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ツイン・ハンターズ  作者: 神希
5.エピローグ
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エピローグ ~またの名を腐れ縁と言う~

「やぁっと休暇だぁぁぁ~っ!」


 ぼふんと自室のベッドに倒れこんだら、顔を見にきてくれた同僚におもいきり笑われてしまった。不快感はない。しかし少しばかり拗ねたい気分にはなる。リラックはまだ笑っている彼を横目で見やった。


「なんだよ。一ヶ月ぶりのまともな休みくらい、喜んだって罰は当たらないだろ?」

「いや、うん。それはそうだけどね。けど今の……ぷくくっ、苦手な宿題を終わらせたウチの子そっくりで……」


 調停官として働いているセネックス・シネラル──総帥直属であるため、例によって例のごとく二枚目だ──は、あと数ヶ月で三十歳である。十歳も離れていればそりゃあ子供に見えるだろうと理解はしていても、面白くないものは面白くない。リラックは眉間にしわを寄せた。


「悪かったな」

「だから、別に悪くないって言ってるのに……っ」


 セネックスはなおも笑い続けている。これだから笑い上戸は面倒だ。リラックはため息をつくと、話題を切り替えることにした。こういうときは仕事の話に限る。


「で、地球の後始末はどんな調子なんだ? 問題なさそうか?」

「あぁ、うん。大丈夫だよ」


 笑いを引っ込めてにっこりと笑うセネックスに、虚飾の色はない。


「マンションは君たちが壊す前の状態にしたから、何も気づかずに今日の工事に入ってるよ。レーゲに操られた人はみんな、怪我なし、後遺症もなし。記憶操作をしたうえで帰宅してもらった。泥酔状態でいつの間にか帰ってきたとでも思ってくれてるんじゃないかな」

「そうか」


 何も知らない人たちは何も知らないまま、普通の朝を迎えてくれている。もちろん忍も。これで一安心だ。本当の意味で休暇を満喫できる。

 リラックは改めてベッドに体を沈めた。伸びをひとつして脱力する。


「あ~、今回はいつにも増して本ッ当に疲れた……っ。絶対に一週間は仕事しないっ。ダラダラしまくってやるっ」

「ははは、お疲れ様って言ってあげたいところなんだけどねぇ」


 返った言葉に不穏なものを感じ、リラックは一瞬にして固まった。首を横に向ける。


「……何?」


 そこにあったのはいつもと変わりない──上戸に入りかけているセネックスの含み笑い。


「いやぁ、リラックにはもう一仕事残ってるんだ。頑張って」

「えっ?」


 反射的に飛び起きた、その背後。

 ベッドが自分以外の物体を受け止めて軋んだ。そして氷の粒を首筋に押し当てられるかのような錯覚が。

 ──そう。これは錯覚だ。知っている感覚だ。

 ひゅ、と音を立てて血の気が下がった。体が硬くなる。その肩に、頭を挟む形で背後から伸びてきた二本の腕。男物のスーツに包まれているその手が、きゅ、と可愛らしい仕草で抱きついてきた。


「はァ~い、リラックっ。七時間ぶりぃ~」


 そうしてこちらの顔を覗きこんできたのは……もはや説明不要だろう。ストレートロングの黒髪を揺らし、漆黒の瞳を笑みで細めた美少女、にしか見えない青年。


「あ、あ、あ、ああああああ葵ぃぃぃぃっ!?」

「うふん。再会をそんなに喜んでくれるなんて、あたし嬉しい~」

「誰が喜んでるかああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」


 理性をぷちんと切って、腕を振りほどきにかかる。


「なんでお前がこんなとこにいるんだっ!」

「ひどぉい。つれなぁい。あたしはリラックと一緒にいたいからリアンサスに入ったのにぃ」

「はっ入ったぁぁぁ!? いったいどういう……って、じゃれつくな! って! は・な・せ! って! ああああーもうっ、気色悪いことするなーっ!」

「照れちゃって……。ほ~んと面白いんだからっ」

「いい加減にしろーッ!」


 どうにかこうにか葵の腕から抜け出すことに成功すると、素早くベッドから降りた。腰を低くして、とっさに逃げられるように警戒する。一方の葵もまた片足の膝を立て、リラックに隙あらばいつでも抱きつく体勢だ。


「それでっ? なんでここに入ろうなんて思ったんだっ?」

「だぁって、暗殺よりこっちの仕事のほうが楽しいんだも~ん」

「楽しいかっ?」

「楽しいわよぉ? 何て言ったって、法律に引っかからないじゃない」

「~~~~~っ。理由はわかった。わかったことにする。だったらもうひとつ訊くけどなっ」


 びっ、と人差し指を葵に突きつけた。


「何でまたオカマの皮を被ってるんだっ! ここならわざわざ暗殺者の顔をカモフラージュする必要ないだろっ?」

「あら、言ったのに忘れちゃったの? 半分はあたしの、趣・味」


 ウインクつきの投げキッスで萎えた。


「お前なぁぁぁ……」

「うふふ。それじゃあ改めて、これから当分よろしくね~。仲良くしましょ」


 ──……戦士の勘が告げている。スルーしてはならない何かが、今の言葉に含まれていたと……。

 リラックは生唾を飲み込んだ。


「何だって……?」


 目の前の笑顔がさらに美しくほころび、そして、


「グローリィからの挑戦状じゃ」


 突如後ろから飛び込んできた声に驚き、振り返る。


「総帥っ」


 当然のようにまた葵に抱きつかれてしまったリラックは、腕をひっぱり外そうと試みながらも総帥に視線を回す。


「ちょ、挑戦状って何ですかっ?」

「文字通りじゃよ」


 美形二人がじゃれあっている様は見ていて楽しいのう、などとほざきながら扇子を揺らすガーデニア。


「そなたらは、よほど良い戦いをしたとみえる。奴め、妾に送ってきた覚悟せよとの警告文の中で、そなたら三人を名指ししておったよ。となると、葵一人を蚊帳の外に置いたままでは危険であろう? 妾が気を配るにも限界があるしのう」


 にーっこり。

 愛らしい笑みが怖い。


「そういうわけで、葵が気持ち良く了承してくれたため、本日付でリアンサスに加入してもらうこととなった。これでリラック・アグノリアのパートナーが務まるほどの能力者がいないという長年の問題も、無事解決じゃ!」


 高らかな笑い声。

 リラックはすっかり『お口あんぐり』状態だ。


(……じょ、冗談だろ……?)


 ぼやくなり、アグノリアが遠くのほうで吹き出した。


《あきらめればー? お前が口で勝てると思うかよ? てゆーか、なんで今まで気づかねえかなぁ。こういう展開になるのは目に見えてたじゃん》

(気づいてたんなら言えよ馬鹿っ!)

《だぁから、知ったところでお前に止められるわけねーだろ、って。まっ、いいんじゃね? 俺様としては、葵だったら大歓迎だぜ。面白ェ》


 けらけら笑っている彼は完全に、文字通り面白がる体勢だ。ガーデニアと葵は言わずもがなだし、セネックスはさっきから笑いすぎで撃沈状態。助けてくれるわけもない。リラックは一人、混乱の渦に蹴落とされ、うめく。


「なんで俺の周りにはこう、キワモノばっかり集まってくるんだ……?」


 葵がうふふーと悪戯心満載の笑い声を漏らしながら頬ずりしてくる。


「いやぁだ。同類が集まっただけじゃなぁい」


 ──涙、涙の、現実であった。






 はてさて、自称・常識人のリラックはこれからどうなっていくのやら。


「あぁ、平穏が欲しい」


 ……まぁ少なくとも、彼のささやかな望みはさくっと(つい)えそうである。──合掌。

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