイズライダー! 流石は拙者の弟子だ!」
拙者は振りかぶっていた刀を下ろし、ブレイズライダーを褒めてやる。
弟子が正しい選択をした時、飴を与えるのも師匠の役割というわけだな。
「……私の見間違いでなければ、その男を始末しようと――」
「黙れ悪党! 拙者達は貴様らの言葉に耳を貸さん!」
余計な雑念をブレイズライダーに抱かせない為に、ダースオーガの戯れ言を掻き消すように叫びながら刀を振るい斬りつけた。
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