たかがハローワーク
求職申込書と引き換えに手に入れたハローワークカードは、ただの紙だった。
私の人生は、「たかが」を「されど」が打ち消すだけの人生だった。たかが学校、たかが先生、たかが友達、たかが彼女、たかが仕事、たかがハローワーク。そんなふうに思えたら、難儀な人生を送る必要は無かったのかも知れない。
職業訓練の窓口で私を待ち構えていた女性職員は、美人だった。
三十年間、女性と縁のない人生を送ってきたとはいえ、私も男なのである。男性職員よりも女性職員の方が嬉しいし、不美人よりも美人の方が有り難い。
美人職員は職業訓練校に入校するまでの流れを分かり易く説明してくれた。正直、担当職員が彼女でよかった。実は、隣の窓口は高齢の男性職員が担当しているのだが、雰囲気が怖いのだ。絵に描いたような「ハローワークの職員」なのである。
本当に怖い事は「わからないこと」だ。私は「わからないこと」を堂々と質問できるような性格ではない。高齢の男性職員に対して質問できない事も、妙齢の美人職員には質問する事ができるかもしれない。彼女は、はじめてのハローワークで緊張している私に安心感を与えてくれた。
職業訓練校に入校するには、入学願書を提出して面接を受けなければならない。競争率は決して低くない。民間なら六万円、訓練校なら無料なのである。
私は複数の訓練校の中から、「イマカルチャー」という施設の介護職員初任者研修に応募する事を決めた。職業訓練校への通学は公共交通機関の利用が原則である。他の訓練校は最寄りの駅から徒歩五分程で通学できる施設ばかり。しかし、「イマカルチャー」の場合は駅からバスで十分。職業訓練校としては異例の自動車通学が許可されていた。私は、運転免許を持っていない。しかし、交通の便が悪いなら応募者も少ないに違いない。
最後に、職業訓練受講給付金の説明を受けた。支給要件を満たしていれば、月額十万円の手当が貰えるらしい。
私は、支給要件を満たしていた。月八万円以上の収入も無いし、月二十五万円以上の世帯収入も無い。三百万円以上の金融資産も無いし、土地や建物も所有していない。全ての訓練実施日に出席する事ができれば、月額十万円の職業訓練受講手当を受給できる。
訓練期間の二か月間、私は、職業訓練受講給付金に苦しめられる事になる。




