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自殺幇助、やっていました  作者: Huyumi
第一章
4/22

1-4 想貫

 夢乃が話すだけ聞いてくれるものだから、ついついあるだけのネタを語り尽くしていたらすっかりと夕日が隠れ始めていた。

 慌てて目指す最後の目的地はバー。

 普段は居酒屋等しか入った事が無く、少し高級感溢れるこのような店を何時(いつ)も良いと思っていたのだ。

 手馴れていない背伸びした私を夢乃は無言で汲み取り、こちらの注文を店員の代わりに受け取ってウエイターへと何やら小難しい呪文のような言葉で伝えていた。

 ロックやストレート、ステアなど。それぞれの意味こそはわかるが、今自分が求めている物をすらすらと組み合わせ、それを噛まずに伝えられる自信は無かった。


「あまり酔わないように気をつけてくださいね」


「一応尋ねますが何故でしょうか?」


 店内には他の客も居る。

 ただ建物の構造や仕切り、あとは絶妙な音量で流されている音楽のせいか、何かを話している事には気づけるが、何を話しているかまでは聞き取れない。それは恐らく逆の立場でも同じなのだろう。


「まともに思考も回らない状態で死なれてはこちらが困ります」


「これ一杯だけにしておきますね」


「はい」


 実際何が困るのかはわからなかったが、元よりあまり飲むつもりはなくて最後にここへと立ち寄った。

 夜の帳も落ち始めた頃、最後のお店で最後の酒。昼食は腹が空いていたので食べる事にしたが、今はあまり食べる必要は無いようなのでやめておいた。

 食欲が無いわけでは無く、別に食べようと思えば何でも食べられるだろうが、どうにも率先して食べたいものが思いつかなかったのだ。


 ……これで、最期だ。

 このバーを出たら、事前に取り決めていた手筈で夢乃に手伝ってもらい私は私の生を終わらせる。

 今日一日で少しでも躊躇いが生まれるかと杞憂していたが、意外にも私の心は朝家を出た時よりも強く固まっていた。別に夢乃がそう(たぶら)かしたわけでもないのに。


「……」


「……」


 無言で今という時を呑む。

 私が喋れないからか、夢乃も口を開かない。

 例えお腹が空いていようともつまみを頼まない。クライアントである私が頼まないからだろう。別に一人だけ食事を摂っても私は何とも思わないはずだが、わざわざ彼女なりの仕事の流儀に口を開いて気を遣うつもりもなかった。


 一日を思い返してみれば不思議な物だった。

 彼女との交流は酷く単純かつ特殊とも言える。

 問いかけ、答え。尋ねられ、応じて。

 そんな、質疑応答の繰り返し。優れた人工無能を鍛えるように、あるいは壊れた人工有能でもあればこのような反応になるのだろう。

 メールでやり取りを交わしていた際には職業柄だと思っていたが、実際に顔を合わせてからも彼女は些細な問題ですらわざわざこちらへと真摯に向き合って尋ねる。

 本来ならば共感を促すような些細な身振りを、夢乃は一々食べ物ならばそれは美味しいですか? と尋ねる。

 歩いていれば疲れていませんか、何か広告でも見たらあれはどう思いますか、と。同じ体験をしているのだから単に自分はこう思う、そう伝えれば自然と話題はそちらへと向き私の本意引き出せるだろうに。


 それも何かしら彼女のルールの一つなのだろうか。

 夢乃の客は自殺志願者でなければならない。

 そのクライアントは手段等に応じた報酬を支払わなければならない。

 報酬は顔を合わせてから半金、もう半額は終わりの前と二つに分ける事。

 クライアントは最後の日を夢乃と共に過ごさなければならない。


 不可解な点を考えてみれば、更に不可解な点は浮き彫りになるばかりだ。

 質疑応答が繰り返される最後という今日の日。

 単純に仕事を終えるのであればさほど長い時間を取る必要はなかった、それこそ朝から日付が変わる前後までを一日に指定する必要などどこにもない。

 そして実際に会った夢乃が何をするのかと言えば、目立った自己主張も無くただ傍に寄り添うだけ。

 自殺に追い立てるわけでもなく、自殺から引き離すわけでもなく。

 私が休日一日過ごすかも知れないような時間に立ち会い、そこに一体何があるのかというのか?


 そんな、疑問があった。

 けれど不快感は無く、むしろ気味が悪いとも言ってしまえる夢乃と過ごす時間に心地良さを感じている感覚がある。


「次、とおっしゃいましたね」


「……?」


 安らかな静寂を破ったのは意外にも夢乃だった。

 まるで夢に、熱い病魔にうなされるようなおぼろげな瞳で私を見据える。


「先程、次と。

えぇと、今ここに居る私達は次に移るまでの一時的な、隔絶された存在に過ぎないと。喫茶店で、本を読み終えた後の会話で」


「そう、ですよね。そう言った気がします」


 彼女がテーブルにグラスを置いたせいか、私が手で撫でるだけであまり量の減っていないグラスの氷がシャランと揺れた。


常世(とこよ)から幽世(かくりよ)へ、幽世(かくりよ)から次へ……杉原さんは、次に"なに"を見ていますか?」


 一度生を授かった人間は、生きているか死んでいるか二つの状態しか存在しない。

 それを先ほど私は、生と死の挟間に幽世(かくりよ)という移ろいつつある場所と軽い気持ちでも定めた。

 そうした中間地点から、次へ移動するのならば当然死しかそこには存在しない。突き詰めると夢乃の問いは私にとって死とは何なのか、そう尋ねている事になる。

 天国か地獄か。あるいは何もない、か。

 無信仰者である私には無という答えが一番適切だと思ったが、そうなると次と発言した己の意と食い違う。

 無は無だ。次を感じる間もなくどこかへ落ちて、私という存在は消えて無くなる。そうした場所へ移動する事を、次と形容するのは不適切だと私は思う。


 なれば、地獄だろうか?

 悪い事をした人間は地獄に落ちる。自殺を選んだ人間も地獄へ行く。

 宗教に詳しくなくとも、教科書に乗っているような物語から一般教養によりそういった常識を植え付けられている自覚がある。

 気づけば一番適切だろう無という答えは己の言動から滅されており、地獄、そう答えようとして。


「希死念慮という考えはご存知でしょうか?」


「あぁえっと、はい……。

死ねば楽になる、死んだほうが幸せだ、そう思う気持ちですよね」


 人がようやく答えを出そうとしたのに、この女は新しい問いでそれを覆い隠しやがって……と少し暴力的な思考になるが我慢。

 まごつきながらも脳の奥から引っ張り出してきた記憶でそれらしい答えを投げかける。


「杉原さんは、死を選べば救われるとお思いですか?」


「……」


 ――。

 ――――それは。

 それは、杉原健一という男で出来た支柱を叩かれたような衝撃だった。

 夢乃は今になって死を食い止めようとそのような問いをぶつけたわけじゃない。

 むしろ逆だ。私が死を望む、死因を今まで探りに探って、思い出させるために、忘れたまま死を選ばないために。


「あの単行本」


「はい」


「発売が決定した時、嬉しかったと同時にそれ以上に哀しかったんです」


「……はい」


 脳裏を埋め尽くすのは一つの世界。

 夢乃に語ってみせた、日の目を浴びなかった作品の一つ。

 彼女が何故か興味を示し、私が一番熱心に語る事になった物語――今ならその理由が判る。


「どうしてこの世界が世間に求められて、どうしてあの世界が世間に受け入れられないのか」


 大量に用意されたネタの中、一番プロットを書き溜めて、一番愛情を込めて、それでも商業化に繋がらなかった水子。


「せっかくヒットしたのに、好きな作品で食っていけないのが納得いかなかったですか?」


「そんなわけないじゃないですかっ」


 静かに咆えた。

 もう私にはわかっていた、きっと夢乃も既にわかっていてそう尋ねた。

 脳裏を埋め尽くす一つの世界。ならば、視界を覆い、ゆっくりと頬を伝うのは水子の欠片達。


「生きていくためには稼がなければならない。

その仕事が漫画家だろうが、他のアルバイトだろうが、一日の大部分を占めるその時間の分だけ――私はあの世界から離れてしまう」


 そんな。


「それがどうしようもなく嫌だった。

日に日に私の中ではあの世界への愛情が、執着が、妄執が膨れ上がって止まらなくて、書籍化されるためにネタを研ぎ澄まされている時間さえ、あの世界に使いたかった。

呼吸をするのもあの世界で、食事を摂るのもあの食べ物で、それなのに私が生きている世界はここで。何かをする度に私は理想郷から隔絶を実感する、生きるためには生きる分だけあの世界から遠ざからなければならない」


 そんな純粋さ(・・・・・・)私には無い(・・・・・)


 慟哭はそれで止んだのだろう。

 嗚咽を堪えるまでも無く、火照った体をゆっくりと冷ましながら、彼は私から差し出されたハンカチを優しく断りながら自前のハンカチを取り出して涙を拭う。


「いきましょう、夢乃さん」


「わかりました」


 ほとんど飲まれる事の無かった杉原の酒が、すっかりと氷を溶かして味を薄くして放置されるのを確認し私達はバーを後にした。





「ここです」


「ここに決めた理由は何かあるのですか?」


「今思うと、少しだけ木々の景色があの世界を思い返させます」


 杉原の先導で辿り着いたのは一つの公園。

 待ち合わせていた場所よりは規模が大きく、少し離れた場所には昼間子供達がはしゃぎまわる大きな遊具も存在する。

 これは事前に一人で確認済みだ。

 メールであらかじめ希望の場所を伝えられ私は一人で下見をしていた。

 監視カメラは無く、人々の夜間のランニングゾーンに当たるわけでもない。ホームレスが公園の隅には居るが、かなり遠く気配や声はおろか、光さえも気取られる場所ではない。


「最終確認です」


「えぇ」


 何度も繰り返してきた、終わりのルール。


「杉原さん、あなたは生きたいですか?」


「いいえ」


 彼は基本的に目を逸らさなかった、今でもそうだ。

 出会った時から少し不思議だった。これほどまでに死へと惹かれているにも関わらず、人の目に怯える事無く目を見て対話する強さは何処から来るのかと。


「死にたいです。

これ以上、あの世界が私から遠くなる前に」


 答えは単純だ。

 彼は一つの世界を追い求める事に関しては人の何倍も強かった、それがこの世界では無かったことが何より不幸とも言えるのだが。


「では約束の後金を」


「これです」


「確認しますね、少々お待ちを」


 頼りない灯りの下で紙幣を数えながら、念のため杉原が変な気を起こさないように気を張るが彼の意識はとうにここには無かった。


「確かに。では始めますね」


 バッグへ受け取った封筒をしまいつつ、代わりに取り出したのは幾つかの薬品を小分けしたプラスチックの容器。

 詳しく調べられれば幾つか法に反するものが含まれている事がわかるだろうが、例えこの状況で荷物確認を行われても常服薬と言い逃れできる程度には取り繕っている。


「これが、例の?」


「はい。いわゆる麻痺毒ですね。

臓器不全に陥り、嘔吐や呼吸困難に繋がり、最終的には意識が朦朧としつつ呼吸不全で死に至ります」


「丸薬なんですね」


 作家の気質なのか、死を直前にしても好奇心を抑えられないらしい。


「民間で致死性のある毒を入手するのはそう難しくは無いのですが、カプセルや錠剤に加工するのは少し難しくて。

すみません、こんな成りだと口に含むには少し抵抗がありますよね」


「あぁいえ、少し気になっただけで。それに見た目が変わろうとも、既に覚悟した身としては毒も薬も、食べ物も異物も変わらないというか」


 言われてみればそうかと内心自嘲する。


「苦痛はどれ程ですか?」


「そればかりはなんとも……なにぶん私自身こうして毒物を生み出しながらも摂取した事は無いので」


 現状対処方法の見つかっていない麻痺毒だ。

 少量ならば救急で運ばれながらも自然治癒で耐えるかも知れないが、流石に試せない上に量が違うとなれば実際にこうして用意した物がどのような症状をもたらすのかは人の様を見てしか確認できない。


「ただ今まで見て来た経験と知識から想像するに、意識を失うまでは酷い二日酔い程度で済むと思われます。

それとこちらの錠剤が睡眠薬と鎮痛剤。あとアルコールもあるので、これらを摂取してから時間を見計らいそちらの丸薬を飲めば、ある程度の苦痛は誤魔化す事ができると思います」


「とても準備が良いのですね。有り難いですがどれも結構です、私にはこれだけで」


「そうですか」


 劣化を少しでも抑えるため、空気を抜いたビニールで隔離された丸薬をひらひらと杉原は笑う。

 その心内(こころうち)がどういう意図を持つかはわからないが、まぁ本人の意思で使わないというのであればその分費用が浮いて楽……程度だった。


 どうせ態勢を崩してしまうので、ベンチには座らず背中を何かに預けて膝を抱えるようにうずくまるか、いっそのこと草の(しげ)る地面に背中を預ける事をお勧めすると、杉原はベンチを覆うため屋根を支える柱に体重を預けて、霞んでいる夜空を見上げる。


「夢乃さん」


「えぇ」


「死後の世界について話しましたよね。

天国か地獄があるのか、あるいは何も無いのか。

もう一つよく聞く話があって、死ぬ瞬間の時間を永遠に引き延ばされる、みたいなこともよく聞きますよね」


 例えば飛び降り自殺の時、接地する瞬間が何分にも感じるとか。

 例えば車で致命的な事故にあう時、ゆっくりと崩壊していく愛車を見ているだとか。

 根拠のない話ではない。

 極限状態に陥った時、人は危機から脱するため集中し体内時間を何倍にも伸ばすし、後から思い出してみれば極端に良い思い出や悪い思い出は鮮明に、かつとても長い物だったと記憶しやすい。


「私はどうせならばという僅かな期待ですが、それに賭けながら死ぬことにします。

死ぬ瞬間まで、あるいは意識を失う瞬間まで、私はあの世界を想い続ける。そうすることで本当にあの世界に囚われるかも知れない」


「……そうだと、いいですね」


 有り得ない話ではないが、現実的ではない。衝動的ではない計画された自殺ならば尚更だ。

 ただ私の口から出たのは手向けとして送られた聞こえの良い言葉。

 杉原は視線を交わさず、杉原は夜空を少しじっと見つめる。

 珍しい事ではない。

 どれだけ死を受け入れようとも、今から死ぬとなれば相応の覚悟や思い出の想起が伴うものだ。

 故に、待つ。

 もはや導火線に火は点けられた。そう長く無い時で人と言う殻を爆ぜる必要がある。最後の確認を反故にするようならば、私は最後覚悟した彼の意思に従い再び死へと向き合わせる。例えそれが今の彼が望んでいない強引な行為だったとしても。


「夢破れる事は死よりも恐ろしい事だと思い知りました」


 夜空を見上げたまま、彼はポツリと呟いた。


「……何故ですか?

死は絶対的な無の象徴です。再起の希望も、敗してなお存在する日々の幸福すらそこにはありません」


「あなたには、夢が無いんですね」


「……」


 あざ笑うでもなく、乾いたものでもなく、ただ微笑ましそうに優しく笑う杉原に私はギュッと拳を握る。

 その言葉は何よりも的を射ていた。


「夢とは生涯を賭して叶えたいものです。

生き物として与えられた生存への執着ではなく、人間が自我を持ち価値観を築き――そこでようやく手にした、何よりも優先すべき目標なのです。

それこそ死してなお叶えたいほどに」


 その想いはあまりにも純粋過ぎて。

 純粋過ぎて、純粋過ぎて、過ぎて、過ぎ去り……人として至ってはいけない場所まで至っているのがわかった。

 純粋さにより人間性が狂っていると、人間という器が壊れていると言い換えてもいい。

 ならば彼の行いは真っ当だ。人として誤っているとしても、常人じゃたどり着けない場所に居て、持ち得ぬ物を持ち得ているのだとしたら、その有様は真っ当なのだ。

 杉原健一という人間だった存在が、これから何を真っ先に行えば良いのかという問いには私でも答えがわかる。

 人間という殻を壊さなければならない。変化を願う感情は、過去の自分を捨て去る意気込みは、自殺となんら変わりは無い。

 杉原健一で在り続けるためには、例えそれが世間一般で言う自殺だったとしても殻/限界を破り、産声/断末魔を上げ、全てを終わらせ/始め、何もかもに線引き隔絶せねば彼は今までと同じように何もできないままではないか。



 思い出す。


『私には少々思う所のある名ですね』


 夢乃在処という名前を名乗った際、彼が見せた反応を。


『そうでしょうね。

この名を聞く多くの人はそう思うに違いない。

それこそ私と関わり合いがない人だとしても』


 それに対して返した言葉は偽りを含んでいたとも言える。

 この名を聞くたびに、この名を名乗るたびに、私は様々な事を思い悩む。



「ありがとう。本当に、ありがとうございました。

きっと私一人では踏み切れなかった、きっと私だけでは本当に大切な物に気づけないまま死んでいた」


 二度送られた感謝の言葉に、私は言葉を忘れ、呼吸をする事すら慎重になった。

 既に渡した薬を口元に運ぶのが見えたからだ。彼の死に際に、彼の言う世界の一部ではない私が混ざり込んではいけない。

 興奮か恐怖か。僅かに震えながらも水により嚥下された丸薬に、俯いてまるで見えない暴力に堪えるよう時折体を動かす杉原。


 彼には一体どれだけ演技が見透かされていたのだろうか。

 受けの良いよう作った笑顔、相手に合わせた態度、そして死ぬ間際に送った何気ないリップサービス。

 聡明な人だった。

 自身が世間から見れば狂っていると自覚しそれを隠し、創作で食っていけるだけの才能と実力も秘めていた。

 好きな物のためならばと別の仕事を増やす事も躊躇わず、人の心情を汲み取る観察眼や想像力も備えていた。

 そんな人が死ぬ。己が抱いた純粋さ、世界に殺される。


 一度強い痛みでも体を襲ったのか、それとも意識を失ったタイミングなのか。

 びくりと体を震わせてから、今まで少しずつ揺れていた体の様子が変わっていく。

 幽世(かくりよ)から死へと。肉体は肉塊へ。

 少し体を脈動させているのは懸命にもがいて酸素を得ている結果なのか、既に死して生理現象として肉が動いているだけなのか。


 今この瞬間がどうだろうが結果は変わりなどしない。

 彼は死ぬと決めて、実際に行動も起こして見せた。

 今更治療しても間に合わない。すぐさま病院に運ぼうが、物理的な距離のせいで胃洗浄や血清すら間に合わず死に至る。


 現状を確認し、私は背を見せて歩き出す。

 その様子に今日一日見せていた僅かな愛想すら今は感じさせなかっただろう。

 どこまでも無感情に、無機質に、無意味に。

 ただ夢乃在処という存在はそこに在るだけ。



 夢乃は去る。

 一仕事終えたにしては足取りは重く、人一人の死に携わったにしては軽く。

 それが彼女の常だと、見るものにはそう思わせただろう。

 ただ足音は、杉原が生きていたら聞こえただろう場所までは殺して歩いた。

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