第1話 ナマコ・タッチ
暖かな大地。どこまでも続く地平線。
気がつけば、僕は心地よい野原の真ん中に1人佇んでいた。
3億年ボタンを持った状態で。
僕の名前は、長内 陽。
先日、20歳になったばかりの僕は、水族館で彼女とのデートを楽しんでいた。
水族館の目玉といえば、タッチプールだろう。様々な海洋生物に触る事ができる。
僕達も、例外なくタッチプールを楽しんでいた。
しかし、多分あれは水族館側の手違いだったのだろう。その日、タッチプールの中には禍々しい色のナマコがいた。
恐らくではあるが、そのナマコは強力な神経毒を持っていたのだろう。
僕は、そのナマコを何回も押してしまい、噛みつかれた。その数時間後、救急搬送。
医療の甲斐も虚しく、死因:ナマコのタッチ 享年20歳男性となってしまった。
人生とはあっけないものだなぁ、と思いつつ。
僕は、あたりをきょろきょろと見回した。
一面真っ白な空間だ。死後の世界というのは、こんなに簡素なものなんだろうか。
しばらくぼーっとしていると、目の前に細い影が現れた。
その影を形作っていたのは、それはまるで、女神と呼ぶにふさわしいような美しい女性だった。
その人は言った。
「あなたには、こちらのボタンをお渡ししたいと思います。」
僕はボタンを受け取って、マジマジと眺める。
本当にお手本のようなボタンだ。土台は黒く、ボタンの部分は赤い。
「あの、色々聞きたい事はあるんですけど、ここは一体...?」
僕が喋るのを遮って、女神は喋り始めた。
「まず、あなたは死んでしまいました。そして、選ばれたのです!」
この女神の言っている事はあまりにも要領を得ない。それからも、断片的な女神のお話は続いた。
色々と聞いた上で、僕の現時点の状況を整理する。
簡単に言うと、僕は3億年ボタンを渡され、別の世界に飛ばされるらしい。
その世界で3億年ボタンを実装したいから、テストをしたいそうだ。
僕に課されたミッションは1つ。
異世界の住人達に、このボタンを押させる事。
なんて悪趣味な話なんだろう。
しかし、だからといって僕に拒否権は無い。
3億年ボタンを手渡されると、奥のゲートに案内された。とても発光した階段を登ってゲートを潜らないといけないらしい。
3億年ボタンをポッケにしまいつつ、僕はゲートを潜った。




