夢だった?
それからというもの、一週間頭痛に悩まされた。痛み止めなど効いていないんじゃないかと思うほどひどかった。外側の痛みもさることながら、頭の中の痛みがひどかった。
一週間、学校もバイトも塾も休んだ。
ミキちゃんとミユキちゃんは心配して家までやって来た。
もちろん坂井もだ。
母は男の子がお見舞いに来たからといってやたらハイテンションになった。
一番最初に来てくれたのはミキちゃんだった。
「ユウ〜無事でよかったよ〜」
半泣きになりながら言うミキちゃん。ごめんね、俺がドジなばっかりに……
ミユキちゃんは坂井から話を聞いたと言ってくれた。
「もう大丈夫?」
「う〜ん、まだ大丈夫とは言いがたいかも……」
めまいは治まったのだが、いかんせん頭痛が。
坂井が来たとき、ちょうど母は休みで家にいた。
「まぁ! ユウのお友達??ぜひあがっていってね!」
母はハイテンションで紅茶を淹れて二階へあがってきた。
部屋のドアは一応開けておいた。それがさらに好感度をアップさせたらしく、俺の見舞いにきたのに、母が一生懸命に話しかける図ができあがってしまった。
「そーう、坂井くんとおっしゃるのね! ユウとはどういう関係? もしかして彼氏?」
「あ……はい、そんなところです」
坂井は居心地が悪そうだ。
「ユウも隅に置けないわね! こんな素敵な彼氏がいるなんて!」
「お母さん、もういいからあっち行っといてよ」
俺がそう言うまで母は坂井に質問攻めをした。
母が降りていって、坂井は背伸びをした。
「ごめんね、お母さんハイテンションで……」
「どこの親も似たようなもんだよ。こないだミユキが彼氏を連れてきた時は……」
「えっ、待って。ミユキちゃんいつの間に彼氏できたの?」
「もう二ヶ月くらいになるんじゃないかな」
「私、そんな話全然聞いてない……」
「そうなの?」
「ミユキちゃんこないだお見舞いに来てくれた時も何も言わなかった……」
俺って友達じゃないの?
俺は突き落とされたような気分になる。
「まあ、それで、彼氏を連れてきた時なんだけど、両親揃って家にいたんだ」
「ふむ」
「そしたら母さんが質問攻めですごくてさ。父さんが止めてくれると思ったのに父さんまで便乗しちゃってさ。結構大変だったみたい」
「ふうん……」
これは次の塾ではミユキちゃんを質問攻めにせねばなるまい。
「ところで」
俺は話を変える。
「倒れたときに、夢を見たみたいなんだけど……」
俺は倒れたときに見たスイッチのような体験を話して聞かせる。
「で、それが何か意味があるんじゃないかって気になって……」
「それは夢だったんだよ、きっと。半分起きてる状態でいたからそんな風な感触があったんだよ」
「そうかなぁ……それにしてはやたらリアルだったんだけど……」
「頭を強くぶつけてるからね、記憶が混乱したのかもね」
坂井が言うならそうかなぁという気がする。
「マサユキがいてよかった」
「え?なんで?」
「自分一人だったらまだまだ悩んでたかもしれないし、苦しかったかも」
「俺でいいなら、いつでもそばにいるよ」
「マサユキ……」
「ユウ……」
キス直前にユキノが二階にあがってきていた。
「お姉ちゃん、そういうことはドアを閉めてからしてよねっ!」
と言ってユキノがドアをバタンと閉めた。
なんとなく気まずくなって、その日は帰ることになった。
その頃、バイト先ではユウスケが俺の出勤を今か今かと待ちわびていた。
あまりに長く出勤しないので、家まで来てしまったのだ。
俺の家から出ていく坂井にユウスケはガンを飛ばしたようだ。
というのも、二階から坂井の帰る姿を見送っていたからわかったのだが、二人はしばし、にらみあっていた。