その12
ナターシャは内戦が続く中米の貧しい小国に生まれたが、幼くして家族を内戦で亡くし戦災孤児となった。一時孤児院に身を寄せたが、周りの大人と反りが合わず7歳で脱走。
以降は少年兵を育成する傭兵部隊に入り、サバイバルから戦闘技術までありとあらゆる兵士として必要な能力を叩き込まれた。非常に過酷な環境下ではあったが、ナターシャにとってはこの傭兵部隊そのものが家族のようであり、数少ない心のよりどころであった。
傭兵部隊はありとあらゆる戦場を巡り、ナターシャや他の少年兵たちも容赦なく戦場へ投入された。何度も死線を掻い潜る中で、いつしか傭兵部隊は「ブラッディ・レイン」の名で知られるようになり、伝説の存在として恐れられるようになっていった。
しかし、今から10年ほど前のある小国を巡る独立戦争において反乱軍に与した「ブラッディ・レイン」を快く思わない独裁者を擁する政府側が「ブラッディ・レイン」殲滅の為にある暗殺集団を招聘した。それが、サザンカ率いる忍者部隊である。
反乱軍の野営にて休息を取っていたナターシャ含む「ブラッディ・レイン」の面々を忍者部隊が急襲。気絶させられたナターシャを除く「ブラッディ・レイン」のメンバー全員がなす術なく斬殺されてしまった。更に「ブラッディ・レイン」の壊滅を機に内戦は政府側の優勢に傾き、反乱軍は完全に鎮圧されてしまった。
その後、ナターシャは命からがら国外に脱出。傷を癒した後に再び反乱軍に合流した。独裁者の豪邸に直接潜入した上で、今度こそ暗殺に成功した。トドメを刺す際、ナターシャは独裁者から「ブラッディ・レイン」を壊滅させた忍者部隊のことを聞き出し、サザンカの情報を得たのだという。
復讐のために各地を転々としたナターシャだったが、サザンカの師匠らしき人物が日本にいると知り約5年前に来日。出会った師匠は老齢で余命幾ばくない状態だったが、弟子であったサザンカの蛮行は耳に入っていた為、サザンカを殺すことを条件に弟子入りを認められた。
剣戟の術を叩き込まれたナターシャは今際の師匠からサザンカを斬るための日本刀を託され、再びサザンカを探す旅に出たのだという。
以降は自身を「ブラッディ・レイン」と名乗り、今回の地下研究施設への潜入においてダニーやMr.ウルヴァリンと出会った-----
「なるほど、「ブラッディ・レイン」の謂れとあの忍者たちを追っている理由が分かったよ。俺が思っていた以上にナターシャ、あんたは壮絶な人生を歩んできたんだな」
「ま、ね。とりあえずこの日本刀を持ってきてくれたことは礼をいうよ、ダニー。師匠の形見であり、サザンカを斬るために必須な武器だからね」
ベッドに横たわるナターシャがダニーに向けて微笑んだ。ダニーは照れ臭そうに頭を掻きながらミス・ジェーンの横に置かれた丸椅子に腰かけた。ミス・ジェーンもナターシャに対して優しい眼差しを向けている。
「ナターシャ、応急処置でいいならすぐに四肢用のサポーターを作るわ。健常時ほどではないけど、ある程度リハビリすれば体は動かせるはずよ」
「そんなことができるのか?もし問題ないなら是非急ぎで頼む」
「任せて。そこにいるダニーより貴女は軽傷だから大丈夫よ」
ミス・ジェーンがニッコリと微笑んでダニーに顔を向けた。ダニーは若干ばつ悪そうな表情を見せたが、素直にミス・ジェーンに同調した。
「そうと決まれば、一旦体を休めることね。逸る気持ちは分かるけど、貴女は自分で思っている以上に疲労しているから無理は禁物よ」
「なあ、ミス・ジェーン……俺も何だか頭が重くなってきたんだが…」
「あらあらダニー。貴方もリハビリ始めで大分無理したわね。ナターシャの隣のベッドが空いてるから少し横になるといいわ。とにかく二人共、無事で戻ってこれたんだから、まずはしっかり休んでね」
そういうとミス・ジェーンが部屋の電灯を暗めにした。ダニーもミス・ジェーンに促された通り、ベッドに横たわる。
「おやすみなさい」
ミス・ジェーンが部屋の扉に手をかけようとすると足元からMr.ウルヴァリンが顔を出した。
「さてストーム。私も疲れたから、そろそろ休ませてもらうよ」
Mr.ウルヴァリンが隣の部屋へ行こうとすると、ミス・ジェーンがMr.ウルヴァリンの首根っこを掴んで持ち上げた。
「勝手にどこに行こうというのかしら?」
「いやいや、私も長旅で疲れたから……」
「ロボットの貴方に疲れとかいう感覚はあるのかしら?貴方に言いたいこと、聞きたいことは山のようにあるのよ?覚悟しなさい」
「やれやれ、休息はしばしお預けか」
Mr.ウルヴァリンは溜め息をついた。そしてミス・ジェーンに持ち上げられたまま、隣の部屋に連れていかれた。




