その8
「フハハハ…どうした、ダニー?私のこの完璧な義体を前に手も足も出せないから、何も言えないだろう?」
「…余りのデタラメな能力にハッキリいって呆れているんだよ。マジでコミックの世界かよ」
こういうときMr.ウルヴァリンは何て言うだろう。ダニーはフランクの自己再生能力のチートっぷりに呆れながらも打開策を見いだそうとしている。が、闇雲に攻撃をすれば、それだけ修復の度に義体が強化されてしまう。下手な攻撃を続けるだけ、ダニーの手数を狭まるためフランクの思う壺なのだ。
「…ったく。どうしたもんか…」
ダニーが思いあぐねていると、不意にフランクがダニーの眼前に迫った。ハッと我に返ったダニーに対し、隙有りと言わんばかりにフランクはボディブローを見舞った。
「ぬがっ!!?」
ダニーが顔を歪めて前のめりに体勢を崩す。フランクは間髪入れずに両手を握ると、ダニーの背中に思いっきりスレッジハンマーを振り下ろした。フランクからの連続攻撃による衝撃でダニーは地上へ向けてみるみる落下していく。
「ま、まずい…!ぶつかる…!!!」
ダニーは空中で何とか体勢を立て直すと両足のジェットパックを最大に出力した。両足のジェットパックの炎が凄まじい勢いで噴射される。ダニーは四つん這いになりながらも辛うじて地表への衝突は免れた。着陸の衝撃で辺りにクレーターのような穴が開く。
「はあ…はあ…はあ…」
ダニーは息を切らしながらも何とか立ち上がった。しかし腹部と背中の装甲には亀裂が入り、所々火花が散っている。ダニーは体の痛みに眉をひそめた。
ダニーは気を取り直して周りの様子を慎重に眺める。着陸した先はキングスカンパニーの本社ビル前にある巨大な日本庭園だった。フランクの趣味で作らせたらしく、さながら都会の中のオアシスのようである。
しかし、庭園の景色を楽しむ余裕など今のダニーにはなく、本社タワービルの遥か上空を睨み付けた。すると上空の彼方から猛スピードで筋骨隆々の大男のアンドロイドがダニーの目の前に降りてきた。
「おや?まだくたばっていなかったとはな。しぶとさだけは一人前のようだな」
「イテテ…勝手に人を殺すんじゃねえよ…」
ダニーは体の痛みに耐えつつ、フランクにパルスキャノンを向ける。ダニーの呻く様子を見て、フランクは嘲笑した。
「ハハハ…いいねえ、その苦悶に満ちた表情。最高だよ。カメラがあったら撮影して、後でワインでも飲みながらジックリと鑑賞したいくらいだ。君がもがけばもがく程、より一層味わいが出る」
「…悪趣味な野郎だ」
「何とでもいいたまえ。どうせ君の命運は此処で尽きるのだからな。最期の最期まで、その無様な姿を私の前に晒してくれたまえ」
「ふざけるなよ!このクソヤロウ!!!」
ダニーが怒りに任せてパルスキャノンをフランクに向けて連射した。弾はフランクの四肢と首もと、腹部を貫通した。フランクの義体に複数の穴が開く。
「ぬぐううううう…!!」
ダニーの猛攻を受けたフランクは苦悶の表情を浮かべて膝を付く。が、しかし直ぐ様自己再生が始まり、フランクの義体は元に戻った。フランクは顔を歪めつつ、ゆっくりと立ち上がる。
「はあ…はあ…全く随分痛いことしてくれるじゃないか…今のはさすがに堪えたよ…」
フランクが苦笑しながら自身の義体を擦る。ダニーはすかさずパルスキャノンの連射を浴びせるが、フランクの言った通り修復時に強化されたことで、義体には傷はおろか凹みすら付いていなかった。
ダニーの表情が一層強ばる。が、しかしダニーはあることに気付いた。
「もしや…ダメージを受けて修復する度に強化はされるが「最初に受けた痛み」そのものは感じているということか?」
ダニーは残りの手持ちの武器を慎重に数え、再び打開策を練り始める。そのときダニーの耳に入れていたイヤホンからミス・ジェーンの無線が入った。
「ダニー!無事なの?!」
「ま、…無事とか言いがたいが、何とか生きている。でもこちらの旗色は限りなく悪いな。それよりミス・ジェーン、あんたは大丈夫なのか?」
「私のことは心配しないで。社長室を出て総会の会場に向かっているわ。恐らくなんだけどAIとなったフランクの本体のあるサーバが本社内にあるかもしれないのよ。もしかしたら其処を叩けばフランクを沈黙させられるかも…と思っているんだけど、とにかく急ぐわ!」
「わかった、ミス・ジェーン!何とか時間を稼ぐ!!」
「必ず生きて再会しましょうね、ダニー」
「ああ、お互いにな!」
ダニーはミス・ジェーンからの無線を切ると立ち上がってフランクを睨み付けた。フランクがゆっくりとダニーに近づき、見下すように前に立ちはだかった。
「覚悟はできたのかね?ダニー」
「いや、まだだ」
「ふう、そうか。だが安心しろ。直ぐに楽にしてやる!」
フランクはダニーの側頭部に右足のハイキックを入れた。ダニーは蹴りの衝撃で吹っ飛ばされ、庭園の先にある松の木に衝突してなぎ倒した。自身が丹精込めて手入れをしていた松が倒れたことにフランクは少し後悔の表情を見せる。
「やれやれ、折角ここまで育てたのに。この償いは貴様の死を持って代えさせてもらうぞ!」
フランクがダニーにトドメを刺すために近づこうとしたとき、ダニーの両肩からレーザー光線が発射された。フランクは無駄な足掻きと嘲笑う。
「バカめ!!まだ分からんのか?!下等生物が!」
フランクが余裕でいると突然、フランクの頭上から大木たちが倒れてきた。驚いたフランクは避ける間もなく、大木たちの下敷きになった。ダニーがレーザーで狙ったのはフランク本人ではなく、周りに生えていた木々であった。
「ぬうううう…!!アレックス・ローといい、貴様といい、下等生物とは何てしぶとく邪魔な連中なんだ!!!」
大木の下敷きになり、義体の所々が損傷したフランクが喚きながらもがいている。ダニーは再生の追い付いていないフランクの義体の傷口に向けてレーザーを構えた。
「フランク、今度こそ終わりにしてやる…」
ダニーがレーザーを発射しようとしたとき、キングスカンパニー本社上空から黒い人型の影が複数体現れた。ダニーが驚いて見上げると、ルーズベルト少佐が使用していたパワードスーツたちが一斉にフランクを取り囲むように降りてきた。
「な、…コイツらは…?」
「ハハハ…甘かったな、ダニー。私の味方はドローンだけではないのだよ。私の遠隔操作で呼び寄せた無人のパワードスーツたちが次の貴様の相手となろう」
思わぬ乱入者たちにダニーは顔をしかめ、脂汗が頬を伝った。




