0082:ボッター怒り狂う
ボッター屋敷に向かったが貴族街の入り口で門前払いをくらった翌日だが、普通に起きて朝食後にギルドに向かった。
ギルドに到着すると、受付嬢と一緒に若い男がこちらにやって来た。
『レイさん、こちらはボッター商会の方になります。』
受付嬢が簡単に紹介をすると、紹介された若い男が
『私はボッター商会会長の息子で、名前はアランと言います。貴方が冒険者のレイさんですね。初めまして。』
「あ、初めまして。確かに俺が冒険者のレイですが何の用ですか?」
『昨日は、貴族街の警備兵が大変失礼しました。昨日は警備兵の失態で会えませんでしたが、我が父がどうしてもレイさんと会いたいと言っておりまして。それで出来れば今日、我が家にお越し頂くことは出来ませんか?』
「昨日、そちらに伺ったのにお会い出来なかったのは、こちらのミスでは無いのですよね? 今日は普通にギルドの依頼を受けたいんですけど。」
『確かに昨日、お会い出来なかったのはレイさんのミスでは無いので、無理強いは出来ないですね。だとすると、ミスをした者を処罰しないといけなくなりますね。』
狡いな、この人は。何となくだが、この人は本当に行動するような気がする。この場合、処罰が何か分からない。首にするくらいなら良いのだが、この世界だと処刑すらありえそうだ。
………
………
………
無言の応酬だが、アランは折れそうに無いな。
「ふぅ~っ、アランさんでしたっけ? 貴方は狡い人ですよね。分かりました。もう一度だけ会いに行きますね。」
『ふふふ、これでも商人の息子ですからね。多少は狡くなる時もありますよ。しかし、レイさんは優しい人ですね。』
「別に優しいわけじゃないですよ。何となくですよ。」
もし警備兵が処刑でもされたりしたら俺の目覚めが悪いだけだ。決して優しさでは無いと思う。
『そういうことにしておきますよ。では馬車を用意してありますので、早速我が家に行きましょうか。』
「ちなみに行くのは俺達全員でいいんですよね?」
『はい。もちろん、問題ありませんよ。』
ギルドを出るといつの間にかギルドの入口に1台の馬車が止まっていた。アラン自らが馬車の扉を開いて
『どうぞ、お乗りください。』
アランに礼を言って先に馬車に乗り込んだ。馬車は少しだけ空間拡張された箱馬車だが、俺達とアランが乗って一杯になった。
馬車の中でアランと少しだけ会話をした。手始めにボッター商会のことを聞いてみた。ボッター商会は、このダンジョン都市の武器の流通を取り仕切っているとのこと。これは以前、ギルドの受付嬢からも聞いている内容と同じだ。
なのでボッター商会を敵に回すと、この町では武器を買えない可能性があるということだ。
『なので、ボッター商会は冒険者達から嫌われているんですよ・・・』
「分かっているなら、止めれば良いのでは?」
『ははは、それが中々上手くいかないんですよ・・・』
アランも苦労しているようだな。馬車が止まった。ボッター屋敷に到着したようだ。アランが最初に馬車から降りて俺達を出迎える。俺達も馬車から降りた。
『レイさん、ようこそ。ここがボッター商会会長の屋敷になります。』
アランを先頭に屋敷の中に入っていく。これが商人の屋敷なのか? あまりにも立派過ぎて言葉が出ない。
『はぁ、凄い立派な屋敷ですね、旦那様。』
『凄く大きいですね、主様。』
アランがボソッと
『商人にはちょっと立派過ぎる屋敷ですよね・・・』
そのまま屋敷の中を進み、豪華な扉の部屋の前で立ち止まった。
『この部屋の中に、私の父上でもあるボッター商会の会長がいます。』
アランが扉をノックすると
『入って良いぞ。』
と野太い声を聞こえた。
『はい。失礼します。』
アランが扉を開けると、豪華な部屋の中の豪華な椅子に座った太ったオッサンがいた。豪華な椅子の前に豪華なテーブルもある。完全に成金趣味満載の部屋だった。とりあえず、挨拶だけはしようか。
「初めまして。私は冒険者の、」
自己紹介をしている最中にボッターは右手を上げて、俺が喋っているのを止めさせた。
『よい、お前の話を聞きたくて呼んだわけじゃない。ふむ、確かにお前の奴隷達は噂通りにそこそこの見た目じゃな。』
は? そこそこ? そんなことは無い。全員、間違いなく凄く綺麗だ。何なんだ? この太ったオッサンは、自分の姿を鏡で見たことが無いのか? なんでそんな偉そうなことが言えるのか?
『あと、お前、かなり良い武器を持っているようだのう? 見せてみろ。』
渋々、俺はアイテムボックスから神刀ミロを取り出した。
『ふむぅ、変わった形状をした武器じゃが、確かに優れた武器なのは間違いないようだな。』
見ただけで神刀ミロの凄さが分かったのか。デブなオッサンのくせに武器を見る目だけは凄いのかも知れないな。
『よし、お前の奴隷とその武器を置いて帰っていいぞ。』
「は? 何を?」
太ったオッサンは右手で、シッシッと俺を追い返そうする仕草をする。この太ったオッサンが何を言っているのか意味が分からず、俺は少しの間、思考停止状態になった。
アランはすぐに言っていることを理解したようで
『父上、さすがにそれはどうかと・・・』
『黙れ! お前は儂の言うことに口を挟む気か? お前はいつからそんなに偉くなったんだ?』
アランは顔を下に向けて黙ってしまった。この段階になってようやく俺も何を言われたか理解出来た。そして理解が出来た瞬間に怒りが込み上げて来た。
この豚はなんて事を言ってくるんだ。間違いなく万死に値するな。神刀ミロを右手に持ったまま、一歩踏み出した瞬間にアイリーン達が俺の身体にしがみついた。
目の前の豚は、俺が殺そうと思って一歩踏み出したことに気付いていないようであり得ないこと言ってきた。
『そうか金か? なら大金貨30枚やろう。それなら文句は無いだろう?』
目の前にいる豚は俺が金を欲しがっているとでも思っているのか。
「………白金貨1億枚積まれてもアイリーン達はもちろん、この武器も売りませんよ。」
『は、白金貨1億枚じゃと? 舐めておるのか、小僧! 儂を誰だと思っているんじゃ?』
「あんたが誰かなんて知ったことじゃない!」
豚の目の前にあるテーブルを神刀ミロで粉々に切り刻んだ。豚は唖然としている。
「これ以上、俺達にちょっかいを出すようなら、次に、このテーブルのようになるのは、あんただ。」
神刀ミロを豚に向けて言い放った。豚は脂汗がだらだらと流れている。
『こ、小僧。誰に向かってそんな口をきいているのか分かっているのか?』
「さあね? じゃあ、これで帰らせてもらいます。」
あまりの怒りに身体をプルプルと震わせている豚を無視して、俺達はボッター商会の屋敷をあとにした。そして、アイリーン達からは
『ご主人様、あれで良かったんでしょうか?』
『旦那様、凄く格好良かったですよ。』
『うんうん、格好良かったよ。主様。』
『レイさん、ちょっと今後が心配ですね。』
『レイくん、凄かったよ、本当に。』
今後を心配するメンバーと称賛するメンバー達がいる。それぞれの性格が出ているな。
しかし、今回は本当に怒りで我を失うところだった。直前で止めてくれたアイリーン達に感謝だな。
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『クソッ、たかが冒険者風情のくせに儂に武器を向けおって。儂に楯突くと、どうなるか思い知らせてやらんと。』
『父上、止めておきましょう。手を出さないほうがいいです。』
『ふざけるな! この儂が低ランクの冒険者ごときに舐められたままでいられるか!』
『ですが、彼らは多分すぐにランクが上がる冒険者だと思いますよ。なにせ、オークキングを倒せるほどの実力者です。』
『な、なに? オークキングを倒したのか? あいつらがか?』
『はい。少し前にあったオーク討伐でオークキングを倒したそうです。しかも彼らだけで倒したようです。』
『オークキングといえば、ランクBモンスターのはずだが?』
『はい。その通りです、父上。なので彼らはランクBクラスの実力者と考えるべきです。』
『ぬぅぅ、なら直接、刺客を差し向けるのは得策じゃないな。ならば全ての武器屋に連絡してあやつらと取引をしないように連絡をしろ!』
『ち、父上。それでは・・・』
『黙れ! これは決定事項だ! 儂に楯突くとどうなるかをしっかりと教えてやらんとな!』
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