第03話:深夜の通知音は消してくれ
冷たい隙間風が吹き込む屋根裏部屋で、俺は至高の深い眠りについていた。
魔竜の討伐も、王女の救出も、全てはあの暇そうな村人改め『勇者エイ』に丸投げした。
これで俺の平和な3位ライフ(モブ生活)は完全に保障されたはずだった。
――ピロリンッ!
静寂を切り裂く、やけに軽快で甲高い電子音。
「……っ!?」
俺は心臓を跳ね上がらせ、弾かれたようにガバッと上体を起こした。
冷や汗が全身から噴き出す。
前世のブラックIT企業時代、深夜のシステム障害を知らせる憎きアラート音――『Sev-1(致命的障害)』を告げ、エンジニアの寿命と毛根を瞬時に削り取る、あの絶望の通知音と完全に同じ周波数だった。
荒い息を吐きながら周囲を見渡すが、ここは中世風のボロ宿だ。スマホもPCもあるはずがない。
だが、俺の視界の端で、半透明のシステムウィンドウが赤く点滅していた。
【システム通知:転生して1日目が経過しました! サービス向上のため、『異世転ログ』への★評価にご協力ください! 画面下の★を押すだけで完了します!】
「……マジでふざけんなよ」
俺はギリッと奥歯を噛み締めた。
よりにもよって、睡眠という俺の最大のアンタッチャブル領域を、こんなスパム広告まがいのプッシュ通知で邪魔するとは。
イライラしながら通知をスワイプして消そうとしたが、ふと俺の指が止まった。
「そういや、あのウザい女神……この世界は『異世転ログ』で総合評価★5の超優良世界だってドヤ顔で言ってたな」
実際に転生してみたら、初日から魔竜が王女を攫って空を飛んでいるような、セキュリティガバガバの危険地帯(クソ環境)だったというのに。
一体どんな奴らが、この世界を高評価しているんだ?
俺はシステムメニューからブラウザのような画面を立ち上げ、くだらない好奇心で『異世転ログ』のページを開いてみた。
【担当女神:ビジソの世界(総合評価:★5.00)】
「……あいつ、ビジソって名前だったのか。どれどれ」
俺は詳細なレビュースコアの項目に目を走らせた。
【無双のしやすさ】★5:「開始5分でレベル99! ストレスフリーで無双できます!」
【ヒロインのチョロさ】★5:「町で目が合った瞬間に彼女でした♥」
【飯の美味さ】★5:「塩と硬いパンが主流、現代知識で一攫千金が狙えます」
【魔王の倒しやすさ】★5:「魔王がポンコツ。即平和、スローライフ確定」
……おいおいおい。
思わず声に出してツッコミそうになった。
ヒロインのチョロさに至っては、完全に今日俺が体験したバグ(仕様)そのものじゃないか。
しかも飯の美味さの理由が「現代知識で一攫千金が狙えます(自炊前提)」って、それは店(世界)の評価じゃなくてユーザーのDIY能力の評価だろうが。
さらにスクロールすると、一番上に固定された「参考になったレビュー」が表示されていた。
『悪役令嬢なのに婚約破棄されませんでした! 毎日王子とイチャイチャしてます!(※20代・元会社員女性)』
『最弱モンスターに転生したのに余裕でした。異世界に来てから本気を出してます!(※30代・元自宅警備員男性)』
そして画面の下部には、これでもかとばかりにケバケバしい点滅で自己主張するバナー広告。
【今すぐ転生!『伝説の聖剣』100連ガチャ無料!】
「……この野郎。サクラばっかりじゃねぇか」
俺は冷たい目で画面を見つめた。
(だいたい、ここは剣と魔法の世界だろうが。悪役令嬢のレビュー用テンプレをコピペで誤爆してんじゃねぇよ)
文体、不自然なほど揃った★5、そして運営側の都合が見え透いたガチャのバナー。
前世でステマ(ステルスマーケティング)のコードを散々見せられてきた俺の目は誤魔化せない。これは100%、業者(女神)が金か権力を使って書かせた捏造レビューだ。
こんなシステムの評価すら業者が捏造しているパチもんの世界で、俺が安全なモブとして生き残るにはどうするか。
答えは簡単だ。システムが信用できないなら、現実の住人が管理するギルドに潜り込んで、『公式な底辺』としての身分(物理ステータス)を自ら確立すればいい。
俺は無言のまま、評価入力フォームのすべての項目をタップした。仕様と実態が全く合っていない、典型的な誇大広告(クソ案件)だ。
【無双のしやすさ】★1
【ヒロインのチョロさ】★1
【飯の美味さ】★1
【魔王の倒しやすさ】★1
そして、フリーコメント欄に致命的なバグ報告を一言だけ入力して、思い切り送信ボタンを叩き――ターンッ!――空中のウィンドウを強制終了させた。
『仕様と実態が乖離しすぎだ。それと俺の睡眠を邪魔すんな』
俺は再び毛布を頭から被り、深く重い眠りの海へと沈んでいった。
明日は朝一番で冒険者ギルドに行き、絶対に安全な偽装登録を済ませてやる。
【作者あとがき】
第03話をお読みいただきありがとうございます!
睡眠を邪魔された主人公が見たのは、
女神ビジソによるサクラ度100%のレビューサイト『異世転ログ』でした。
(※自炊前提で飯の美味さ★5は詐欺ですね)
この胡散臭い世界でモブの地位を確立するため、
次回、主人公はいよいよ冒険者ギルドへと向かいます!
もし少しでも『面白い!』『サクラレビューあるある!』と思っていただけたら、
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