友達から
「はぁ……」
と俺はため息をついた。
ミキちゃんがその様子を見て、どうしたの?と聞いてきた。
俺は今までの経緯をミキちゃんに話した。
「えー、それってなんか、ストーカー予備軍っぽい」
確かに、そんな感じだ。
ただ、見た目がいいことでそれを感じさせないところがあるが。
「これって坂井に相談すべきかなぁ」
「自力で敵わないと思うなら相談すべきじゃない?」
そっかぁ、自力で、かぁ。自力でなんとかしてみよう。根は悪い子じゃなさそうだし。
その日のバイトにもユウスケは現れた。
「あんた、部活とかしてないの?」
ジュースを買いに来たユウスケに尋ねる。
「ユウさんのために帰宅部になりました」
「ふぅん、帰宅部……って、えっ?」
「元々はバスケ部なんですけどね、今日やめてきました」
「なんで?」
「ユウさんを送るためですよ?」
「私はそこまで……あっ、いらっしゃいませー」
話はそこで中断。ユウスケ一時間おきにジュースを買いに来る。
「なんで私を送るのに部活やめるのよ」
「だって部活してたらこの時間とかに迎えにこれないし」
「私には彼氏が――い、いらっしゃいませ」
ユウスケは飽きもせずに俺の仕事っぷりを見つめている。なんだか恥ずかしい。
バイトが上がりの時間にはなぜか決まって自販機の前で待っている。
「ちょっと、いい加減にしてよ」
「お客様にそんな口のききかたしていいんですかー?」
「あんたなんか客じゃないし」
「今日も歩きで送っていい?」
「寧ろ送らないで欲しいです」
「そんな冷たいこと言わずに、ささっ、鍵、鍵」
いけないと思いつつも鍵を渡す俺。
自転車を押して歩きながら、ユウスケは今日1日あったことを話してくる。
今日は半日課外だったらしい。そういや、坂井も午前中は課外、午後は塾だ。俺のようにのんびり構えている受験生は数少ないだろう。
ま、一年生はいいよね、夢も希望もあってさ。
私が一年生だったら、一年生のうちから一生懸命勉強するけどな。
一年生以前の記憶がない俺は、密かに中学校の問題集からやり直していた。
今のところ勉強に差し障ることはないのだが、いざというときを考えると、やはりしておいたほうがいいのだろう。
俺だってちゃんと勉強してるんだぜ?
「私……私付き合う気はないからね!」
と言うと、ユウスケは
「まずは友達から、だよね?」
と言った。
「うーん」
確かに友達なら送ってもらっても差し障ることはないかな……友達としてなら、ユウスケは面白いし、歓迎だ。
そんなことを考えながら歩みを進める俺。
ユウスケは俺の速度に合わせてついてきてくれる。坂井がいなければ、完全にハートをいぬかれてしまっているだろう。
「まあ、友達ならいいかな……」
と言うと、喜んだユウスケは、ふ○っしーのようにジャンプして喜んだ。
そんなに嬉しいものなんだ……俺はほんの少し嬉しいような、そんな顔になった。
その笑顔をユウスケが見逃すはずはなく、
「やった! ユウさんが笑った!」
とさらにはしゃぎはじめた。
はたから見るとカップルでしかない俺たち。どんな風に見えているか気になった。
俺が坂井から離れないわけの一つに、坂井は俺が男だっていうことを知っている、ということがあった。
これは俺の中でも極めて重要なことであり、誰にでも話せる内容じゃなかった。
俺は孤独だった。前世の俺はカップラーメンが主食の、友達がいない孤高の存在だった。
誰も俺の存在を意識していなかったし、俺もできるだけ周りを意識しないように努力していた。
だから、俺は孤独だった。あの頃の俺はそれでもまあまあ幸せだった。
そんなことまで話を聞いてくれた坂井に俺は頭があがらなかったのだ。
8月のうだる暑さの中でユウスケ送ってもらいながら俺はそんなことをかんがえていた。