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第08話:努力を嗤う悪魔は、完全削除させてくれ

『――Warning。物理デバイスの破壊を検知。緊急度(Severity)S。対象座標への強制割り込み処理を実行します』


 感情のないシステム音声が虚空に響いたかと思うと。

 スニークデビルの目の前の空間が、まるでバグったモニター画面のようにノイズ混じりに歪み、パチパチと青白い火花を散らして『弾け飛んだ』。


「……あァ?」


 爆風に思わず腕で顔を覆うスニークデビル。

 薄れゆくエイの視界の先に、仮面の奥でひどく不機嫌そうに目を細めた『師匠』が立っていた。


「……なんだ、ザコが追加かァ? お前ら、大して強くもねェくせに俺に歯向かってきやがってよォ。マジでアホだぜ、ギハハハッ!!」


 スニークデビルが下品に舌を出し、血まみれで倒れるエイを指差してせせら笑う。

 俺は、その挑発を完全に無視した。

 静かに歩み寄り、崩れ落ちたゴレマンの泥をそっと撫で、そして虫の息になっているエイの頭にポンと手を置く。


「……グラビットの三倍負荷をかけたまま、コイツとやり合ったのか。よく耐えたな、エイ」


「し、しょ……う……。もうし、わけ……」


 俺がゆっくりと立ち上がり、スニークデビルの方へと振り返る。

 その瞳の奥には、すべてを凍りつかせるような冷酷な『殺意』が渦巻いていた。


「……耳障りな笑いだ。一生懸命に努力した人間を、上から見下して笑う資格が、お前のような三流のマルウェアにあるのか?」


「あァ!? なんだテメェ、口の利き方が――」


「この世界から、削除する」


 俺はシステムコンソールを展開し、偽装プロテクトの全ロックを解除した。

 圧倒的な魔力が大気を震わせる。


「『月次魔法:神々の区画初期化ラグナ・フォーマット』、実行エンター


 俺の右手から極大の光の奔流が放たれた。


「あァ!? なんだその魔法なン――」


 悲鳴を上げる間も与えず、スニークデビルの上半身ごと、背後の森の木々を何キロにも渡って一直線に『消滅フォーマット』させた。

 圧倒的な光の渦の中で、エイの意識は完全に暗闇へと落ちていった。


   * * *


 静寂を取り戻した森の中で、俺は抉り取られた地形を見て小さく舌打ちをした。


「……やべー。怒りに任せてやり過ぎた」


 俺はため息をつきながら、血まみれで倒れているエイと、泥の塊に還元されたゴレマンを見下ろす。

 大の大人が、若者のひたむきな努力が笑われたことにキレてしまったのだ。


「熱くなり過ぎだな。これじゃ、コールドスタンバイじゃなく、ホットスタンバイじゃねぇか……」


 俺は自嘲気味に笑いながら、『日次魔法:自動継続回復リボルビングヒール』を展開し、二人にパッチを当てた。

 ついでに、エイの腕輪にグラビットの負荷を移行する設定変更コンフィグを済ませる。

 さらに、この更地になった異常な爆心地から彼らを切り離すため、元の路地裏へと強制移動テレポートを実施した。


 これで、俺たちの信念を揺るがすバグの火種は完全に消えたはずだ。

 俺は、深く眠り続ける表の人格――事なかれ主義で生きる『俺自身』のシステムログに、ひっそりとメッセージを追記した。


『大人になるために、波風を立てないよう前世でずっと押し殺し続けてきたから……嘘だらけのこの世界では、たまにはスカッとしてもいいよな?』


   * * *


「……はっ!?」


 エイが跳ね起きると、そこは元の路地裏の片隅だった。

 腹部の致命傷は完全に塞がっており、血の気も戻っている。

 隣を見ると、新品同様に再構築ビルドされたゴレマンが、心配そうに覗き込んでいた。


「ゴレマン……! よかった、お前も無事だったんだな……!」


 エイがゴレマンに抱きつこうとした時、足元に『新しい魔石』と『一枚の羊皮紙』が置かれていることに気がついた。

 震える手で羊皮紙を開く。


『魔石が破壊されたせいで、安眠が妨害された。そのため、絶対に壊れない仕様にアップデートしたぞ。お前が自らの意志で実行しない限り、今後は絶対に助けに行かないからな。それから、グラビットの重力は、お前の左手の腕輪に移行して固定しておいた。戦闘時は、その腕輪を外してリミッターを解除しろよ。……まあ、今回はよく頑張ったな。――モブオ』


 エイは自分の左手首にはめられた、腕輪を見つめた。

 これを外せば重力から解放され、もっと全力で戦える。師匠は、自分が気絶している間に、次のステップへ進めるよう環境をアップデートしてくれていたのだ。


「師匠……っ!! うっ、うああああああんっ!!」


 自分がどれほど偉大で、どれほど不器用で優しい人物に弟子入りできたのか。

 エイは手紙を胸に抱きしめ、路地裏に響き渡るほどの大声で、いつまでも歓喜と感謝の涙を流し続けたのだった。


   * * *


 その頃。王都の城内、最高級の調度品で整えられた一室にて。

 豪奢なソファに深々と腰掛けた美しい姫君が、苛立たしげにティーカップをテーブルに置いた。


「……遅い。これは、完全に忘れられている説すらあるわね」


 姫のぼやきに、背後に控えていた老齢の執事――じいやが困惑したように眉を下げる。


「姫様。勇者エイ殿の一行は、現在各地を巡って――」

「違うわよ、じいや」


 姫は不満げに唇を尖らせ、じいやの言葉を遮った。


「勇者エイ様じゃなかったのよ。あの絶望的な状況から私を救ってくれたのは、別の方なの」

「はて……? しかし、公式の記録では……」

「記録なんてどうでもいいの! ねえ、じいや。私ってそれなりに美人でスタイルも良いわよね?」

「は、はい。国中の誰もが認める類まれなる美貌とプロポーションであらせられますが……」

「でしょ? 私の魅力できっとすぐに迎えに来てくれると思って待っていたのに。……もう、待つのやめ!」


 姫はバサリとドレスの裾を翻し、勢いよく立ち上がった。その瞳には、獲物を狙う肉食獣のような強い光が宿っている。


「じい! 影を総動員して探して、私の本当の勇者を探し出すのよっ!」

「ひ、姫様!? 急にそのような無茶な――」


 事なかれ主義で平穏なスローライフを望むモブオの預かり知らぬところで。

 彼を巻き込む新たなる波乱バグの火種が、今まさに燃え上がろうとしていた。


(第一部完)

理不尽な悪魔をシステムごと削除し、ここに第一部が堂々の完結を迎えました。

ひとつの大きな節目までお付き合いいただき、心より感謝申し上げます。

第二部ではさらなる波乱が待ち受けております。

続きが気になる方は、ぜひ下部の『ポイント評価(☆☆☆☆☆)』を【★★★★★】にして応援いただけますと幸いです。

皆様の応援が、次なる物語を紡ぐ最大の原動力となります。

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