その15
ダニーは意識を取り戻すと地面を這いずりながらルーズベルト少佐のパワードスーツまでやって来た。ルーズベルト少佐はパワードスーツの操縦席から動けず、ダニーの隠し玉を受けて穴の開いた腹部を押さえながら苦悶の表情を浮かべている。
ダニーはヨロヨロとパワードスーツをよじ登り、ルーズベルト少佐と顔を合わせた。
「まさか、貴様と隠し玉の内容が、被るとは、な…」
「アーノルド……死ぬ前にさっき放ったドローンたちを止めるんだ」
ダニーは肩で息をするルーズベルト少佐に迫った。ダニーの眼からは血の涙が流れ出ている。正に最後の切り札のようだった。
「無駄だ…もう私には止められない」
「貴様、アーノルド!!」
「……落ち着け、ダニー…後ろを振り返ってよく見るんだ…」
ルーズベルト少佐がゆっくりとダニーを諭すように呟く。ダニーは仕方なく言われた通り振り返った。すると、ダニーの視界には信じられない光景が広がっていた。
「こ、これは…?あれだけ居たキングスカンパニーの増援やドローンたちは何処へいった……」
「もう、終わったんだよ…私が止める必要も…ない」
ダニーの視線の先にはあちこちで上がる爆発と黒煙、そしてその中で悠然と立つメカコング姿のMr.ウルヴァリンだった。ダニーは状況が掴めず、ルーズベルト少佐の方を向く。
「あの、ドローンたちは……Mr.ウルヴァリンを狙ったんじゃないのか!?キングスカンパニーの増援にぶつけたというのか?」
「私の狙いは最初からダニー……貴様だけだ……他の連中は関係ない……」
「あんたは……キングスカンパニーと繋がっていたはずじゃ……裏切ったのか?!」
「少し違うな……私はキングスカンパニーの手先になった記憶はない。奴等に邪魔されたくなかっただけだ……私なりのケジメ、だ」
ルーズベルト少佐はダニーを見て静かに、そして穏やかな笑顔を見せた。ダニーはまだ理解が追い付いていないものの、再びルーズベルト少佐に詰め寄った。
「言うんだ、アーノルド!あんたの…あんたの本当の狙いは何だ!!!」
ダニーが声を荒げた。ルーズベルト少佐は腹部を擦りながら、ダニーの顔を見据えた。その表情はどこか達観しているように見える。
「ダニー…、私はあの「ウロボロスの終末」掃討作戦のとき、最初からこの結末を知っていたのだ……キングスカンパニーと軍の上層部によって仕組まれたものだった、と」
「……やはりそうだったのか……」
「作戦実行の前日、CEOのフランク・フリーマンから…直接連絡を受けた……。裏切り者が混じっている…しかし、作戦は止めずに実行し、裏切り者を炙り出すように……そしてパワードスーツ「3DS-2020」の機密事項は既にテロリストの手に渡っているから悪用されないように完全に闇に葬るように、とな。「ウロボロスの終末」の件で妙に手際がいいからおかしいと思っていたが、上層部からの圧力も重なり、どうにも逆らえなくてな……フッ、結局部下を見殺しにしちまった……」
ルーズベルト少佐の眼から涙が伝うのが見えた。葛藤の末、苦渋の決断を下したのかもしれないが、それでも勝手にスケープゴートにされたダニーは到底納得できない。
「あんたが…板挟みに苦しんだのは確かに理解できる。でもそんな理由じゃ、俺も…死んだライナスや部隊の連中も浮かばれないぜ。今のあんたの言い分はただの言い訳だ…!今更被害者面しないでくれ!」
ダニーは怒りに任せてルーズベルト少佐に迫る。ルーズベルト少佐は自嘲気味に笑った。
「ダニー…お前の言い分は尤もだ…。ただお前が裏切り者にされたのはあくまでも偶然だ…生き残ったことでお前にその役割が下った。私は命令に従い、お前を始末する為に動いた。お前を裏切り者の罪を被せたのは、キングスカンパニーと上層部だ。最初から誰かがこの役割を受けることになっていたんだ…」
「馬鹿馬鹿しい!!勝手に俺たちを巻き込みやがって!何が「ウロボロスの終末」だ!何が正義だ!ライナスは…俺を庇って死んでいったのに…結局俺たちはただの捨てゴマか!?そのパワードスーツを生み出す為の実験台に過ぎなかったのか!」
ダニーはルーズベルト少佐の言い分を吐き捨て、声にならない嗚咽を漏らした。ルーズベルト少佐はただダニーを真っ直ぐに見つめる。
「ダニー…、私が此処に来たのは、お前を殺す為でもあり、私自身が此処で果てる為でもあった…」
「どういうことだ!?」
ダニーが思わず顔を見上げる。ルーズベルト少佐は苦しそうに咳をしながら続けた。
「ケジメってやつだよ…お前をこんな目に遭わせた責任を取らないといけない。どういう形であれ、お前を殺すか…私がお前に殺されるか、な」
「…下らん…。そんな理由で今まで付け狙っていたのか?」
「私も軍の上層部やキングスカンパニーを快くは思っていない。だが、今はどうすることも出来ない。何とか時間と準備が必要なんだ…あともう少しだけ…」
ルーズベルト少佐が話している途中で無線のコール音が鳴り響いた。海兵隊の情報部からのようだった。




