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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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61話 身悶え苦しみ


“験担ぎ”として、人は過去に成功した時と同様の何かを行ったり、身に付けたり、使用したりする。

だが、果たして実際に効果は有るのだろうか。


勿論、精神(メンタル)的な意味は有るだろう。

精神状態を、集中力・冷静さ・モチベーション等のコントロールという意味でならば。

そういった切っ掛け(スイッチ)を持つ事は有用である。

セルフ・コントロールをする上では特に。

ただそれはスポーツ選手のルーティンに代表される様に特定の行動や生活習慣で十分な事。

一つ、或いは一連の決まり事を作る事で自分自身を制御する為に用いる事なのだから。


勿論、そういう意味では験担ぎは可笑しくはない。

ただ、そうなると縁起の良し悪しは関係無い。

それでも人々が“縁起の良い験担ぎ”をするのには自分以外の何かに縋りたいからに他ならない。


そして、それは宗教といった思想媒体に縋っている人間という種の特有の依存性質の現れでもある。

自分ではない、理論的には説明出来無い。

そういった存在に自分では出来無い可能性を求め、心の拠り所として、根拠の無い安心感を得る。


客観的な言葉にしてみると、可笑しな事だろう。

だが、それが人々の心を支えているのも事実。

例え、どんなに儚く、愚かしく見えようともだ。


ただ、そうだとするならば。

人々にとって大事な存在とは、現実には存在せず、思想や空想の中にのみ存在する、と。

そう言う事も出来るのではないのだろうか。


勿論、それは極論であり、一考に過ぎない。

全ての人々が、そうではない様に。

信じるもの、縋るものは異なるのだから。



「クククッ…不様な姿だな

彼の英雄も所詮は人の子に過ぎない、という事か…

まあ、それも真の支配となった我が前では当然…

さあ、長き戦いも終幕だ、己が冥福を祈れ」


「──祈り?、そんな物で人が救えるかっ!

どんなに不様だろうと構わねえっ!

俺は!、この手を伸ばし、掴み取るだけだーっ!!」



──と、超熱血系主人公の様な台詞を叫びながら、敵陣へと突っ込んで行くのは舞台上の男性役者。

ラスボスっぽい台詞を吐いていた人が居ましたけど俺的には使い古された古典的な台詞ですね。

もう少し捻りたい気持ちが強いです。


まあ、それは別に構わないんですけどね。

何?、この“徐恕義勇伝”って演目名は。

いや、判るよ?、要するに俺の話だって事はね。

でもね?、俺、そんな厨二病な台詞を叫んだ記憶、微塵も御座いませんけど?。

そんな思考のまま、手元に有る小冊子──極一部の面々にのみ配られているパンフレット擬きを見る。

パラパラ…と捲っていくと──原作者の名が。


徐恕義勇伝、原作──曹操(・・)

…うん、判ってたよ、うん、予想通りでしたとも。



(犯人は御前かあぁああぁーーーーっっ!!!!!!!!)



上演中だから大声を出せないのを良い事に、此方を見て得意満面の笑みを浮かべる我が妹(華琳)

よもや、この俺の目を、耳を、糸を掻い潜り、裏で暗躍していようとは………遣ってくれるわっ!。

──という気分には流石に為れません。

………はあぁあぁぁ~~~~~~~~~…………。

………演目自体は面白いんですよ、本当に。

自分が、その題材として扱われていなければ。

純粋に楽しめるんですけど………ねぇ…。


薄暗い天井を見上げながら、頬を汗が伝う。

きっと、それは人々の笑顔を咲かせる恵みの雫。

──そうとでも思ってないと見てられないわっ!。

酒持って来んかあぁーーーいっ!。

飲酒・飲食禁止だから無理だけどなっ!。






ひひゃひゃ(如何)へひひゃひゃ(でしたか)ほひーひゃひゃ(御兄様)?」


「演目名と主人公の名前以外は良かったな」


ほほひゃひゃんひん(其処が肝心)へひゅひゃひゃ(ですから)



約一刻──二時間の観覧を終え、劇場を出た。

併設されている飲食店・商店街の一角にある甘味処の予約限定個室にて一息入れながら話す。

両手で頬っぺたを思い切り引っ張って遣っているが反省する気など微塵も見せないのが華琳である。

悪びれもせず、平然と感想を訊いてくるのだから、その肝っ玉の極上振りは言うまでもない。

もしも、この華琳の肝っ玉がフォアグラだったなら1㎝角の欠片で国が買える値が付く事だろう。

いや、冗談じゃなくて、本当にマジな話でね。

──と言うかね、普通なら疾うに止めてますって。

前科何犯?、もう数えるのも面倒な位です。

それでも懲りずに度々執筆活動を続けていますが…まさか、こんな所にまで魔の手を伸ばしていたとは思ってもいませんでした。


しかし、こっそりと観劇していたとはいえ、演劇に関わっている者達は責められないし、観客の反応は客観的に見ても良かったと言える。

…うん、客観的に見れば、確かに面白い事は確か。

それだけは、悔しいが間違い無かった。

ただ、素直に華琳を誉めたくはない俺が居る。


本格的な大衆娯楽として“劇場”の建設・運営案を出し、決定し、実行したのは…俺なんですけどね。

そして、本日が柿落としだった訳でして。

まあ、オーナーという意味では俺──宅なんですが一応は大衆向けなので「堅苦しい挨拶等は不要」と考えての御忍びだった訳です。

決して、あーだこーだと偉振っての挨拶をするのが面倒臭いという訳では有りませんから。

ええ、大衆向けなんで、配慮しただけです。


──とは言え、運営は劇団に任せているから演目の内容なんて事前にチェックはしませんでした。

余程過激だったり酷い内容でもない限り、別に規制したりはしませんからね。

俺としても「どんな作品になるかな」と考えて待つ時間自体も楽しみでしたから。

ええまあ…だからこそ、華琳に遣られた訳ですが。


…ああ、因みにですが、施設名は“天華大劇場”、劇団名は“天華歌劇団”です。

女性のみ、地下に秘密基地が有る、といった設定も事実も一切存在しておりません。

ただ、妥当な──判り易いネーミングを考えたら、そうなったというだけなので。

まあ、それでも、この現世では史上初かもしれない演劇専用施設と企業形式の演劇職ですから。

注目度の高さは満員御礼を以てすれば明らか。

滑り出しとしては、まずまずと言えるでしょう。

ええ、公演・興行・企業として見ればね。



「演劇だから多少の脚色・誇張は仕様でしょう?

それに、主役の台詞なんかは貴男の性格や価値観を深く理解した上で、判り易くしているだけだもの

私達から見たら大して違和感が無かったわ」


「……………………………………え?、マジで?」



咲夜の言葉に思考停止(フリーズ)し、再起動してから妻達へと視線を向ければ揃って頷かれる。

錆び付いた機械の様に顔を華琳に戻せば──渾身のドヤ顔をしている愛妹が居りましたとさ。

…マジかあぁ………俺、あんな(・・・)感じなんだ…。


華琳の頬っぺたを解放し、一人で落ち込む。

客観的に見た感じが、自分のイメージと違った時、人は想像以上のダメージを負う事になるのだ。

──的な解説ナレーションが入りそうです。



「咲夜の言った様に演劇用に誇張されてはいますが忍の人柄や価値観としては的外れでは有りませんし少し見方を変えれば、似た様な事はしています」


「多分、その辺りは本人よりも私達の方が判ってる事だから余計に認識に差が出るんだろうな」


「そうじゃのぅ…得てして己の事は己が一番見えず判り辛いという事でも有る事じゃしのぅ」


「…まあ、当の本人に主張する意思が無いが故に、認識がズレるのだろうがな

ただ、演劇としての出来は素晴らしいな

見ていて思わず我が事の様に重ねてしまった」


「そうですね、演劇的な演出とは言え、そういった激しさを持つのが忍さんですから…」


「…兄、格好良い」


「…兄様、素敵です…」



思い出し、肯定をする愛紗・白蓮・祭・冥琳・月の感想が俺の心を突き刺す。

恋と流琉の無垢な尊敬と憧憬が痛いです。

──と言うかね、穏・璃々・亞莎・明命?。

貴女方は何故に泣け(・・)ますので?。

何処に泣き処(・・・)が有りましたかっ?!。

俺には泣ける様なシーンが有った様には一瞬も思い当たらないんですけどっ?!。

しかも、まだ号泣してるって………何~故~っ?!。

…まあ、ツボ(・・)は人各々でしょうけど。


ただまあ、これ以上は華琳にも文句は言えない。

皆の言う様に、確かに俺の思考や価値観を反映した主役の言動だった事は否めないからだ。

それは一番長く、一番近くで俺の事を見てきている華琳だからこそ出来る事だと言える。

勿論、華琳自身の文才・芸術的センス等も含めて、華琳だったからだと言えるのだが。


しかしながら、それはそれ、これはこれだ。

改めて言うが、今日は柿落としだ。

そして、初公演の初日(・・・・・・)でしかない。


俺の運営方針で一演目の公演は最大一ヶ月。

まあ、今回だけは特別で初公演という事で二ヶ月のロングランだったりしますが。

準備期間は公演期間・内容により、一~三ヶ月。

年二回、二週間の長期休暇が義務付けて有りますが公演中の休暇は有りません。

ブラックじゃ有りませんよ?。

御代を頂く以上、そうまでしてクオリティーを維持・向上していかないと、御客は離れますからね。

奇抜な演目を遣ればいい訳では有りません。

地道な努力・研鑽こそが、プロフェッショナル精神なんだって俺は思うんですよね。


──でまあ、そういう事ですから、最低でも一年に六回の公演が有り、一演目が上演される訳です。

最悪、来年まで徐恕義勇伝が上演される可能性も。

いや、勿論、絶対に遣らせませんけどね。


ただ、この徐恕義勇伝なる演目は初公演ですから、今日から最低でも二ヶ月は上演される訳です。

台風とか疫病とかで中止に為らない限りは。

……あー…いや、疫病で中止には為りませんね。

だって、俺が治して、病原体も駆逐しますから。

つまり…まあ、そういう事なんですよ。

今日から二ヶ月は、俺は晒し者にされる訳です。


そして、あの華琳が単発で終わる訳が有りません。

恐らく──いや、間違い無く、シリーズ物です。

既に次次次回辺りを狙って動いている筈です。

だって、俺が華琳の立場だったら遣りますもん。

尤も、華琳は布教の為、俺は収益の為ですが。

そんな裏の事情は民衆には関係有りませんから。

要は楽しければ良いんです。

御代を払うに値するなら、リピーターは付きますし演目自体も再演されるでしょうからね。


そして何より厄介なのが、既に俺には華琳の野望を止める術が無い、という事だ。

柿落としまで演目名が完全守秘されていたが故に、民衆の期待値も高く、好評価を得てしまった。

つまり、続編への期待は劇団側からも、民衆からも出て来てしまうのは必然だと言える訳です。


…しかし…しかしだ…和菓子洋菓子駄菓子菓子!。

俺は決して一人では滅びはしないっ!!。

今、他人事の様に話している愛する妻達よっ!!。

我が身に降り掛かる羞恥プレイの味っ!!。

孰れっ…孰れ必ず味わって貰うからなっ!!。

その日を楽しみに待って居るがいいっ!!。

クァーッファッファッファッファーーッッ!!!!!!。




──とまあ、それは置いておくとして。

劇場・劇団自体は娯楽施設として期待が出来る。

将来的にはライバル劇団とか出来そうだしな。

一郡に一劇場・一劇団で、人気団員でコラボしたりW主演で巡業させたりするのも有りでしょう。

最終的には宅の直営からは離れて────いいや、それは危険だな、うん、危険危険。

そんな事したら、俺の影響力が無くなる。

無くなれば──華琳()の思うが侭に。

勝利の高笑いをしている女帝化した姿が思い浮かび──似合い過ぎてて笑えない。

これが原作の袁紹や袁術だとコメディーなのにな。

華琳だと…マジで笑えない。


それでもまあ、皆が楽しめているなら成功か。

…俺は素直に楽しめませんけどね!。

今夜は覚悟していなさい、華琳。

この胸に抑えし兄の猛り、篤と味わうがいい!。

……………アレ?…悦んでる姿しか想像が…いや、そんな馬鹿な事が………な、何故だっ?!。

──って、そうですよね、ええ。




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