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ツイン・ハンターズ  作者: 神希
4.終わらない賭け
15/18

終わらない賭け ~またの名を不運と言う~ -3

 葵が複雑な表情になった。


「…………多重人格者?」


 アグノリアとリラックから見れば、慣れた反応というやつだ。返す言葉も決まっている。


「正確なトコは違うが、似たようなもんだ。まっ、適当に納得しやがれ。呑気にお喋りしてたらバカ女が痺れ切らしそうだしな。それより総帥にもらった水晶球貸せ。結界魔法を仕込む」


 言いながら再び(くう)に指を走らせると、いぶかしみながらもすぐに水晶球を渡してくれた。触れただけでわかるほど完璧な結晶体に、思わず口笛が出る。


「さすがっ。いい魔法媒体じゃねーか。……借りるぜ、総帥っ」


 眼前に魔法が光となって現れた。


「させないわっ!」


 女が動くのが視界の端に映るのと、協力者である青年が動いたのは同時。


「ッ!」


 葵が手を前に突き出した。彼の周りだけ一気に体感気温が下がった錯覚。独特の空気振動。

 火花が散り、飛ぶ。

 女の意識は変わらずアグノリアにあるにも関わらず、葵の電撃がまたも見えない壁にぶつかって弾けた。

 やはりこの程度では足止めにもならない。葵には荷が重かったか……と思った直後、突如強烈な冷気が刺さった。アグノリアはもちろん荒事に慣れているリラックでさえも背筋を震わせるほどの鋭さは、極限まで研がれた理由のない悪意──感情が介在する余地のない純粋な殺意だ。

 女が手すりから降りた。

 そこへ新たな稲妻が敵の結界にぶつかった。激しいスパークがドーム状に広がる。


「っ!」


 雷光自体は結界に阻まれている。が、膨大な光量と衝撃が女を怯ませた。


「ナイス、葵!」


 女が足を止めた隙に、アグノリアは水晶と魔法の光を重ね合わせた。魔法が吸い込まれて消え、代わりに水晶がほのかに輝く。


「っし、成功!」


 すぐさま水晶球を葵に投げ返す。


「自動的にお前の周辺に結界を張るように設定した。転がってる奴らを集めて、中心で立ってろ」


 途端に葵が渋面になった。


「どこかほかの場所にテレポートして避難させれば、わざわざ護ってやる必要ないんじゃないのか?」

「グローリィに見つかるほうが早ェよ。離れたところで手出しされてまた人質に取られたらマジでアウトだぜ? だったら手元で護ったほうが確実だろ」


 反論はない。不満は残っていても納得できたのだろう。説得を終了し、アグノリアは視線を正面に戻した。


「さーてと。まずは大将をひっぱり出すか。……リー」


 敵に正対し、内側にいる相棒を呼ぶ。


「ちったぁ落ち着いたか?」

《充分だ》


 気合いの乗った返事に、笑みを漏らす。


「オッケー……。ンじゃあ、ひっさしぶりに大暴れするかっ」


 服の下から出すのは、水晶柱をトップにつけたペンダント。フックを開けて水晶をチェーンから外し、左手で握った。集中力を高め、リラックの精神とシンクロする。


「世界にたゆたう、十の顔を持ちし万物の精霊よ」


 意志と声を重ねて二人同時に唱えるのはひとつの呪文。


「我ら、ここに誓約の印を示さんっ」


 魔力の高まりとともに感覚が研ぎ澄まされていく。


「真理は(うち)にあり! 破壊と創造の杖よ、いざ、我らの手にッ!」


 アグノリアの左手から金色の光がほとばしった。拳から一直線に空を突き刺さんばかりに伸びた光はすぐに長さ一メートル程度に収縮し、板状になったところで変化を止める。長さ、形状、ともに、黄金色に輝く光の剣そのものだ。

 アグノリアは素早く腕を振った。魔法剣で自身の体を斬る。血が流れる代わりに、脳に負荷が掛かった。毛髪にまで神経が通ったようにピリピリする。ほんの少し動いただけで肌が空気に擦れて痛いほどだ。強烈な圧迫感で冷や汗が出る。が、高揚感と自信も煮えたぎって止まらない。世界に溢れる様々な事象が、可視不可視の区別なく、この手の中に感じる。


「ははっ……最高ッ」


 笑い、地を蹴り、走り出す。標的は動揺をさらしている女。


「行くぜ! ショータイムだっ!」


 結界めがけて光剣を振りかぶる。


「────っ!?」


 女が目を見張った。きっとアグノリアの体が吹き飛ぶと予想していたのだろう。あるいは激突音や火花などが出ると思ったか。しかしたいした衝撃も起こさず、剣の形だった光を左手を包むグローブに変化させて接触し、結界を見据えた。左手に集中し、水晶柱を介し、視る。

 ──強力な結界を構成している魔力属性は、土、空気、光。細かい編み目。弱点となるその中心は──


(ここだ!)


 アグノリアとリラック、二人の意思が重なる。

 水晶柱を左手から右手へ。

 持ち替えると同時に光をナイフへ変化。さらに風属性の魔力を水晶柱に流してリラックは、魔法剣を結界に突き立てた。


 ──ビキ……ッ!


 切っ先を中心にして入った結界の亀裂が音を立てて広がり、砕けた。女の姿が鮮明になる。近くで見るとますますグローリィに瓜二つの、恐怖で歪んだ顔。接近を拒んで伸ばされた右手。

 同情心などない。

 リラックは物理属性の魔力を水晶柱に流した。肩口めがけて振り下ろす──刹那、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。空中にスペルを刻む。

 魔法の発動。

 女の右腕が弾けてリラックは後方に吹き飛んだ。

 空中で体をひねり、着地。が、勢いでさらに後ろへ。葵が立っている場所まで押し戻された形だ。しかし()()()()()()()()()()()()防御魔法があったからこの程度で済んだのであって、なければダメージは免れなかっただろう。

 息をつく。


「サンキュー、アギ」


 感謝を告げたその口が、別の意思によって動く。


「ふふん、俺様が不覚を取るわきゃねーだろ。けど、気ィ抜くんじゃねーぞ?」

「わかってる」


 そこへ割り込んできた声は、盛大にいぶかしげな葵だ。


「アギ? ……リラックなのか?」


 今の自分は、ハタから見たら一人で会話している危ない奴だ。疑問や混乱は当然の反応。しかしあえて取り合わず、顔を正面に戻した。

 壊れた結界の中に立っている女は、許容量以上の魔法を使った代償として肘から先を失った己の右腕を押さえている。しかし表情は苦痛のそれではない。

 押し寄せる緊迫感。リラックは生唾を呑む。


「アギ、葵。……来るぞ」


 二人に向かって警告した、そのときだった。


「──……ふぅん。ルディを傷つけることができるなんてね。やるじゃないか」


 空中に撒き散らされたのは、男の声。


「僕は君たちを侮ってたみたいだ。悪かったね」

「グローリィ」


 女──ルディがうつむき、甘えるように呼ぶ。


「どうしてグローリィが謝るの? ボクのグローリィが間違ってるわけがないのに」

「いいんだよ、ルディ。認めてやる価値はある。……あぁそうさ。僕自ら手を下す価値はある。ルディを壊していいのは僕だけなのに、こんなひどい傷をつけたんだから」


 直後、びきびきと異音が響き始めた。音源は明らかにルディの体だ。なのに彼女は苦痛などいっさい見せずに目を輝かせ、シャツをはだける。

 月明かりにさらされた褐色の肌。その腹部が、ぱりん、と割れた。

 薄い断面。

 真っ暗な空洞の内部。

 そこから突き出す一本の腕。

 ルディという()()()()()を砕きつつ、人間が姿を現す。

 肩口で揃えられた白髪と水色の瞳を持つ、褐色の肌の青年。

 犯罪組織グラディウスのトップ。

 『人形使い』の異名を持つ者──。

 首領グローリィ・オーサが、美貌をほころばせて降り立った。


「本当に、油断なんてするものじゃないね。一面のレーゲ畑で、密をワイングラスに注いでさ、おいしいものを食べながらたっぷり愉しもうと思ってたのに台無しだよ。ねぇ? ルディ」


 グローリィが散らばった陶器の破片の上に落ちたルディの頭部を優しく拾い上げ、口付ける。自身と同じ顔の動かない人形にディープキスを繰り返す様は、嗜好は人それぞれだという言葉をもってすら受け付けられない異様さがあった。生理的に拒絶してしまう何かが。

 リラックとアグノリアは揃って喉を詰まらせる。

 が、その横でため息をつく強者が一名。


「えげつない」


 グローリィの動きと表情が止まった。ゆっくりと振り返る。


「失礼なことを言うね」


 褐色の肌に、微笑によって覗いた歯が細く浮かぶ。


「こんなにも美しい顔を愛さずにいられるなんて、君こそ頭がおかしいんじゃないか?」


 対し、葵もまた歯を見せて笑う。


「おかしくて結構。自分の生首にキスするなんていうナルシストな上にネクロフィリア趣味を持つ気はさらさらないからな。そんなに自分大好きなら一生鏡に張り付いてろよ。そうすれば世界が平和になって万々歳だろうさ。変態なら変態らしく陰でこそこそやってろ、カス」


 グローリィのこめかみが引きつった。


「この美しい僕をごみくず扱いするなんて、いい度胸だね」

「ハッ! カスをカスと言って何が悪い? 見た目だけのカッスカスが粋がるなよ」


 葵の嘲笑は絶好調だ。……横で聞いているこっちのほうが、いろんな意味で空恐ろしい……。しかしリラックの冷や汗など知らん顔で、葵は派手に鼻で笑う。


「恐ろしくプライドの高い、強烈なナルシスト、ね……。確かにガーデニアに聞いてた通りだな。おかげで動きやすかったよ。ちょっと挑発の言葉をいじるだけで、こっちに手出しできなくなるんだから笑える」

「……、君に言われたくはないね」


 機嫌が悪くなる一方だったはずのグローリィが、眉を上げた。


「まんまとルディに気をとられて、僕の気配を見失ったくせに」

「…………っ」


 形勢逆転。

 若干他人事の気分で「あーあ」などと胸中で嘆息していたら、


「それに、むしろ変態はそっちじゃないか」


 不意打ちが来た。


破壊(カオス)創造(ロウ)、相反する魔法系統を両方とも最上位まで極めた天才がリアンサスにいるっていう噂は聞いてたけど……、よく言うよ。ただの反則技じゃないか」


 ぴたりとリラックに合わされた、侮蔑の笑み。


「それ、生まれつきのものじゃないだろ。ひとつの肉体にふたつの魂を定着させるなんて正気? 発狂願望があるとしか思えないんだけど」


 ぴきっ、とアグノリアの心が苛立ちの音を鳴らす。


「うっせー! てめーにとやかく言われる筋合いだけはねーよっ!」


 ──庇われた。

 こいつはこういう奴だ……。呆れとこそばゆさとで苦笑するとリラックは、冷静さを取り戻してアグノリアを制した。言うべき台詞を口にする。


「悪いが、俺は無駄話が好きじゃない。──グラディウス首領、グローリィ・オーサ。お前を全世界から消去する。覚悟してもらうぞ」

「堅物だね」


 ルディの頭部が一瞬にして風化、消滅した。


「まぁいいだろう。たまには相手をしてやるのも悪くない」


 呪文も陣も使わずにそれをおこなった男は、リラックたちを見据えてあでやかに嗤う。


「格の違いってものを、教えてあげるよ」


 巨悪がついに牙を剥いた。

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