青春
そんなこんなで日々は過ぎていき……
とうとう抜こうと思わなくなる日が来た。
あれからリハビリを繰り返し、普通の生活に戻っていた。
普通にサラリーマンとして勤め、特に期待されることも、残念がられることもなく、日々をおくった。
母親と父親に先立たれ、天涯孤独となった俺。
相変わらずパチンコには通っていた。だが、それも数年前までのことだ。
今はヘルパーさんが回ってきて、そのときに話をするくらいで、あとは誰もしゃべる相手はいなかった。
あの時のことは夢だったんだ、と納得した。
それからは思い出すことも時々あったが、いい夢だったな……と思うだけで、徐々に記憶がなくなっていった。
坂井に会いたい……そう思うのはいつものことだが、今回はミキちゃんと松永にも会いたくなった。
ダブルデートなんて、青春だったな。
思い出すのはいつも、坂井が松永とふざけあって笑っている笑顔だった。
坂井はいつも楽しそうに松永とふざけあっていたっけ。それをミキちゃんと二人で見て幸せに浸っていたっけ。
そうそう、ミユキちゃんはどうしてるかな? 受験前に塾で会ったきり、そのままだ。
こうして思い返しても、夢とは思えない日々だった。たくさん汗と涙を流して、そのぶん笑って。
今じゃこうして、八十年の日々をただただ過ごすばかりだが、あの夢には感謝していた。
俺にだって誰にも負けない青春があったんだ、と豪語したいと思った。
それは一瞬の出来事だった。
俺は身体に異変を感じた。心臓が痛い。
ちょうどヘルパーさんが来ていたので、やっとのことで声をあげた。
「心臓が痛い!」
ヘルパーさんが、
「救急車、すぐに来ますからね!」
と叫ぶ中で俺は意識をてば……な……した……
次に起きたときには、病室で、自分が寝ている姿を見下ろしていた。
横には泣いているヘルパーさんがいる。
俺の顔には白い布がかけられていた。
俺は死んだんだ……
そう思うと一気にビジョンがかわって、心配そうに上から見ている坂井の姿があった。
「ごめんな、痛かったよな」
おぉ、まさかのあの続きの瞬間にもどったらしい。
奇跡ってのはこうして起こるらしい。
俺は、
「会いたかった……」
と言って坂井に抱きついた。その様子から異変を感じ取った坂井は、
「なにがあったの?」
と優しく髪を撫でてくれた。
俺は、気をうしなってから今までのことを、包み隠さず洗いざらい全てを話した。
「辛かった……?」
「ううん、それなりに幸せだったよ」
「それならよかった。よくここに戻ってきてくれたね。ありがとう」
「ありがとうなら私が言うべきだよ。ありがとう」
そして俺は坂井に抱き締められた。
夢にまで見た……いや、夢では見られなかった空間に、俺はいた。
「あとでミキちゃんとミユキちゃんにも会いに行かなきゃ」
「そうだね」
坂井は俺の目を見つめると、甘い、長いキスをした。
俺の青春は、はじまったばかりだ!
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