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母が残した1枚のタロットカードとネックレス

開業医で薬草マニアのメリッサと、その国のおっとり?王子のアルニカが出会い

ちょっと内向的な二人の行動が様々な人の心を動かしていくお話の始まり。


※A5縦読みの紙媒体からの移行作品の為、本文が特にスマホですと幅の関係で読みにくい場合がございます。申し訳ございません。

 澄みきった空気、穏やかな風、木漏れ日が差し込む木造の建物に小さな診療所を構える女性がいた。


 亜麻色の髪をひとまとめに結び、草色のコートを羽織り、無心に薬の様なものを調合している。


 女性の横には、それを見守る奇妙な生き物がいた。


「マンドレちゃん、ちょっと根っこの一部を分けてくれない?」

「うええー?メリッサ、昨日葉っぱの一部を分けてやったじゃんかよー」

「ちょっと違った実験をしたいのよ。報酬の聖水は倍にしておくから」

「……仕方ないなぁ、…ちょっとだけよ?」


 女性がマンドレちゃんと呼ぶその生き物は、いわゆるマンドレイクだった。通常の人間は恐怖し、それに近づく事がない植物だが何故かこのメリッサにやたらと懐いていた。


 メリッサがいつもの様にマンドレイクの根の一部を切り取ろうとした瞬間、突然バタンと診療所のドアが開かれた。


「メリッサねーちゃん!畑でローズマリーねーちゃんが転んで怪我したー!」


 勢いよく一人の少年が、赤紫色、ボブヘアーで快活そうな女性を引っ張り診療所に入ってきた。


「大したことないって言ってるでしょー?」

「また夢中になって収穫作業してたの?ローズマリー… 

この所夜通し作業してるでしょ!」


「同じく目の下にクマ作ってる薬草マニアのメリッサに、その言葉全部お返しするけど…?」


 メリッサは、屁理屈をこねるローズマリーを椅子に座らせると治療の準備を始めた。


「…姉が農業マニアで、妹が薬学マニア。似た者同士だよなー」


 マンドレイクがそうつぶやくと少年も横で一言つぶやいた。


「本当、血は繋がってないのにね」



 メリッサは水の様なものが入った小さな小瓶と、一枚の小さなカードを内ポケットから取り出すと、小瓶の水が突如、目の前で螺旋を描きだした。


 同時に水瓶を持った半透明なこの世の者とは思えない美しき女性がカードの中から現れ、水瓶から注がれ出た透明な水は小さな星の煌めきを放ちながらローズマリーの膝の傷口に絡まり怪我の箇所の泥と血を洗い流しだすと、あっという間に傷口が塞がれていった。


「さすがメリッサ~、ありがと!」


 傷が塞がるや否や、そのままローズマリーは立ち上がりまた畑へ戻ろうとした。


「捧げ物の時期が近いからってあまり無茶しちゃだめよ」


「今年は出来がいいから期待してて!捧げ物だけじゃなくて町の収穫祭も更に盛り上げられそうな量なのよ」


「ローズマリーねーちゃんの大鍋祭り、今年も僕手伝うよー!」


「俺は人間の食い物はいらねー、メリッサの作った聖水に浸かるだけでいーや」


 皆がわいわいと好き勝手に言う中、メリッサがややあきれ顔になっているのを見たローズマリーが突如真面目顔になり、耳元でささやいた。


「メリッサの所に来る、無茶ぶり納期調合依頼男の…、あれ、断れる様にしたいのよ。私がもっと稼いでみせるんだから」


 その言葉にメリッサはローズマリーの心遣いに気づき、笑顔を見せた。


「……ありがとう。ローズマリー」


「今日は私も仕事切り上げるから、それひと段落したらあっちに来てよね。

今年は短い時間になっちゃうけど」


 さわやかな笑顔に戻ったローズマリーが一言告げると、そのまま急ぎ足で少年とその場を後にした。




「確かにあの兄ちゃん、毎回高額で薬を購入してくれるけど、毎回効果がなかったって本当面倒だよなー?」


「大事な患者さんにそんな事言わないの!…私の力量が足りないだけだから」

 

 メリッサはマンドレイクをたしなめながら、薬の調合を再び始めた。


「そうだけどさー、あの兄ちゃん肝心の患者を連れてこないから、メリッサだって治療しようがないじゃん?」



 そのマンドレイクの言葉には一理あった。


 とある青年が病気を患った家族の為に薬を求めて時折メリッサの元へ訪れるが、患者の症状を聞いて処方をするだけの為、肝心の患者自身の細かな病状が分からない。


 メリッサ自身も内心は困っていた。今日も診療経歴の書類を見ながら1人、もやもやし始めた。


「患者さんは訳があってここには来られないっていうし、どうすれば少しでも快方に向かうのか…」


…もやもや~…。


「……あーもうっ!今日は休診日なんだし、ゼラニウム神父様の所に行こうか?マンドレちゃん!」


 メリッサはマンドレイクを小さな植木鉢に入れ、

他人に見られない様に鞄の中に入れると玄関前にクローズの札を掛け、育ての父であるゼラニウム神父の営む教会の方へと向かって行った。



 森の中にある家から、久しぶりに町に出てきたメリッサはお菓子や本、おもちゃ等を買い込むと先に教会の隣にある孤児院へ向かった。


 そこには事情で親がいない子供たちが預け育てられており、メリッサ、ローズマリーも元はここで育ち不自由なく健やかに成長ができた。育ての親のゼラニウム神父の人柄か、今も昔もこの孤児院は町ぐるみの協力が得られている。


「メリッサ…?」


 孤児院の入り口そばにいた小さな子供が先にメリッサが来た事に気が付いた。


「久しぶりね、皆!」


 メリッサがやってきた事に気づいた子供たちが、

次々と嬉しそうにメリッサのもとに集まり始めた。


「メリッサ!今年、俺学年で成績トップになったんだ!」

「メリッサ姉さま、この本全部読み終えました、また新しいお話教えて下さい!」

「メリッサねーちゃん、今日はマンドレちゃんも来てくれているの?」


 メリッサは周りを見渡し、子供たちだけである事を確認すると鞄の中からマンドレイクを取り出した。


「ふわー いい空気だ、鞄の中は息苦しくてしょうがないぞ」


「マンドレちゃん久しぶり~!」


 子供たちはメリッサの相棒マンドレイクに慣れていて、怖がる者がいない。同時に買い込んだお菓子をメリッサはテーブルいっぱいに並べ始めた。


「お菓子だ──────!」


 関心はマンドレイクから一瞬で、子供たちの興味はお菓子に移動してしまい、マンドレイクはジト目でお菓子を見ながらメリッサに愚痴を呟いた。


「…俺の一部から病気や怪我に役立っているってのにさあ」


「…甘いお薬が作れるように努力するわ」


 メリッサはマンドレイクから薬の原料をもらったばかりでバツが悪い空気に困りながら少し適当な約束を呟き、気を配ってみた。


 そんな中、子供たちの騒ぐ声に気付いたのか奥の部屋のドアが突然開いた。


「メリッサ、今日はまだ準備が…ローズマリーが奥で少し手こずっていてね」


 優しい声の持ち主、ライトグレーで長髪の上品そうな佇まいの男性が、調理器具を持ちながら現れた。


「ゼラニウム神父!」


 メリッサは神父の顔を見るや否や、子供の頃に戻った様な笑顔でゼラニウム神父へ抱き着いた。


「私、二人に会えるだけでいいんです、何もいらない」


 いつもと違う雰囲気のメリッサにゼラニウムか気が付き頭をなでた。


「何かありましたか?メリッサ」



…………



「……そうか、中々厄介な病気の相談を受けているのだね」


 ゼラニウム神父の書斎でメリッサはお茶を淹れてもらい、体を温めながら相談に乗ってもらった。

そしてその叶えられない事の悩みに意気消沈しているメリッサにゼラニウムは優しく説いた。


「今、君は出来る事の全てを捧げているのだから、気落ちしてはいけないですよ」


「ゼラニウム神父。メリッサが叶えてあげられていない仕事に、その兄ちゃんはメリッサへの報酬をとんでもない額支払って、またお願いして帰っていくんだ。数年は楽に暮らしていける額だぞ?逆にプレッシャー半端ないぞ!」


 共に生活するマンドレイクが細かな状況を加えて説明した。


「…うーん? 何故その青年は、メリッサにそこまで期待を寄せているのだろうね?」


「私もわかりません、この町には私より経験値が高い同業者がいるのに、そこには訪れていない様で…」


 三者頭を悩ます中、突然書斎の窓を叩く音がした。


「コリス急便でーす、お届け物です!」


 コリス急便という社名だが、大柄の突然変異したリスがこの国では荷物の宅配を行っている。

大柄なリスが頬袋の中から一つの小包をペッと吐き出し、ペンを取り出した。


「こちらにサインをください~」


 ゼラニウムが受け取りのサインをすると、大柄なリスは忙しそうな仕草をしながらあっという間に去っていってしまった。


 唾液で濡れた包みを開封し、ゼラニウムはメリッサにその中身のものを手渡した。


「今年もお母様からの誕生日プレゼントですよ。メリッサ」


 メリッサの母親は毎年誕生日に必ずプレゼントが届く様、事前手配をしているらしく幼少から住んでいたこの教会の孤児院の住所に届く様な仕組みを施しているらしい。


 無記名である為、最初は誰からのものか分からずにいたが毎年、同じ日に


「ハッピーバースデー メリッサ」


と書かれて届く為、母親からであるとわかったのだ。


 今年、十八歳となったメリッサの手の中には鮮やかな赤い宝石が煌めいていた。


「これはルベライト。所持者に活力を与えてくれる石だ。まるで今のメリッサの事が分かっている様なプレゼントだね」


 メリッサは贈られてきたルベライトを握りしめたまま黙っていた。


 メリッサが生まれ、母の顔を覚える事の出来ない、まだ赤子の自分をゼラニウムに託し姿を眩ましてしまった母親。


 おそらく自分が金銭的に衣食住に困らない様に、宝石を誕生日に届く様に手配してくれているのだろうとメリッサは思っていた。


…が、これがあるのならば、孤児院に頼らずとも

二人で暮らして行けたのではないかという疑問がメリッサの心に生まれてしまっていた。


「今年もメリッサママからプレゼント来たのね!よかった!」


 いつの間にかローズマリーがメリッサの真後ろに立ち、手に光る宝石を覗き込んでいた。


 複雑な顔をしているメリッサを横目に、ローズマリーが自分のポケットから一枚のカードを取り出した。


「これ、メリッサのお母さんが私にくれた太陽のタロットカード」

 

 そのカードは太陽の紋章と、無邪気な子供が描かれている。そしてメリッサも自分のポケットから一枚のカードを取り出した。


 メリッサのカードは星の紋章と女性の絵が描かれているカードだった。


 いわゆるタロットカード、この一枚ずつをメリッサと、当時ほぼ同時期に孤児院に預けられたローズマリーにもメリッサがの母が託していったものだった。


「当時、大量の金貨をここへ持ち込んでメリッサの事を託された時に、君のお母さんは私が丁度抱き抱えていた小さなローズマリーを見て、このカードをローズマリーに持たせてこう言ったんだ」


『この子は太陽の光に守られていますね。正しき穏やかな光を作り出す子です。』


 メリッサの母親は当時、ゼラニウム神父に一言二言娘には穏やかな一生を遂げて欲しいと、自分は一人でやるべき事がありそれには子供を連れていく事ができないのだと言う事を告げ、ただ「必ず戻ります」と言い残し、ゼラニウム神父もそれを信じ込んでしまいすぐ戻るものだと思い込んでしまった為、メリッサの母の名前すら分からなかった。


「このカード、すごいのよね。適切な時にお願いすると太陽の光の力をくれるの…。

野菜がぐんぐん育つ!」


 太陽のカードを掲げ、キラキラした瞳でローズマリーは鼻息荒くし、今日の収穫物をテーブルに載せた。


 そのキラキラとした笑顔のローズマリーを見てメリッサとゼラニウムは苦笑いを浮かべた。


「メリッサのお母さんは、そういう意味でローズマリーにそのカードを託した訳ではないかと思うけれど、とても良い使い方をしていると思いますよ」


 メリッサはそのゼラニウムの言葉に、ふと幼少の頃の出来事を思い出した。


………


 それぞれのタロットカードが自分達に魔法の様な力を使用出来ると知ったのは、ローズマリーが学校のクラスメイトと喧嘩になり、怒りの感情がピークとなった際だった。


 太陽のカードが突然灼熱の光を放ちローズマリーの意思とは関係なくクラスメイトに大やけどを負わせてしまった。


 青ざめ泣き出すローズマリーの横に一緒にいたメリッサにも、自分の持つ星のカードから自分の意思とは関係なく突然水瓶を持つ見た事がない美しい女性が目の前に現れ、そのクラスメイトの火傷を一瞬で治癒させてしまい、この時初めてお互いの持つカードの不思議な力に気付いたのだった。


 その後、人を傷つけてしまったローズマリーの心の傷も回復させていったのはメリッサの献身的な優しさだった。


 その経験からローズマリーとメリッサは相談しあい、密かに自分達の持つカードの力をコントロールする研究と修行を続ける事を試みた。


 やがてローズマリーは暖かな太陽の光でこの町の豊かな食物を作り続け、メリッサはその土壌に穏やかな水の恵みと生まれる草花から薬学研究の仕事に携わる様になっていた。


 もしも世界がいがみ合う環境であった場合は、この力と共に二人は争いの中に巻き込まれる形となったであろうが、平和なこの世の中の暮らしの中ではこうした形で役に立っていたのだった。


………



「さあ、私も今日は色んな料理を作ったのよ、皆も待っているし、主役に来てもらわなきゃね!」


 ローズマリーがメリッサの腕を引っ張り、皆の待つ部屋へ通すとささやかながらメリッサの十八回目の誕生日会が始まった。


 日が暮れるまで気心の知れた皆と久しぶりに楽しんだメリッサは気持ちよく自宅に帰宅し、そのまま穏やかな眠りについた。


………


 そして、またいつもの変わらない平凡な朝がやってきた。


「光・合・成―――――――――!」


 毎朝、マンドレイクの日の光浴びタイムの声が

メリッサの目覚まし代わりになっている。


 メリッサはまだぼんやりしていたが、手には母が送ってくれたルベライトが日の光を浴び、キラキラと綺麗に輝いていた。


 メリッサに、母親がおはようの挨拶をしてくれているかの様に。


………


 一通りの軽い食事等を済ますと、自宅兼仕事場のオープンの看板を掛けた。


 ここは町の中心部から少し離れた森の中で家賃が安く、あまり沢山の患者が来る事はないのだが、そのおかげで薬学の研究に没頭もでき、ローズマリーの農業の手助けなども行っている為に収入を得て、ある程度の暮らしが出来るようになっていた。


 そして、メリッサはふと例の法外な報酬を渡してくる青年の事を思い出した。

都度、断りで通常実費のみをとお願いをするが、勝手に口座に振り込まれてしまう。


 ボロボロの薬草学辞典をめくり、擦り切れた古い隣国等の情報書等とにらめっこし、研究の為にちょっと新しい書物購入に少し使っても…

いや、元々はないお金……。


 メリッサが一人でぶつぶつと呟いていると、午前中の患者が来院してきた為、慌てて口を閉ざした。



 メリッサの診療所にやってくる患者は様々な症状を訴える患者がいた。彼女を頼りに来る理由は、決して快方に向かうのが遅くともあれやこれや時間をかけても良くなる様にありとあらゆる方法を探し出し、根を上げない所にあった。


「おかげでだいぶ良くなってきたよ、町の医者に診てもらってもいまいちでなぁ~」

「そうね…、ドワーフと人間では、色々組み合わせが違う処方量なのが分かったから見比べるのが難しかったかもしれないわ」

「お前さんたちとは寿命も違うしなぁ」

「でも、代わりにドワーフ族の療法も教えてもらえたから、今後に役立てられるわ、有難う!」

「また故郷と行き来してっから、お前さんの興味がありそうなブツ持ってくるぜ」



「次の方、お待たせしました、どうぞ」



 小一時間経過…。


 メリッサの診察室の扉がなかなか開かず、次の患者たちが待ちぼうけを食らっていた。やっと出てきた少女はまた最後尾に回った。



(…この子、どうしたのかしら?)

(この子は時々通いに来ているのを見かけるけど、多分ね、恋煩いの診察みたい)

(えっ? そんな治療までできるの?メリッサ先生?)

(うふふ、時間が解決するまで、根気よく付き合うつもりみたいよ。そういうモノでしょ)


 人は(人以外も)何かしら生きている限り、身体にいろいろな支障を来たす。その膿を取り出すことが出来た時に何故かメリッサの頭の中がクリアになる。


 それがどうしてなのかがメリッサ自身にも分からなかったが、善意ではなく、とにかく自分の血が騒ぐのだった。


…………


 気が付くと今日も終わりの陽が傾きかけていた。診察終了の札を掛けようとした時、例の青年がメリッサの元に突然現れた。


「お久しぶりです、メリッサさん」


 入口からの西日に照らされた青年は、いつもと同じ穏やかな表情で立ち、漆黒の髪と、深い紫の瞳をこちらに覗かせていた。


「今日は閉めようかと思っていましたが、どうぞこちらにお掛けになって下さい」


 そう言いメリッサが背を向けたとたん、青年の背後から複数の騎士が入り込み突然メリッサを縛り上げた。


「⁉」

「乱暴にしないでくれ! 彼女は私の妻として迎える方だ!」


(……妻? えっ、私、誰かと間違えられてる…?)


 突然口も布で塞がれた為、声が出せない…。必死に縛られた体をよじり抵抗するが、押さえつけられてしまう。


「アルニカ王子、ネックレスをご確認下さい…!」


 一人の騎士がメリッサのつけていたネックレスを外し、アルニカ王子と呼ばれる青年に手渡した。


「このマーク、やはり一致しているか……」


 ネックレスの意匠を細かく見、裏にあるマークを手でなぞりながら青年は複雑な表情をしてつぶやいた。


(頭がクラクラする…これは、深眠(ふみん)(そう)の香り? 最近眠れないと言っていた彼に、私が以前処方した薬だ…… 


アルニカ? それが彼の本当の名前? 王子…?)


 顔を歪ませ、薬の睡眠をもたらす効果で視点が合わなくっているメリッサに複雑な表情をし、目線をそらせる青年。


「ただの町の薬師でいて欲しかった…、僕はただ……

ごめん、僕が気づかなければ良かったんだ…良かったのに…っ!」


 アルニカがただひたすら謝罪の言葉をつぶやく中、メリッサは自分の作り出した薬の効果で意識を失ってしまった。


 アルニカは意識を失ったメリッサを優しく抱き抱え立ち上がると、人に見つからない様素早く馬車に乗り込み夕闇の中へ走り去っていった。



…………




「ゼラニウム神父――――――――――――っ!」


 息も絶え絶えのマンドレイクが自力で教会へたどり着いたのは、翌朝だった。


 夜通し森の中を走り抜け、町の人間に見つからないルートで辿り着き葉も根っこも乾きに乾いた状態で教会裏手のゼラニウム神父の部屋の窓を叩いた。


「?」


 ゼラニウムは事情を聴きながら、カラカラのマンドレイクに聖水を身体中に浴びせた。


「ゼラニウム神父の聖水は、またメリッサの聖水と一味違って、味わい深いね…」


 マンドレイクが事情を話し終えた後、聖水の違いをまるで紅茶の風味の違いを語る様に鼻高々に語りだそうとしたが、ゼラニウムは聞く耳持たずマンドレイクを自分のローブ内ポケットに放り込むと、家を飛び出し走り出した。



 そのまま二人は全速力で同じく郊外にあるローズマリーの家へと辿り着いた。


「……!」


 部屋には誰もおらず、部屋の一部が焦げた香りがし、ローズマリーがカードの本来の力を開放したらしい抵抗した痕跡があった。


「うそだろ!? 狙われたのはメリッサだけじゃなくてローズマリーもなのか? どういう事なんだ…?」


 マンドレイクが混乱する中、ゼラニウムは床に落ちていた一つのボタンに気が付いた。


 それを見るや否や何かを把握した表情で、ゼラニウムはある場所を目掛け走り出した。


 マンドレイクは絶句した。


 ゼラニウムの怒りに満ちた顔を、…そして、内ポケットから見えた一枚のカードを目にして。


(……はあああああああっ? …『教皇』のカード…⁉)


始めまして、niwatocoニワトコです。

今回はずっと昔に頭に描いていたお話を少しずつ載せていこうとこちらをお借りしました。

もう少し先まで、もう紙版同人誌で出しておりますがどうぞゆるりとお楽しみいただければ幸いです。

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