心地好いもの
そんなこんなで、白蓮達が九ヶ月を越えた。
早産になる可能性を考えれば、もう何時産まれても可笑しくはない時期に入る。
まあ、俺が付いていますから早産の可能性は低い。
伊達に“華佗”の名を継いではおりませぬ。
──とまあ、そんな訳でして。
愛紗を始め、月・春蘭・秋蘭、そして冥琳。
この五人が第二陣として妊娠を目指す訳です。
春蘭と秋蘭は話し合った結果、「一緒に」という事だったので今回になりました。
次回──第三陣に回って貰っても良かったんですが夏侯家の復興の為には早い方が良いですから。
…まあ、秋蘭の方が先に妊娠・出産してくれる事を密かに期待していたりはしますが。
それは春蘭の名誉の為、口には出しません。
原作の夏侯惇に比べたら宅の春蘭は増しですから。
ただ、それでも不安が拭えないのも春蘭でして。
春蘭らしいと言えば、春蘭らしいのでしょうけど。
「先延ばしにして悪いな」
「仕方無いわよ、私の場合は色々と難しいもの…
それよりも華琳は入れなくて良かったの?」
「いや、流石に十四歳で出産は早いだろ?」
「そう?、時代的・社会的には珍しくはないわよ
早いと十歳で出産しているケースも有る位だし」
「他人事なら色々言えるけど、我が事となるとな…
だから、せめて十五歳になってからだ」
「…出産時には早くても十六歳目前位って事ね
まあ、前世の道徳観とかも有るでしょうしね」
「するだけだったら、それこそ十歳が相手だろうと御互いに本気の恋愛感情が有れば構わないけどさ、流石に妊娠・出産に関してはなぁ…
俺の場合、師匠の跡継ぎっていう事も有るから尚更そういう部分には慎重になり易いんだろうな」
「……貴男の場合は素でしょう…」
咲夜の呟きはスルーしながら窓の外を見詰める。
別に嘘ではない、それも理由の一つだ。
ただ、やはり一番大きい理由は母さんとの死別だ。
それだけに、「母子共に健康に」が第一になる。
…それはまあ?、華琳に関しては論外だろうけど。
何しろ華琳は特典持ちの俺が幼少期から育て上げたリアルガチチートさんですからね。
第一陣で妊娠・出産していても問題有りません。
しかし、それは華琳だからなんです。
凪や恋、穏に雛里の事を考えると………ねぇ。
あ、真桜に関しては大丈夫です。
勿論、欲しいという意思は確認していますが、今は仕事等に注力したいそうですから。
そういう意味では前世の働く女性達みたいな意識や価値観をしているんだと思います。
穏は言わずもがな、恋の場合は本人が精神的に未熟ですからね、まだまだ早かとです。
「──にしても、十六歳で四児の父親か…
十六歳で実質的な嫁さんが十人以上居るのとだと、何方が凄い事なんだろうな」
「寧ろ、それだけ奥さんが居るから、子供も出来る可能性が有るんじゃない?」
「それもそうか…嫁さんが一人で十六歳で四人って四つ子以上か、十二歳から毎年産んでないと無理な人数だもんなぁ…」
「…と言うか、一気に子供が四人も出来る割りには落ち着いてるわよね…
まあ、華琳を始め子育て経験は有るんでしょうけど自分自身の子供は初めてよね?
前世では未婚だったんだし」
「あー…それはまあ、何て言うかだな…
………前世だと、子供を欲しいと思う気持ち自体、かなり希薄だったと言えるんだけどさ
こういう時代、世界に生まれ変わって生きてきて、如何に子供という存在が大切なのかを知った…
だから、子を成す時には、気持ちが出来ている上で母親となる相手も望んでくれるなら…
──って、まあ、そんな感じだからだろうな」
そう言って──恥ずかしさから誤魔化す。
勿論、父親となる事に恥ずべき気持ちは無い。
ただ、俺自身は中身は合算すると三十後半だけど、今の肉体に意識は引っ張られている為、青臭い。
つまり、そういう事を真面目に言う姿を客観視して照れ臭くなってしまったから。
それだけでしかない。
──が、そんな俺の反応を見て咲夜が抱き付く。
「…そんな事言うのは卑怯よ」と間近で真っ直ぐに見詰めて囁きながら──唇を塞いでくる。
その言動が何を意味するのか。
ええ、万事解っておりますとも。
妻の想いに応えるのが、夫の務め──愛ですから。
そんな感じですが、特に大きな変化は有りません。
勿論、出産・育児・現場復帰に向けた準備等は当然有りますが、以前から遣っている事ですしね。
「──あっ!、亞莎、アレは何でしょうか?」
「アレは……えっと、“馬鈴薯の薄揚げ”です
忍様が考案された料理ですよ
おかずとしても、御菓子としても切り方・揚げ方で用途に合わせて調理出来る為、大人気です
馬鈴薯は大量に生産し易いので安定して安価なので貧困や飢餓に苦しんでいた人々の生活を支える事に一役買っているんですよ」
「流石は忍様です!」
──と、ぽむっと手を合わせて感嘆する明命。
それ自体は照れ臭いが、決して悪い気はしない。
尚、二人とは真名を交換し呼び合ってはいますが、それだけでして、まだ致してはおりません。
ええ、まだですよ、ええ。
まあ、それは兎も角として。
所謂、“ポテチ”とフライドポテトだけどね。
そう言っても咲夜以外には知らない訳です。
ええ、この時代に特許法なんて有りませんし、抑、料理には唯一、そういった概念も有りませんから。
だから俺が時代の先駆者だったとしても無問題。
早い者勝ち、遣った者勝ちですからね。
そんな明るく、戯れ付いてくる仔犬みたいな明命は兎も角として──のぉ?、亞莎さんや。
俺とでなければ、随分と饒舌ですなぁ?。
しかも、俺の話だと物凄く嬉し楽しそうに話す姿を何故、俺には見せられないので御座ろうか。
ねぇ?、其処ん所、どう思っておられますの?。
──なんて事を思っても、決して出しはしないし、亞莎に悟らせもしない。
これは所詮、俺の愚痴でしかないのだから。
…ただね?、俺としては寂しいんですよ?。
それだけは伝わって欲しい気持ちは感じとね?。
「まあ、亞莎だし、仕方無いんじゃない?
貴男の事を嫌ってる訳じゃなくて、その真逆だから真っ直ぐ見られないんだもの」
「判ってるんだけどな…その心理が理解し難い」
二人を見守る様に距離を置いて歩く俺の隣に並んだ咲夜から若干の呆れを含んだ言葉を貰う。
「貴男って変な所で愛妹紳士よね…」と。
そう語っている咲夜は正しく俺を理解している。
一つ下の凪達は妹よりも後輩感が強いし、二人共に俺とは師弟関係の意識が強いからな。
だから妹という認識は意外と薄い。
しかし、華琳が居るから二つ下からは一律で妹。
雛里にしたって、嫁入りと共に妹入りだった。
当然だが、亞莎にしろ、明命にしろ、俺の妹だ。
愛紗達の様に同い年以上は家族であり、嫁だ。
はっきり言って姉という認識は俺の中には無い。
だって、中身の累積年齢で言えば年下だもん。
だから、母さん位じゃないと“お姉さん”と認識は出来無いんですよね、これが。
そんな俺の姉無し妹有り価値観は置いといて。
亞莎の事です、亞莎の。
好きな相手や尊敬する相手と面と向かって話すのが恥ずかしいというのは理解が出来る。
少なからず、そういう経験は俺にだって有る。
…まあ、それも前世での話なんですけど。
でもね?、それも慣れてくるものでしょう?。
亞莎さん、貴女、宅に着てから其処其処ですよ?。
もうそろそろ慣れても良い頃なのでは?。
──と、口を開けば出そうになってしまう。
ある意味、俺にとっては初めての義妹です。
恋の様なタイプの方が格段に楽でしたよ。
………いやまあ、華琳は別格ですけどね、ええ。
それでもまあ、俺以外とのコミュニケーションには一切問題が無いので構わないんですけど。
布教熱心な教祖でさえ「時間が掛かります」と。
そう言い切った位だからなぁ…。
──と言うか、布教せずとも自ら入信して来るから華琳でさえ御手上げ状態なんだが。
「それでも明命が来て良かったみたいね
やっぱり、同い年の娘が居ると精神的に違うもの」
「お前でも、そうなのか?」
「んー…まあ、否定は出来無いわね
私の場合でも、愛紗の存在は大きかったし、愛紗も私が加わってから変わった面も有るでしょ?」
「ああ…それは確かにな」
決して特筆する様な大きな変化ではない。
しかし、咲夜が言った様に、咲夜が加わってからは愛紗も肩の力が抜けたと言うか。
華琳や梨芹との関係とは違う意味での関係を持てる相手が出来た事で、良い意味で砕けたのは確かだ。
…まあ、その分、公私の減り張りがはっきりとして仕事中の真面目さが強化されたけどな。
梨芹にしても白蓮や春蘭達の存在の影響は有るし、紫苑達の様に更に上が加わった事も大きい。
それは華琳達にも言える事で流琉達の様に更に下が増えた事で精神的にも成長している。
下の子供が出来ると、上の子供は不満を懐く。
だが、その一方で責任感や自立心が養われもする。
その辺りを見極め、上手く促すのが親の役目だが、親自身が経験していないと解り難い事でもある。
そういう意味では兄弟姉妹が多い場合、上側の子は自分に子供が出来ても自然と察せたりする。
勿論、個人差が有る事なので必ずしも誰もが出来るという訳ではない。
ただまあ、亞莎に限って言えば。
明命が来た事で影響を受けているのは間違い無い。
それは気持ちに余裕が出来たりするだけではなく、好敵手への対抗心という意味でもだ。
基本的に明命は礼儀正しいし、人見知りもしない。
まあ、直ぐに誰とでも仲良くなっていた問題児中の問題児、原作の“小覇王”様程ではないが。
それでも気後れしたりしないから馴染むのが早い。
実際、既に先に家族となった亞莎よりも知り合いが多いというのは素直に感心する所だ。
そういう意味では、探偵・スパイ的な資質は高いと言えるのではないだろうか。
………いかん、「犯人は貴方です!」と決め台詞と決めポーズの明命が頭に浮かんでしまった。
妙に可愛い名探偵さんが、「ぁぅぁぅ」言いながら難事件を相棒の御猫様“蘭丸”と解決。
平均視聴率13.3%、第11シーズンに突入し、新レギュラーとして第8シーズンで登場した憧れの関先輩の妹だった亞莎ちゃんが加入。
犯罪結社“玄埜蘇党”が本格参戦。
次回、王都激震!、新探偵社の華麗な登場!。
混迷極める漢王国に燦爛たる桜吹雪が舞う。
────ハッ!?、お、俺は一体今まで何を…痛っ…あ、頭が………くっ……明命、恐ろしい娘っ…。
いやいや、そんな馬鹿事遣ってないで。
明命は俺に対して普通に甘えたりしてきます。
冥琳との関係や距離感も以前よりも近くなっていて御互いに気を張っていた部分が良い感じに緩んで、ぐっと姉妹仲が深まっていますからね。
…まあ、少々過保護な冥琳が、明命には早い知識を植え付け様としていたのは問題ですけどね。
その辺りは俺も愛妹紳士として動きます。
可愛い妹の健全な成長はワタシが守るっ!。
愛妹戦隊シスコンジャー、シンシレッドがなっ!。
「居ないわよ、そんな戦隊ヒーロー
──と言うか、変態ヒーローの間違いじゃない?」
「ノーッ!、チッ、チッ、チッ…判ッテマセンネ
我々ハ、ロリコンデハナク、シスコンデ~ス
イエス、シスター!、ノータッチ!
ウィーアー、シスター・ガーディアンズッ!!」
「はいはい、そうでした、そうですねー」
遣る気の無い肯定意見を重ねる咲夜。
其処で、俺は咲夜を拉致し、その愛を篤と説く。
しっかりと、身に刻んで頂きますとも。
「──馬鹿っ、鬼畜っ、変態っ、絶倫っ…」
我が愛を理解し、改心した咲夜に愚痴られながら、二人の様子を見に戻る。
腕を取られ、抓られていますが気にしません。
ええ、愛に痛みは付き物ですからね。
それは兎も角、明命が俺と普通に親しくするので、亞莎も負けじと頑張っている訳です。
可愛い妹の微笑ましい嫉妬と負けず嫌いさに。
兄は一殺です。
とある義妹の
義兄観察日記
Vol.21
曹操side──
△月□▼日。
楽浪郡を手中にし、冥琳と明命という妻も得て。
御兄様の築く楽園は着々と拡大を続けている。
今回の件では特に冥琳の存在が大きい。
彼女は御兄様も認める才器の持ち主。
けれど、自らが主君として立つ王の器ではない。
その王を支える王佐の器。
そう、御兄様という主君を、夫を得てこそ。
彼女の才器は真の能力を発揮し、花開く。
その事を御兄様は見抜かれていたのですね。
だからこそ、最初から彼女を娶ると決めていた。
嗚呼、流石は御兄様です。
その御姿を思い浮かべるだけで五回は軽いです。
「──せやけど、華琳はえぇん?
愛紗姐さんは入っとるんやろ?」
そう御茶をしながら話し掛けてくる真桜。
話題は言わずもがな、御兄様との子作りの件。
まあ、普段の私の言動からすれば、此処で御兄様に御強請りするのが想像し易いのでしょうけれど。
それでは先見の明が無いと言っているのも同じよ。
如何に軍将・技術者の仕事が中心だとは言っても、もう少し想像力を鍛えないと駄目よ、真桜。
──とは言え、それを口にはしないけれど。
自ら考えて、それに気付かないと駄目だもの。
貴女も御兄様を支える一柱なのだから。
しっかりと悩んで成長しなさいね。
「別に欲しくない訳ではないわ
ただ、今は時期尚早なのも確かだもの
それよりも貴女達こそ入らなくて良かったの?」
「あー…ウチは今は仕事に集中しないしな~
勿論、師匠との子供は欲しいし、早い方が仕事にも集中出来そうなんやけど…」
「…けど?」
「ウチ、子供が出来たら出来たで子供中心に変わる様な気がしてんねんなぁ…
何やかんや言ぅてても、家族が一番っちゅう部分は師匠と同じやからなぁ…」
…成る程ね、確かに、そうかもしれないわね。
勿論、私や愛紗達も子供達の事は大事よ。
ただ、公私を割り切れる私達と、何方等かに比重が傾いてしまう真桜の様な質に分かれるのも確か。
ある意味では、器用・不器用が出る所ね。
「凪はどうなの?」
「………私も時期尚早だと思っています
子供は欲しいですが、まだまだ親と成るには自分が未熟である事は理解していますから…」
「──んで、本音は?」
「今は子供を産むよりかは、もう一~二年は忍様に思う存分に可愛がって頂きたいです」
「おぉ~…凪も言う様になったわ~」
「…そう言う真桜こそ、顔が赤いぞ?」
「ぅっ…こ、これは…ちょっと暑いだけやし?」
ふふっ、ええ、本当にね。
でも、そんな言ってから照れている凪も可愛いし、揶揄いながらも想像して期待して顔を赤くしている真桜だって同じ位に可愛いわよ。
勿論、私だって負ける気は微塵も無いけれど。
同じである必要なんて無いもの。
私には私の、凪には凪の、真桜には真桜の。
各々の魅力が有り、御兄様を楽しませる。
それで良いのだから。
──side out